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されど勇者は復讐を。  作者: りべら
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1話.「You Shall die.」

ここは魔法世界エンデリオン、最北端に位置する最果ての地 『ディブロ』。

ここに城を構え、世界を我が手中に収めるべく人々を蹂躙する存在である魔王。そして、世界に平和をもたらす為、魔王を討つべく立ち上がった七人の勇者達の戦いが魔王城にて繰り広げられていた。

 

 歪なる形状をした赤の月が、広い城内を照らし出す。


紫の呪炎が蝋燭台に灯され怪しく揺れ動き、幾重にも重なる上位魔法の激音が響き渡る。あらゆる生命の中で、最上級の力を持つ者だけがここに立つことを許されるこの場に正に今、人々の愚の象徴が飛び込まんとしていた。

 

 それは光、眩く煌めき闇を照らす出す希望の閃光。しかし、その光の内に秘められたどこまでも黒く、異質な邪悪を知る者はこの場には居なかった。

 

 延々と続く長き廊下を凄まじい速度での屈折と轟音を繰り返しながら、彼等の戦場へと目指し進撃するそれは扉を突き破り中へ侵入する。

 

 そして、それの存在をようやくその場に居る全員が認知するが時は既に遅し。閃光は八つに別れ全員の頭上に移動したかと思うと突如として魔方陣へと変形し足元へと舞い降りる。

魔方陣に描かれた数字、記号はまるで血で描かれたかの様にどこまでも深紅であり、また不気味であった。

 

 やがて魔方陣は光輝いたかと思うと八人を包み込む魔法壁へと姿形を変え、彼等の動きを封じた。

 

 一秒にも満たぬ非常に短い時間の切れ間。誰もがその事象を目で追うことすらままならず、謎の閃光にたちまち自由を奪われてしまった。

 

 そして全員が状況を把握し、対処をする時間を与えぬかのように、幾つもの足音が彼等の耳に入る。

それは一人や二人のものではない。十人……いや、それ以上の数の何かが一歩ずつ、着実にここへと向けてに迫っている。


ゆっくりと、寸分の狂いもなく同じ旋律を保ちながらやってくる、何か。

 

 やがて、姿を現した足音の正体を見た瞬間、七人の勇者達の顔は驚愕の色に染まった。

 

 そして彼等のその心中を代弁するかのように、青髪の青年、シエル・ティンバーレイクが僅かに、言葉を詰まらせながら口を開いた。

 

 「……オ、『オラクル国魔法騎士団』!? 何故ここに!」

 

 勇者達の目の前に姿を現したのはこの世界に存在する彼等の母国、『オラクル国』直属の魔法騎士団であった。

魔法騎士団がその身に纏う制服の襟にはオラクルの国旗と共に六つの星が刺繍されている。それは王に認められ、魔法騎士団の中でもトップクラスの実力を誇り、勇者に次いで世界最強とも謳われるエリート部隊『セスタ・ドライブ』の証でもあった。

 

 オラクル国騎士団は国内の選りすぐりの実力者達で編成されており、セスタ・ドライブはその中でも更に限られた一握りの天才のみが入団を許される。

 

各々が上位魔法の使い手である上に、常人とは比べ物にならない程の優秀な頭脳を持つ彼等が全線に立つことは少ないものの、有事の際には真っ先に駆けつける。

かつて国内で起こった大規模クーデターを二十分足らずという驚異の短時間で鎮圧できたのも彼等の功績と言われている。

 

正に非の打ち所の無い、勇者を除けば世界最強の部隊である。

 

 そして、その最強の魔法騎士団で指揮官を勤める銀髪の男、『メラスタリアス・アカストライバ』は魔王城の内部で尚、美しく整列した部隊の先頭に出たかと思うと声高々に喋り始めた。

 

 「勇者諸君! 長旅ご苦労であった!! これから我等が親愛なる母国の長、オラクル国王からの言伝てを預からせて頂いているが故、諸君等へと伝えさせて頂く!」

 

 ――言伝て? 一体何の……。と、次々と勇者達が訝しげに呟き始める。そして告げられる。彼等を冥府へと誘う死のメッセージが。

 

 「単刀直入に言う! 君達は魔王城へと辿り着きその役目を終えた!! ここで魔王と共にオラクル国にて秘密裏に開発された極秘魔法『星々の終焉スターティング・オーバー』にて歴史から消えてもらう!!!」

 

 その瞬間、皆の顔が凍りつき、魂が恐怖と絶望に支配される。


メラスタリアスが発した言葉の異常性と、その意味を全員が理解したが『何故、今まで国の為、世界の為に命を掛けて戦ってきた自分達が』と言う疑問は誰もが拭えずにいた。


だが、幾ら考えてもその答えは出ないままでいた。

 

やがて七人の勇者の内の一人である少女、リヴ・ネヴァステイは涙ながらに、訴えるように叫んだ。

 

 「何故ですかメラスタリアス将軍! 何故お国の為に、世界の為に戦い続けてきた私達を切り捨てようとするのですか!? 王は、国王陛下は、何故私達を―――」

 

……ゴトン。


 続けようとした彼女のその言葉を遮るかのように、メラスタリアスは麻袋を取り出し、それをリヴの足元に転がした。

口を縛られること無く放り投げられた麻袋はやがてその中身を露呈する。


表れたのは女性の、生首である。

 

 「―――えっ……?」

 

その頭部を見たリヴは硬直し、わなわなと震え出す。

自身の人生の中で幾度と無く顔を合わせ、最も愛し、尊敬する人物。彼女の、母親の―――。


 そして、我を取り戻した彼女は狂うかの如く絶叫した。

 

 「ああアあぁぁあああ嗚呼嗚呼ァァアああああああああぁあああァア!!!!!! 何でっ!なんでっ!! 何でなん何でなんで何でなんで何でなんで何でなんで何でなんで何でなんで何でっっっ!!!」

 

 「まったく、どこから情報が漏れたかは知らんが……。 小汚い身なりで城内へと入り、身分も弁えずに国王に直訴などを試みようとするからこうなるのだ。見せしめに首を討たせてもらったよ」

 

魔法壁に何度も拳を打ち付けながら泣きじゃくり、その場に踞りながら嗚咽を漏らす彼女に構うこと無くメラスタリアスは冷徹な言葉を投げ掛ける。

 その言葉に対してシエルは、見開いた瞳の奥に憤怒の情を静かに滲ませながら呟いた。

 

 「お前ら人間じゃねぇよ……」

 

 最早シエルは信頼していた国に裏切られ、残虐な行いを平然と語りだす彼等を人として見ていなかった。だが、そんな彼の反応すらをはね除けるかのように、魔法騎士団は一向に表情を崩さない。

 

 「人間で無くとも構わない。それで世界が救えるのならばね」

 

 先程までの高々とした声色とは逆に、低い声で淡々とメラスタリアスは語りだす。

 

 「君達の力は余りにも強大過ぎた。その力を国王は恐れておられた。 魔王の死後、君達がもし我々に何らかの危害を加えようとした場合にその被害は甚大なものとなるだろう、と。 君達を抹殺する機会は我々の存在を認知することが不可能なまでに神経を魔王に向けて研ぎ澄ます、この一時だけだった。 どうやら上手く行って良かったよ。 ……君達は納得がいかないような顔をしているが、王の考えとしてはいずれ牙を剥くやも知れない芽は今のうちに摘んでおくのが得策なのだよ。 ―――ここで魔王と共にな」

 

 「さて、お喋りはここまでだ! さらばだ、勇者諸君よ」

 

 一方的に喋り続け、有無を言わさずメラスタリアスが指を鳴らす。瞬間、魔法壁の内部から幾千もの閃光が勇者達に照射され、やがて爆散した――――。

 

 

 ▼▼▼▼▼

 

 

 全身が酷く傷み、血液が流れ出す。血溜まりの中で意識が朦朧とするものの、四肢の欠損が無いのは奇跡だとシエルは感じていた。


彼は、生存していた。


 立ち上がる事は不可能であった。が、気力を振り絞りどうにか這うようにして体を動かし、周囲を見渡す。

 

 「み、みん……な……」

 

 周りに横たわるかつての同志、そして魔王からは生命反応を感じず、微動だに動かない。既に事切れていると彼は察知し、怒りと悲しみに唇を噛み締めた。生き残りは自らしか存在しないと感じていたシエルだったが突如、弱々しい声がその耳に入ってきた。

 

 「し、シエ……ル……」

 

 それはリヴ。リヴ・ネヴァステイの声であった。思わずシエルは振り返る。

 彼女の容態は散々であった。左大腿部からその先と、右腕を失っていた。出血が激しく、息も絶え絶えである。

 

 「やっ、やっぱり……。シエル、だけしか残ってなかったんだね……」

 

 それでも、彼に微笑みを向ける彼女にシエルは這うようにして側へと向かう。


 「お前、その怪我……早く、早く治療しないと……。魔法、回復魔法使える奴探してくるからさ、待ってろ………!」

 

 「……こんなっ、とこに、いるわけないじゃん……。ノーセも、もう……」

 

 ノーセ、それは勇者達の中で唯一の回復魔法の使い手。この世界で回復魔法と言うのは非常に希少なものであり会得するのは困難である。

そして、その回復魔法の使い手であったノーセが居た筈の場には最早肉塊しか残っておらず、シエルは歯を食いしばった。

 

だがしかし、突然リヴが左手を伸ばしシエルの頭に触れた。すると彼の全身が緑の光りに包まれ出血が止まり、怪我が治癒する。それは、紛れもない、回復魔法であった。

 

 「はっ……!? 回復魔法……!? お前、何で自分に使わなかったんだ!!!」

 

 「凄いでしょ……。皆に内緒で練習したんだから……。まだ、一回しか使えないけど、少しでも役に立てる様にって……、多分私が一番役に立ってなかったから……。それに、今自分に使っても、足だって手だって生えてこないんだし、意味無いよ……」

 

 「そんなっ……」

 

 やがて彼女が吐血し激しく咳き込む。体の自由が利くようになったシエルは立ち上がる。

 

 「おい! しっかりしろ!! 待ってろ、すぐ誰か連れてくるからっ! おい!」

 

 しかし駆け出そうとしたシエルをリヴは制止する。そして話し出す。

 

 「もう、無理だから……。せめてシエル、私の……お願いを、聞いてくれないかな……」

 

 「なんだよっ、お願いって……」

 

 シエルの瞳からは大粒の涙が流れそれが頬を伝い地に落ちる。最早誰かを呼んでも間に合わないことも、彼女が既に長くないことも分かっていた。だが、それでも何とかしたいと言う彼の想いを酌んだ上で、リヴは続けた。

 

 「みんなを……、お母さんを殺した、あの国をっ……陛下をおねがい……っ……! ころして……ころして、シエル―――!」

 

 懇願するように言い放ったその言葉が彼女の最期であった。

 

誰にでも分け隔てなく優しく、慈愛の心を持った彼女の、死に際に放った『殺してくれ』と言う呪いの願い。


 それに込められた憎しみの重さは彼には定かではない。

 

 しかし、その言葉は確かに、シエルの耳に届いた。

 

 「……ああリヴ、分かったよ」

 

 静かに、シエルは立ち上がる。

 

 『シエルには笑顔が一番だよ!』

 

 そう言いながら自らに向けた彼女の笑顔を見ることは、もう二度と無い。

 

 

 

 ―――ならばせめて、君の最後の願いを、俺が果たそう。

 


 

 「王を、メラスタリアスを……。 皆を殺したオラクル国を……殺さなければ……!」

 

 そう呟きながら彼は歩き出す。

仲間と共に歩んだ旅路を引き返す為に。たった、一人で。

 

 「ぶっ殺してやるッッッ!!!」

 

 激情が、溢れ出す。

 

 ここはエンデリオン、人々が魔法を自由に扱い発展し続けてきた魔法世界。

 

 ここはエンデリオン最北端、最果ての地『ディブロ』。

 

 この世界で国に裏切られ、仲間を殺され、ただ一人生き残った勇者の戦いが始まる―――。

 

 

 ―――復讐劇の、幕が上がった。

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