7話.「円卓」
時はシエルが酒場のある町へと辿り着く一時間程前に遡る。
大広間に大理石で作られた円型の巨大なテーブルが置かれており奥に王、そして彼を囲うようにして上層部及び調査員が座っていた。
物々しい雰囲気が室内を埋めつくし調査員が何やらファイルの様なものを鞄から取りだし机に広げる。そして机の中央に置かれた「音声映像出力スフィア」によりある映像が写し出され、調査員が口を開いた。
「魔力データの整合性が取れました。実行犯は我が国の人間でございます」
どよめきが起こる。だがその中で至って冷静な顔をしていたものと予想が的中し深刻な顔をしていたものが居た。前者がメラスタリアス、後者がブルーインである。
「魔力の性質からして主属性、副属性の比率がデータ登録時とは異なるものの98%、ほぼ正確に整合する者は―――。勇者として魔王討伐に乗り出した男、シエル・ティンバーレイクです」
中央に映像にはシエルの顔写真と個人情報が映し出される。そして王が口を開いた。
「そうか……ご苦労だった。君達はもう下がりたまえ」
「はっ」
促され、調査員がその場から立ち去る。それと同時に上層部の一人である赤髪の女性がメラスタリアスに対して声を荒げた。
「これは一体どう言うことだメラスタリアス将軍! 貴様は奴を排除したのではなかったのか!!!」
他の者もやや不満そうな顔で彼を見つめる。王は表情からしてどうやら恐怖しているようであり体が震えていた。
だがそんな事を意にも介さずメラスタリアスは言った。
「……私は星々の終焉で七人を葬る計画通りに実行したまでのことだ。私の魔力不足でこんな事態に陥ったわけでは無いさ。そもそも責任があるとすればそうだな……。奴等を殺すのに不完全な魔法を開発した魔法開発部に言いたまえよ」
それを聞き魔法開発部のトップであるカインズが答えた。
「何だと!我等を愚弄するかメラスタリアス!!!」
「愚弄するもなにも事実を言ったまでだ。現在この国で最高の魔力を持った者は私だ。そして君等の行ったシミュレーションでは私が星々の終焉を放った場合、100%の格率で勇者達を葬れると結果が出た筈だ。私は忘れていないぞ、何なら今その結果を記録したスフィアを出しても良い」
「なっ……。だが貴様が本気で殺しに掛からなかった可能性も―――」
「これだから馬鹿は。君達は私に持たせた『魔法出力計測器』の存在を忘れているのか?魔法を使った場合、その威力と術者の使用した魔力数値がパーセンテージ表記、誤差0.01%以下で表示し、記録すると共に国へデータを自動送信すると言う代物だ。それを君達も見ただろう?私は全力で、彼等を殺しに掛かったさ」
そう言い放つメラスタリアスに対してカインズは口を閉ざす。この計画に穴があった場合、その原因は確実に魔法開発部にあると感じたからである。
これ以上墓穴を掘ればそれこそ全ての責任を自分達に負わせられるかもしれない。今は余計な事を喋らず、このまま沈黙してしまうのが得策だと感じていたのだ。
「さて、まあそんなことはどうでもいい。……そういえばフィフス・フォースの人間が惨たらしく殺されたのは北の荒野だったな……。魔王の城からはかなり離れている場ではいあるもののその後、中部地方にかなり近い北のとある町で目撃が確認されている。その事から私が思うに―――」
「彼は彼が、この国へ向けて歩みを進めていると思うのだが」
その一言を聞きブルーイン以外のほぼ全ての人間の目が見開かれる。勇者が、この国を目指している―――。
生き残った彼がフィフス・フォースを殺した事、魔王城から離れた北の町で目撃がされた―――。この事から仲間を殺し、自らをも殺そうとした国に対しての復讐心を彼が抱いていることが充分に明らかだったからだ。
やがて、王が口を開く。
「し、して……どうすれば良いと思う皆の衆……」
震え声でそう呟く。だがその言葉に答えるものはいない。ただ一人、メラスタリアスを除いては。
「どうするもなにも……。王はお忘れですか?我が国がエンデリオン最大の、最強の軍国家だと言うことを。」
少し誇らしげにそう答える彼の口角は僅かに上がっている。ブルーインには彼には何かしらの思惑があるように感じられた。
「勇者が我が国に仇なすと言うのならば迎え撃てば良いのです。オラクル国には強力な人材が吐いて捨てるほどおります。私とてこの国で最強の一角であることを自負しております。皆が力を合わせればたった一人の若造如き葬るのは造作も無いことでは?」
そんな、力を会わせるなどと心にも無いことを彼は言い放つ。
「迎え撃つ……具体的には、どうやって?」
「その点については私に考えがある。王よ、現在軍の全指揮権及び最終指揮権は貴方にあります。それをどうか、私に譲渡していただけないでしょうか。」
場に緊張が走る。もしこれが実現した場合、実質この国の全ての権力をメラスタリアスが握ってしまうことになるからだ。当然、内心反対する者も居たであろう。
だが、現状の打開策を誰も思い付かぬ状況では現在国で最強の魔法の使い手である彼に全てを委ねるしか方法が無かった。そして、その考えは王も同じであった。
「よ、よし。分かったぞ、メラスタリアス。君にオラクル国軍の全指揮権を譲渡しよう! 必ず、奴を葬りたまえ!」
それを聞き、メラスタリアスは頷く。邪な笑みを隠しながら。
「―――分かりました。我が国に仇なす逆賊の息の根を、今度こそ止めてみせましょう」
そう言い放ったメラスタリアスに対して、ブルーインは言い様の無い不安を隠せずにいた。