3話.「王座」
勇者を抹殺すべく実行した策の成功は既にオラクル国に伝わっていた。
豪華な造りのシャンデリアと飾られた最高級の名画、棚に置かれた陶器が目を引き、室内は赤を基調とした造りのオラクル国、王の間。
その一番奥に設置された玉座に座る肥満気味の男がオラクル国国王、『ゼッケンドルフ・アインハート』である。
玉座から真っ直ぐ伸びた赤絨毯を挟み総勢二十人の国家上層部が互いに向かい合うようにして整列している。その中には、メラスタリアスも居た。
「さて、勇者抹殺の策についてだが……。良くやった、メラスタリアス将軍。大義であるぞ」
男性が発するものにしては少々高めに感じる声色でゼッケンドルフは言った。その表情は心底嬉しそうであり勇者の死を快く思っている様だった。
「凝縮にございます、国王。此度の策は見事に成功し、魔王と勇者は共に亡き者となりました。これで我が国に並ぶ者は居なくなります。―――これで王の長年の夢、世界統治が、一気に近づいたのではないかと」
「うむ、これで遂に我が国も安泰だ。余の夢も遂に叶う。世界を統べる本当の王に余はなり、この国を更に発展させて見せようぞ!」
高笑いしながら隣の召使いが用意したワイングラスを手に持ち、口につける。それを一気に飲み干したかと思うと再び王は口を開いた。
「して、星々の終焉と共に開発していた『N-9 cpX』の具合はどうかね?」
それについては右方向、前から三番目に立つ黒髪の白ローブを羽織った男『カインズ・シュターゲン』が答えた。
「はっ。既にN-9 cpXの開発は既に終了し、完成しております。後はあれをどう活用するかですが……」
「ほほう、そうかそうか。ならば良いのじゃ。あれはまだ眠らせておけ、その内また使う日がであろう」
満足げに満面の笑みを広げる王の顔は脂ぎっており、日々の不摂生が目に見えて分かるようであった。
「さて、特に本日の召集について話すことは以上だ。既に告知しておる通り、今晩は世界統治への第一段階が成功した記念に下の大広間にて宴を開く。18時には、全員がその場に集合するように。では、解散じゃ」
王が言い放ち、全員がその場から去ろうとした時であった。室内の大扉が大きな音を発て、慌ただしく開き一人の兵士が入ってきた。
「王の御前で無礼であるぞ!」
上層部の一人である赤髪の女が叫ぶ。
兵士は第一声に申し訳ございませんと叫びながら続きを放った。
「ご報告致します!我が国へ召集された魔法騎士団の内、第二部隊『フィフス・フォース』の内、十人が北部の荒野にて何者かと交戦し、壊滅!」
「……なっ!?」
壊滅と言うことはそれは即ち死亡したと言うこと。第二部隊とは言え、世界最高峰の実力を持つ魔法騎士団の十人が逝去した事はこの場に居る全員にとって衝撃であった。
「魔法騎士団と交戦した者の行方は?」
王が問う。
「それが掴めておりません。依然逃走中です。そして、その現場を発見した者の話によると―――」
「全員がかなり高度な闇魔法と剣技によって殺されており、死体の損傷が激しいとのことです。……そして、それを実行したのは恐らく、一人では無いかと。」
メラスタリアスはそれを聞き、目を見開く。
―――まさか。
運命の歯車は今、音を発てながら動き始めていた。