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されど勇者は復讐を。  作者: りべら
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4話.「いつか見た景色」


 「シエルさん! 朝ですよ!!」

 

 シエルの頬を叩きながら声を掛かけた人物の名前を彼を知っていた。

 

 ハウル・ブルガリアス、援術魔法と呼ばれる仲間のあらゆる行動を援護する魔法のエキスパート。

 

 金髪の女子のショートカットの様に男にしては長く伸びた髪と幼さが残るその顔つきから行く先々でよく女性と勘違いされているが彼はれっきとした男である。

 

 シエルは上体を起こし、辺りを見渡す。ここは海辺に面した森の中だ。彼等は昨日ここで一夜を野宿と言う形で過ごした。

 

 シエルが使っていた寝袋には地面に接していた為か所々に土やら葉が付着しておりそれを払い落としてから持ち運びやすい様に畳む。寝袋を含め、旅の荷物を持つと彼等の風貌は勇者と言うよりかはまるで登山家ではあるがこの世界で旅を続ける者達にとってはポピュラーなスタイルではあるし、対した重さでも無いので誰も気にしてはいなかった。

 

 唯一の弱点と言えば移動する際に多少動きづらいことが挙げられるがそれすらも特に煩わしいとは彼等は感じていなかった。

 

 ふと、横を見る。昨晩の焚き火の後は既に鎮火されているようだ。火を消す先に砂でもかけたのだろうか、そこに残るは炎によって黒く変貌した砂を被る墨のみである。

 

 視界に映る他の五人は既に各々で朝食を済ませたようでここを立つために荷物を纏めていた。

 

 「ほら、シエルの分のご飯だよ」

 

 リヴがそう言いながら朝食を差し出す。

 

 紙で作られた器の中には昨日の残り物と思われる食材が入っており木材のフォーク共にシエルはそれを受け取った。

 

 旅をする際にはこういったすぐに捨てられるような簡易性の、簡単な造りで尚且つ軽い素材の食器が望ましい。

 

 リヴはシエルが朝食を平らげるをの待っているようだ。彼に朝食を手渡した後でも側について離れない。荷物は既に纏め終わっているようでリュックサックの横にはゴミを入れる為の袋が置いてあるのみである。

 

 この袋は旅をする際に出たゴミを入れており行く先々の町でその場にあるゴミを捨てる施設へとこの袋を置いて行く。

 

 これを実行しているのは七人の中でも一番の綺麗好き、それを通り越して最早潔癖性との呼び声が高いヴィル・セスタニアスである。

 

 かつてノーセ・シャネリアと言うシエルの後方で森の木々を眺めている少女が「ゴミは土にでも埋めておけば良いのでは?」と提案したところ「例えどこに居ようと国で教わったルールは遵守べきだ。」と敢えなく却下された。

 

 潔癖症の筈の彼がゴミを持ち歩くと言うのは見る者からすると大変おかしな光景ではあるが町から町へと辿り着く日数はどれだけ長くとも二日から三日程度であり匂いも対して気にならない上に何より言い出しっぺである本人が率先してそれを持ち歩くので特に文句を口にするものは居なかった。

 

 もっともシエルの意見はどちらかと言えばノーセ寄りなのだが。

 

 シエルが朝食を食べ終わり、食器をリヴに差し出すと彼女は袋へと入れた。するとすぐにヴィルがやってきて袋の口を絞めると手に持った。行動が早いなと彼は心の中で思う。

 

 既にシエルとリヴとヴィル以外の四人人は荷物を背負い、次なる町への道程を相談しているようだった。彼等の後に続く為、三人も荷物を持ち、立ち上がった。

 

 そして、次に向かう町は―――。

 

 果たして、どこだったか。

 

 

 ▼▼▼▼▼

 

 

 「……夢か。」

 

 他人から見れば果てしなくどうでも良いような、かつての仲間と共に歩んだ旅の記憶の欠片を彼は寝ている間に見ていたようだ。何も無い天上を眺める。ここはある町の宿屋の一室。

 

 室内には、誰も居ない。

 

 一人が宿泊するには充分な広さを持つこの部屋は彼には少々広すぎた。そして、シエルには先程見た夢がとても懐かしく思えていた。また、そんな日々は二度と戻ってこないのだと同時に感じ虚しさを覚えた。

 

 雨が降るのだろうか、窓から覗く空模様は曇っており、青の一つも見えず何処までも広がるのは曇天のみである。

 

 昨日、宿屋の看板娘らしき女が言っていた「明日は雨が降るかもしれませんよ」という一言を思い出し、ここを去る際には傘をここで購入してからにようとシエルは決めた。

 

 仲間が居なくなってから一週間が経った。彼は未だ広すぎるエンデリオン大陸の北部すら出ていない。

 

 先を急がねば、そう思いながら彼は身支度を始めた。

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