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第6話 移るとき 中編

今日はきっと6月31日……はい、違いますよね。


次早めとか言いながら、遅くなりまことに申し訳ありません。


しかも、後編のはずが中編に……思ったより長くなり、書き終わりませんでした。



 食事を終らせた4人はこれからのことを考え始めることにした。

 おもに、晴杜の問題について、倖茂と栞里の結婚について、店の売り上げについてだ



 ……………



「まず、晴杜くんのことね。8月2日の午後2時前ぐらいにいなくなって、今が4日の午後1時過ぎね。まだ、戻ってきてないわ。ご近所さんたちも手が空いたときに森を見てくれてるけど、何も見つかって無いらしいわ。」

「伝承によると、3日経つと戻れないんだっけ?」

「そうね。あと1日ぐらいしか猶予はないけど、栞里と倖茂くんの時と同じで私たちは何もできることはないの」


「それって、俺たちが小学生の時の?」

「あ、そうだ。倖茂くんは覚えてないのよね。あなたたちの場合はいなくなった次の日に戻ってきてくれたけど、それまでは探し回るくらいしかできなかったのよ」

「そうだったんですか……」


「でも、あの子のことだから、お米が食べられなかったらすぐに帰ってきそうだけどね」

「確かに晴杜ならそうかも」


 穂摘親子は不安を押し込むように笑いながら話す。

 それを見て倖茂は覚悟を決めて切り出す。


「あの、俺たちが居なくなったときのことを詳しく教えて下さい」

「っ!、でもゆっくん。また頭痛で倒れるかも……」

「それでも、聞かなきゃいけない。晴杜を助けるためのヒントがあるかも知れないだろ?」


 栞里は少し戸惑うが諦めて口を開く。


「……あのね、多分ゆっくんが記憶を無くしたのは私の"ちから"の影響なんだ。これ以上ゆっくんを私のせいで苦しませたくないから……」

「……そうなのか?大怪我をした影響だと思ってたんだけど」

「栞里ちゃんは倖茂を護るために"ちから"を使ったのよ。大怪我をして、心もボロボロになっちゃった倖茂をね」


 倖茂は衝撃を受ける。今まで護りたいと思っていた人に護られていたのは自分の方だったのだ。

 なんでそんなことをさせてしまっていたのかと、締め付けられるような思いが襲って来る。


 だが倖茂は、すぐにそれを振り払う。


「栞里、今まで俺を護ってくれてありがとう」

「……やっぱり記憶を消すような人と一緒にいたくないよね」

「っ!?違う、違う。俺は今とっても嬉しいんだ!」


 倖茂は栞里の手をやさしく握る。


「……え?」

「だって、俺の好きな人が俺を護ってくれてたんだ。俺は栞里を護ることを栞里に申し訳なくなんて思って欲しくない。だから俺も申し訳ないなんて思わずに感謝したんだ。それに、俺の好きな人が改めて素敵な人なんだって思えた。俺がやりたいことを先にやられちゃったのはちょっと悔しいけどね」


「で、でも……」

「でもじゃないよ。あと目標が増えた。『今までの15年間を取り戻すこと』平均寿命が80歳だからあと60年くらいあるだろ?4倍も時間があるんだからさらに25倍で100倍は栞里を幸せに……いや二人で幸せにならないとな。これからが楽しみで仕方ないからすごく嬉しいんだよ」


 しばらくポカンとしていた栞里だったが、少し顔をほのかに赤らめて涙を少し溜めながら笑う。


「……そうだよね。大事なのはこれからだよね。なんか今までのことがバカらしくなっちゃった。……私も素敵なゆっくんが、だっ、大好きだよ」

「ありがとう……しーちゃん」

「……ゆっくん」


 甘ったるい空気が漂わせながら、二人だけの空間を形成している。

 そして、いまにも唇が触れそうだという時に紗枝が咳払いをする。


「うっうん、そういうことは二人きりの時にしなさい」

「「うわあぁ、ごめんなさい」」

「あら、もう少しだったのに」


 若者二人は、顔を赤くしながら少し離れる。華澄は残念そうだ。


「別に謝らなくてもいいけど。今は二人が”あっち”に行った時の話をするんでしょ」

「わ、分かった。じゃあ話すね。ゆっくん」

「あ、ああ。頼む」


「辛くなったら言ってね」

「無理はしない、栞里も辛いだろうからゆっくり話してくれ」

「うん」


 栞里は目を閉じて深呼吸してから、倖茂を目を見て話し出す。


「あれは、私たちが小学2年生のときのお父さんが癌で死んじゃって1か月ぐらいの丁度今ぐらいの時期だったかな……」



 …… …… ……



 今から15年前の8月8日の13時くらい、穂摘栞里は道端にうずくまっていた。


「おとーさんに……会いたいよう」


 栞里のお父さん、穂摘政紀(まさのり)は1か月前に癌によって亡くなってしまった。

 幼い彼女には大好きだった父親がいなくなってしまったことは耐え難いものであった。

 今までは、小さい弟のためにお姉ちゃんがしっかりしなきゃと必死に耐えていたが、限界が来てしまった。


 きっかけは、朝に見た夢だった。父親が何もなかったように帰ってきて、前のように普通に遊ぶ夢。

 目が覚めたときにそれが現実でないと気付き、激しい喪失感に襲われた。


 彼女は母親にお父さんに会いたいと泣きついたが、母親は抱きしめてもう会えないの、と言うだけだった。

 彼女もそんなことは分かっていたが、我慢が出来なかった。

 朝食のあと母親にばれないように家を出た栞里は行く当てもなく歩いた。


 もちろん何が起きるでもなく、すぐに歩き疲れて座り込んでしまった。


「しーちゃん、だいじょーぶ?おなか痛い?」


 彼女の目の前に現れたのは、森倖茂だった。


「ううん、おなかは痛くないよ。でも、ゆっくんなんでここにいるの?」

「よかった。あのね、おばさんが電話で、しーちゃんがお昼ごはんに帰って来ないって聞いてたから探しにきたんだ」

「うん……」


「どうして、いえで?したの?」

「おとーさんに会いたかったの……でもどこに行けばいいか、わかんないぃ。うぅぅ」


 栞里は、倖茂に抱き付きたまっていた感情をすべて流し出すように泣いた。

 倖茂はどうすればいいかわからず、とりあえず頭を撫でて考えていた。

 しばらくして、栞里が落ち着いたところで倖茂は彼女にある提案をする。


「しーちゃん、てんごくに行ってみよう!」

「えっ?」



 …………



 倖茂と栞里は森の前までやってきた。入ったら化け物のいる”あっち”へと迷い込んでしまうという隠しが森である。


 二人は一度彼の家である商店に帰って、彼の母に彼女が見つかったと連絡してもらい、ついでにお昼ごはんを食べた。


 あの森があるのは彼と彼女の家のちょうど真ん中あたりであるため、家に送ると言って森へと向かう。


「ゆっくん、お父さんホントに”あっち”にいるのかな?」

「きっと会えるよ、”あっち”はてんごくなんだって聞いたもん」

「でもわたしは、おばけがいるじごくだって聞いたよ。おばけこわいからやめようよ」


「だいじょーぶだって、おばけなんかぶっとばしてやるから。だからいっしょにおじさん探しに行こ」

「うん……お父さんに会えるかな」


 倖茂は栞里を促すように森の中を進んでいく5分くらい歩いたところで二人のまわりに霧が立ち込め始める。


「ゆっくん、これって」

「うん天国に行けそうだね」


 だんだん濃くなる霧の中をしばらく進む。少年は地面の様子を少しでもみようと下を見て歩く。

 少女は初めはお父さんに会いたい気持ちで必死に歩いていたが、お化け、もとい伝承の妖怪に怯えてついに泣き出してしまう。


「うぅ……もう帰ろう!お化け怖いぃ!」

「だいじょーぶ。しーちゃんはオレが守るから!」


 少年は少女の手を取り、笑いかけてまた進み始める。

 少女は力強く手を引かれつつ、なぜか怖さが薄れて行くことに気付き、首をかしげている。


 霧が晴れてきた。そこは、見慣れた日本にある植物とは似ても似つかない樹木の生える森であった。


「ゆ、ゆっくん。大丈夫かな?帰れなくなったりしないよね?」

「だいじょーぶだよ。おじさん見つけたら帰りみち教えてもらおう」

「うん……」


 道がわからないため、とりあえず真っ直ぐに進んでいたが、いつまでたっても人がいる場所に着く気配がしない。



 …………



 そのまま数時間がたち、辺りは赤く染まっている。


 少女はとっくに疲れて動けなくなっており、少年に背負われている。


 二人は途中で不安になり、自分達の来たと思われる方向に引き返したのだが、どこが最初の場所も分からなくなってしまった


「お腹すいた……」

「そうだね……」


 もうすぐ晩ごはんの時間も近くなり、二人は軽い空腹を感じ始めている。

 食べられそうな木の実は見かけてはいるが、見たことのない色や形のため、採るのをやめておいた。


 いよいよ暗くなり始めたので、二人は眠れるような安全なところを探した。



 …………



 また、しばらく歩いたところで高さ2~3メートルの苔むした大きな岩を見つけた。

 その岩は少し角ばっていて台形を逆さにしたような形だったが、すぐ隣にバネのような形の木が生えていたのでそれを伝って登ることができた。


 そのままでは眠れないだろうということで、倖茂は近くに生えている雑草を適当に集めて岩の上に運び、布団代わりにした。


 そうこうしているうちに完全に暗くなり、空にやけに青っぽく大きな月のようなものがいつの間にか現れていた。


 月のおかげで開けたところは少し明るいが、森の奥は完全に暗闇のため二人は眠ることにした。

 栞里はお化けを怖がり、倖茂にくっついて目をつむっていたが、疲れからかすぐに眠りにつく。彼もそれに合わせるように眠った。



 …………


[ガサガサッ]

『『グルルゥ……』』


 真夜中、倖茂は物音に目を覚ます。草をかき分けるような音、二つの唸り声。

 少年は驚いてガバッと起き上がり、くっついていた少女も体を起こして目をこする。


 少年は音のした方向に見る。そこに見えたのは4つの光。

 少女もそれに気付き、小さな悲鳴をあげ少年くっつく。


 月明かりに照らされて見えたその姿は大型犬を一回り小さくしたくらいの狼のような頭の生物だった。

 しかしその生物は一目で地球の狼とは違うと分かる。頭が2つあるためだ。


 その2つ頭の狼、もとい伝承での山犬は二対、合計4つの目を少年らに向け、襲い懸かるタイミングを伺っている。


 少年は恐怖を覚えた。空腹の野生動物の目に宿る殺意に、生まれて初めて死を感じた。

 しかし少年は、自分の手を掴んでいる少女が震えているのを感じ、我に帰る。


(オレが連れて来ちゃったんだから、オレがどうにかしないと!)


 山犬が現れた方向はバネの木の反対側だったため、倖茂はあることを思いつき栞里に言う。


「オレがオトリになるからその間に逃げて!」

「え、待ってゆっくん!」


 少女が止める間もなく少年は狼に向いて右に岩から飛び降り、少しよろけつつも走る。

 山犬の2つの頭は少女と少年をそれぞれで見ていたが、数秒悩むようにして、両方が少年を見て駆け出す。


 ほんの数秒であったため10メートルと少し程度しか離れていない。山犬はすぐに少年に迫る。

 迫る山犬を顔を向け確認し、少年は頭だけでなく振り返り叫んだ。

 山犬はジャンプし、右頭は外側に倒され少年の首へ、左頭はそのまま、肩へと口を開く。


「しーちゃんはオレが守る!!」

『『ガァッ!!』』


 その瞬間、倖茂は体の奥から暖かな何かが溢れてくるのを感じた。



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