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夕暮れハイドアンドシーク

作者: 栖道

 都立夕凪高校、屋上。

 抜けるような青空の下、貯水槽の上で仁王立ちする人影があった。

 胸まで伸びる艶やかな黒髪とチェックのプリーツスカートが強い風に揺れている。白磁のような白い肌。桜色の唇。十人が十人振り返るような美少女である。

 だが、その視線は険しい。

 眼下に広がる校庭を睨みつけ、昼休みで外に出ている生徒たちに隈なく視線を送る。

 ──探し人の姿は見えない。

 二年B組、狩谷大地かりやだいち


「ったく、なんでこんなことに…」


 喉から出た声は鈴の音のよう。それでいてどこか甘みのある女の声だ。

 そんな自分の声が忌々しくて、彼はため息を吐いた。

 ここで一つ確認しておくと彼は性別上列記とした男で、別に女装趣味があるわけでも女性の心を持っているわけでもない。

 信じられないかもしれない。むしろ一番信じたくないのは自分自身だ。

 何度もこれは夢だと願い、幾度も頬を抓ったが一向に目を覚ます気配はなくじんじんと頬が痛むだけだった。

 現状を一言で言うならこうだ。




 ──目を覚ましたら女の子になっていたんです。




 ***


 時は数時間前に遡る。


「いい加減にしてくれ!」


 ダイチは廊下を猛ダッシュしていた。


「はーっはっはっはっは! 今日こそは逃がさないわよ、狩谷!!」

「げ」


 撒いたと思ったのに背後から再び聞こえてきた高笑いにダイチは呻いた。



 一週間ぶりの学校に意気揚揚と登校したら校門で生徒会の連中に鉢合わせた。

 毎週月曜日は風紀チェックの日だということをすっかり忘れていた。

 知っていれば正門から登校するような真似はしなかったものを。

 生徒会の連中はダイチを見て吃驚したようだったが、その口はすぐに笑みの形になった。高校生とは思えないほど凶悪な笑みに、ダイチは一歩足を後退させる。


  「狩谷が逃げたぞおおおおおお」


  まだ逃げてない!と文句を言う間もなく、ピイィィィィと鋭い笛の音が校庭中に響き渡る。通せんぼをするように腕章をつけた生徒会の連中がズラリと横に並ぶ。

 歩いていた生徒の視線がダイチに集まり、顔を見合わせヒソヒソと小声で話し始めるのを見て、ダイチは正門突破を諦めた。くるりと背を向け、脱兎のごとくその場を逃げ出した。


 すぐに校内に『狩谷大地捕獲スベシ』とのお触れが出回ったらしい。しかも今日中に自分を捕まえたものに食堂一ヶ月間タダ券贈呈などとのたまい始めたおかげで全校生徒から指名手配される羽目になった。

 ──かくして登校数分にしてダイチは逃亡者になったのだった。


 あのあと、一度学校の敷地の外に出たダイチは適当な場所で塀を乗り越えて校内に入り、開け放してあった窓から校舎へ入った。玄関に戻ってようやく履き替えた上履きをペタペタと鳴らしながらダイチは教室へ向かっていたのだが、もう授業が始まってるにも関わらず追っ手に遭遇するのであった。

   勉強しろよ高校生、と自分のことをまるっきり棚に上げながら、ダイチは逃げたり隠れたりしながら追っ手を撒く。教室につけるのは一体いつになるのやら、と思ったとき高笑いが響き渡った。



「その声はまさか…」


 恐る恐る振り返ると、階段の踊り場に腕を組んで仁王立ちしているのは予想通り生徒会長の笹川柚月ささがわゆづきだった。目を爛々と輝かせ、手には愛用の巨大なハリセンを持っている。パシン、とハリセンで手の平を打つと、ニッと笑みを浮かべる。


「やっと見つけたわよ、狩谷」


 そこからが追いかけっこの始まりだった。他の生徒会役員ならともかく笹川に見つかるとはついてない。走るスピードを上げつつ、背後の敵に抗議をする。


「なんでっ、お前らはっ、いつも、いつも、俺を目の敵にするんだっ!」

「胸に手を当てて日頃の行いを省みてみなさい!」


 ふむ。

 ダイチは言われるがまま右手を胸に添えてみたが特に思い当たることはない。


「清廉潔白だな!」

「真っ黒よ、バカ! この前あんたまた喧嘩したでしょ!」

「だからなんだよ! お前らは生徒の喧嘩にまで介入してくんのか!?」

「子供じゃあるまいし喧嘩の世話までするわけないでしょ! 他人に迷惑さえかけなければ当事者で好き勝手やってくれて結構! だけどね…あんたまた学校の備品壊したでしょーが!」


 ダイチは柚月のいう喧嘩がどれに該当するのか考えてみた。そもそもたくさんありすぎてどのことを言っているのかわからないのだが。

 確かに言われてみれば、先々週あたりに窓ガラス数枚とどこかの教室の扉も壊したような気がしなくもない。



「…わりぃ!」

「悪い、で済むか! 毎度毎度何かしら壊してくれてどれだけ生徒会の予算を食いつぶすつもりよ。今日という今日は生徒会長直々に指導してやるから観念しなさい!!」

「そう言われて観念するやつもどこにもいねーよ!」


 勿論、笹川も諦めるはずがない。お互い諦めの悪さは天下一品だ。


 ちょうど開いていた廊下の窓を見つけるとダイチはスピードを緩めて窓枠に手をかけた。サッシを踏んで身体を乗り出す。


「よっ」


 掛け声をつけて青空へダイブ。


「え!?」


 ひらりと迷うことなく窓から飛び降りたダイチに柚月は悲鳴を上げた。ここは四階である。とても無事でいられる高さではない。柚月は慌てて窓に駆け寄った。


「ちょっと、狩谷!?」


 窓の向かいには樹が植えてあり、ダイチはどうやらそこを伝って地面に降りたようだった。と言っても、窓と樹の距離はかなりあり常人が乗り移るのは至難の業だ。ダイチの運動神経をもってこそ出来た芸当だった。ダイチがこちらを見上げてひらひらと手を振っている。


「へへへ。残念だったな、生徒会長。じゃあなー」

「コラ、待ちなさい!」

「だから待たないっての」


 ハリセンを振り上げて怒鳴る柚月を背にダイチはその場を退散した。






「さてと、これからどうするかね」


 もうすっかり一限も始まってしまったしせっかく学校に来たがこの様子じゃ今日もサボるしかないかもしれない。ダイチは裏庭を歩きながらこれからどうしようかと思いを巡らせた。そのときだ。


「危ない!」


 声に誘われるように上を向く。


「え」


 黒い、何か。

 避けろ、と脳が身体に伝達する前にソレは直撃した。小さなうめき声を漏らしてダイチは地面に倒れこんだ。






 ──はぁ、はぁ。


 荒くなった呼吸を落ち着かせるために大きく息を吸う。

 何回か繰り返してようやく落ち着いてきた。


「やった…!」


 これで第一関門は突破だ。逸る気持ちを押さえながら抱えていた書物を捲る。古書という表現が正しい、ひどく年季が入った本である。布張りの表紙、日に焼けた紙は所々虫に食われてまったく読めない頁もあった。書かれた内容も常人には到底読み解けないようなものばかりだ。かろうじてわかるのは動物や、何かの紋様が図で示してあることくらい。それらも不可解な言語が理解を阻む。


「…これだ」


 目当ての箇所を見つけ、指で文字をなぞる。今日という日のために何日もかけて文字を解読し、自分が望む術を探してきたのだ。もう空でもいえるほど読み込んできた内容だが今一度目を通し、自分を力づけるように頷く。間違えるはずがない。

 太陽の位置を確認して、窓から僅かに顔を出す。

 狩谷大地。

 授業もサボったり真面目に出てみたりと行動が読めない。彼にはしばらく意識を飛ばしててもらうしかない。

 教室から借りてきたチョークで本に描かれたものと同じ紋様を床に描き始める。彼と紋様と自分が一直線になるように立って、影は紋様の上に手を翳す。


「──……」


 唇から朗々と紡がれるのは古の言語。力強い言の葉に呼応するように床の紋様が輝き始めた。最初は淡く、段々と力強く、やがては眩いばかりの光を放ち、辺りを包み込んだ。









「……──ねぇ、」


 誰かに名前を呼ばれた気がした。甘く、切ない声で。何度も何度も、こちらの胸が締めつけられるほどで、ダイチは知らず知らずその声に応えようと必死に手を伸ばしていた。でも、手が届くことはない。

 声が遠くなる。遠く、離れて、消えて──。


「ねぇ!」


 一気に意識が浮上する。

 ここは?


(そうか、上から落ちてきた何かに当たって…)


 どうやら気絶していたようだ。脇を見ると小さな鉢植えが横倒しになっていた。どうやら落ちてきたのはこれらしい。頭を軽く振りながら身体を起こす。


つつ…」


 ズキリと後頭部が痛んだ。


「大丈夫? ねぇ、こんなとこでどうしたの?」


 いつの間にいたのか女子生徒が心配げな顔つきでこちらを見ていた。知らない顔だが胸のリボンの色から察するに同学年か。それにしても女子に話しかけられるとは珍しい。喧嘩好きな不良と見られている節があり、大抵ダイチは女子から遠巻きにされているのだ。自分から喧嘩を売ったことなどないのだが売られた喧嘩を買ってることは事実なので何も言い返せない。だが自分も男だし、女子に話しかけられればそれなりに嬉しいわけで。


「あ、ああ…大丈夫」

「ホント? 心配したんだよ、こんなところで倒れてるし。あ、ちょっと待って。スカート汚れてる」

「………?」


 今、何か不思議な言葉が聞こえたような。

 スカート?


「あー、髪もぐしゃぐしゃになってる。せっかく綺麗な髪なのに」


 女の手が伸びてきてダイチは思わず身を引いた。女は手を伸ばした態勢のまま、小さく首を傾げた。


「どうしたの?」


 ひどく嫌な予感がする。ダイチはそろりと視線を下に向けた。

 白いブラウス、赤いリボン、チェックのスカート。

 スカートから伸びるのは白く細い脚だ。次に恐る恐る顔と頭に触れる。触り心地の良い天鵞絨のような髪。胸まで流れる髪の色は、黒。じとりと手の平に汗が滲む。両手を顔の高さまで持ち上げると、五指はとても細く、爪は綺麗に整えられていた。くらりと眩暈がする。

 まさか。

 だって、そんなバカなことがあるわけない。

 誰か、嘘だと言ってくれ。


撫子なでしこ? 気分でも悪くなった?」


 ──撫子?

 誰だよ、そいつ。

 俺は、狩谷大地だ!


 声をかけてくれた女子生徒を置き去りにして、裏庭から逃げ出したダイチは屋上へと駆けこんだ。扉に寄りかかったままずるずると座り込み両手で顔を覆う。


「一体、何がどうなってんだよ…」


 撫子。

 あの女は確かにそう呼んだ。落ち着いて考えてみればその名前はダイチも聞き覚えがあるものだった。

 二年C組、鏑木(かぶらぎ)撫子(なでしこ)

 品行方正、成績優秀。才色兼備を体現したような生徒。気高さと気品が匂い立つような凛とした面差しは老若男女を問わず引きつけ、彼女が歩けば誰もが振り向く。いわゆる学園のマドンナだ。

 色んな事情もあって授業をサボりがちなダイチとは正反対で、ダイチにしてみれば住む世界が違うし絶対に自分とは交わらない人種だと目もくれていなかった。そんな自分が彼女の姿になっている、らしい。


「落ち着け、俺。きっとこれは何かの悪い夢だ!」


 夢オチ、という淡い期待を胸に頬を抓ってみたり色々してみたが一向に眠りから覚める気配はない。


「う、ウソだろ…」


 がっくりと項垂れるその姿からは悲壮感が漂う。美少女が憂いている姿はどこか神秘的ですらあるが中身はダイチである。


「ん? ちょっと待てよ…」


 そこではたと考える。

 自分が鏑木撫子になっているとして、本来の自分の体はどこにいったのだろう。

 そもそも何故自分と撫子が入れ替わったのかわからない。自分と彼女には接点がないのである。となると、自分と彼女、両者を知っている人物が二人の体を入れ替えた…とか。


「入れ替えた?」


 脳裏に浮かんだ言葉を口の端にのせる。この現象を最もシンプルに考えるならそうなるだろう。自分が撫子の体にいるなら、逆に撫子はダイチの体に入っているはずなのだ。


「え。何これつまりどうなんの」


 ──キーンコーンカーンコーン

 昼休みのチャイムだ。ダイチは貯水槽の上によじ登り、校内を眺めた。自分の体がひょこひょこ歩いてたりしないかと淡い期待を胸に睨みつけていたがその願いは叶いそうにない。

 ダイチは頭を抱えた。

 こんな摩訶不思議な状態で頼れる奴なんて…。


「いた」


 脳裏によぎる顔に、がばりと顔を上げる。

 あいつならこの現象にも答えを見つけられるかもしれない。



 校内を駆け抜ける。

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と囁かれる撫子が猛然と疾駆する姿に生徒たちは何事かと小声で囁きあったが、無論ダイチは気付かない。

 やがてダイチはある教室の前で足を止めた。

 化学室と白字で書かれた黒いプレートが掲げられた教室の扉に『未来科学部』と筆字で書いた紙が貼ってある。あいつは間違いなくここにいるはずだ。ダイチは扉を叩いた。


「セージ!!」

「開けるんじゃない!」


 扉の向こうから切羽詰ったような声がしたが時すでに遅し。ダイチはもうすでに扉を引いていた。


「え?」

「バカ者!開けるなといっているだろう!」


 瞬間、部屋の中で爆発音が響き、煙が部屋から吹き出してきた。視界が白く染まる。


「げほっ、ごほっ」


 煙に思いっきり咳き込んだ。またおかしな実験をしていたらしい。


「……失敗だ。だから開けるなと言ったのに。誰だ開けたやつは!」


 悪態をつきながら煙の向こうから出てきたのは針金のように細い男だった。制服の上に羽織ったくしゃくしゃの白衣。爆発の影響か所々煤けている。癖っ毛の黒髪がぴょんぴょんといつもより多く飛び跳ねているのも爆風のせいだろう。

 ダイチはこの部屋の住人である彼を見て手を挙げる。


「よお、セージ」


 二年D組、綾坂誠二あやさかせいじ

 三度の飯より実験が好きな変人だ。彼の手が生み出す発明品とそれから引き起こされる数々の現象に恐れをなして人は彼のことをこう呼ぶ。マッドサイエンティスト、と。


「ん? 君は──鏑木撫子?」

「違う。いや、外見は違わないんだけど。ま、やっぱりわかるわけないよな。俺だよ、俺」


 顔を指さして俺俺と連呼するダイチにセージは眉を顰めて、胡乱な目つきを向けた。怪しさ満点なのだがダイチ人は自分に気づいてもらおうと必死でそんなことに気づいていない。セージは片手を腰に当て、もう一方の手で黒縁の眼鏡を押し上げた。


「巷で噂のオレオレ詐欺に萌えをプラスし始めたのか? かわいい子を使えば引っかかるだろうって魂胆かもしれないけど残念だったな。あいにく僕は間に合ってるよ。ビーカーとメスシリンダーが僕の恋人だからね」


 ビーカーとメスシリンダーが恋人、と堂々と言い切る変人をダイチはこの男以外に知らない。興味がないとばかりに部屋に引き返そうとするセージの白衣をダイチは慌ててつかんだ。


「待てって。俺だよ、ダイチだ! 狩谷大地!」


 セージが振り向いた。


「何をとち狂ってあのバカの名前を出すんだい? 鏑木さん、君のことは僕でも知ってる。あなたにとってあのバカの存在は一利にもならないでしょう。百害どころか千害にしかならないはずだよ」

「…おい」


 ダイチの声が低くなる。

 それは、さすがにいいすぎじゃないのか。

 セージが同情するような視線を向けてきた。


「口調は真似てるのかそっくりだがね。なにかの罰ゲームかい?」

「ちっがーーーう! なんか知らないけどこいつの体と俺の体が入れ替わっちゃったの! な、信じてくれよ! 今、頼れるやつはお前しかいないんだって!」


 セージの襟首をつかんでガクガクと揺さぶる。


「そんな非現実的なことあるわけ…」


 急に真人間のようにまともなことを言い始めた彼の襟をダイチは締め上げた。日頃の恨みも込めて。


「お前がそれを言うか! いつもわけわからん実験してるくせに! この前だって『ここ撮るカメラ〜なんでも透視くん〜』とか変なもん発明しやがって」

「うっ。なぜそれを君が知ってるんだ」

「お前なぁ! あのとき俺がどれだけとばっちりくらったと思ってるんだ。自分だけすたこら逃げやがって。お前が校長のカツラ燃やしたせいでこっぴどく怒られたんだぞ」

 当時のことを思い出して怒りに拳を震わせる。

「お前の実験のせいで俺の株は下がりっぱなしだ。ことあるごとに俺の方へ責任転嫁してきやがって…!」


 セージは目を瞠った。外見は鏑木撫子の姿をしているが本当にダイチと話しているようだ。それに自分のこともよく知っている。それこそダイチでないと知らないようなことまで──。


「君は、一体…」

「だからぁ」


 なお言い募ろうとするダイチをセージは手で遮った。


「ここで立ち話してても埒が明かない。中で話を聞こう」





 彼は焦っていた。

 まさかこんなことになるとは思っていなかった。

 このままでは計画が水の泡だ。

 チャイムが鳴った。教室の扉が開き、廊下に騒々しい生徒の声が響き渡る。思いがけない事態に動揺していたのか彼の手から本が離れる。バサリと音を立てて廊下に落ちた。

 ここにいることを誰かに見つかってはまずい。

 慌てて本を拾い上げると、彼は周囲を見渡し早足でその場を後にした。




「ほい」

「あ、ああ。ありがとう」


 ビーカーでお湯を沸かしていると彼女は勝手知ったる場所とでもいうように棚から茶葉をとりだしてきた。なんであそこに茶葉があることを知っているのだろう。にわかには信じられないがこの少女は本当にダイチなのだろうか? 


「あちっ」


 一口飲むと熱かったのか、彼女は舌を出して湯呑を机に置いた。ふーふーと必死に息を吹きかけている。猫舌なのもダイチと同じ。

 じいっと見ているとその視線に気づいたのか彼女は顔を上げて眉を寄せた。


「まだ信じてくれねーの?」


 セージは深くため息を吐いた。

 罰ゲームにしろ嫌がらせにしろここまで徹底しないだろう。あまり口をきいたことはないが噂を聞く限り鏑木撫子はそのようなことをする人間ではない。


「三割くらいは君がダイチのような気がしてきた」

「少なっ。俺って信用ねーのな」

「いくつか質問をさせてくれ。それに全部答えられたら君をダイチだと信じる」


 セージの言葉に彼女はふふんと鼻を鳴らし、腕を組んだ。足の開き方がなんとも男らしく目のやり場に困る。


「よーし、任せろ。なんでもこい」


 向かいに座ったセージはしばし顎に手を考えた。


「君の家族構成を」

「なんだ、随分簡単な質問だな。親父とお袋、兄貴と妹が二人」

「妹二人が学校で名乗ってる名前は?」

「ぐ。……美少女戦隊マイ・ミイ・マイン」


 セージはぶはっと噴出した。相変わらずなんともチャーミングな名前だ。ダイチは快く思っていないようだがあいつよりはよっぽど出来た妹君だと思う。ダイチより一つ年下の双子の妹君は地域奉仕活動を生きがいにしていて、歩く災害のあいつよりよっぽど世のため人のためになっているのだ。ちなみに妹君の名前は未唯と真唯という。


「じゃあ次だな。俺が初めて作った発明品は?」

「お、それはよく覚えてるぞ。小学校一年の時に作った〜ここほれニャンニャン・お宝発見マシーン〜だ。国語の時間で花咲かじいさんを読んだときに思いついたんだよな。犬より猫がいいとか言って、ゴム仕掛けのロボットみたいの造ったけど結局石ころ一つ動かせなかったんだよな。懐かしいわ」



 一通り質問を終えたセージは向かいに座る少女を見て唸り声をあげた。信じたくないが…。


「……どうやら。本当にダイチみたいだな」

「だーかーらー、最初からそう言ってるじゃんか」

「アホ。いきなり学校一の美少女に『僕、ダイチなんですぅ』って言われたって信じられるわけないだろ」

「俺は信じるぞ!」

「それはお前がアホだからだ」

「アホアホ言うな!」

「…この感じ、やっぱりダイチだな」

「どういう意味だよ」

「別に。つまり、上から降ってきた鉢に当たって気絶して、目を覚ましたらお前は撫子嬢の体に入っていた、とそういうわけか」


 目の前の少女が頷くのをセージは不思議な気持ちで眺めた。

 不思議なもので一回ダイチとして認識すると、一挙手一投足がダイチにしか見えなくなっている。外見はひどく目の保養になるが中身はあのダイチなのだ。


「そして肝心のお前の体は行方知れず」


 その言葉にダイチは頷く。


「いいなああああ」


 セージが突然叫んだ。


「これのどこがいいんだよ!」

「お前、あの鏑木撫子だぞ? どんな男にも靡かないエベレストに咲いてるんじゃないかってくらいの高嶺の花! 告白五十人斬り伝説知らないのか?」

「知らねー」

「去年のバレンタイン。彼女が誰にチョコを渡すのかで校内もちきりになったことがある。何でも彼女が友人にチョコを渡したい人が一人だけいると漏らしたらしくてな」

「ふぅん。で?」

「我こそはチョコをもらうにふさわしいと勘違いした男がこぞって彼女に告白した。だが、彼女は男どもの求愛を全てバッサリと切り捨てた。その数なんと五十人」

「まぁ他に好きな奴がいたら当然なんじゃねぇの?」

「それがな、結局彼女はバレンタインに誰にもチョコを渡さなかったそうだ」

「好きな奴がうちのガッコの奴とも限らないだろ」

「いや、友人にはうちの学校に渡したい奴がいると言っていたそうだ。──何はともあれ、彼女の告白五十人斬りは伝説になり、彼女がチョコを渡したかった相手も今となってはわからない。彼女に関しては色々な噂があるがコレがあってからは彼女の存在はより神格化してきたわけだな。今や彼女はこの学校の女神ミューズというわけだ」


 ダイチは大して興味もないのか、へぇ、と呟いただけだった。実際、チョコを渡すか渡さないかでそこまで騒ぎ立てられるのも大変だなくらいにしか思わない。


「鏑木がどれだけ人気者かはわかったんだけどさ。どうやれば俺は元に戻れるんだよ」

「さあな」

「おいおいおい」

「いくら俺が天才でも原因がわからない以上どうすることもできん。だが、親友の危機に何もしないのも心が痛む。原因究明に俺も付き合ってやろう」


 さも仕方なくというような口ぶりだが、


「お前、目ェめちゃくちゃ輝いてんぞ」


 指摘するとセージはにやりと笑った。


「バレたか。こんな面白いこと放っておくわけがないだろ。研究者として血が騒ぐ。……そもそも何か心当たりはないのか? 最近誰かの恨みを買ったとか」

「恨みねぇ…」

「ここ数日学校で姿を見なかったがその間に何かやったんじゃないのか」


 その指摘にダイチは頭を左右に振る。


「……昨日まで研究所で兄貴の手伝いをさせられていたんだ」

「なるほどな」


 ダイチの兄は国の研究所に勤める研究者だ。

 セージもマッドサイエンティストなどと学校では呼ばれているが、そんなことが霞むくらいダイチの兄は本物である。正真正銘の科学者なのだ。彼の知的好奇心は留まることを知らず、一般人には計り知れないキラメく頭脳で日夜実験を繰り返し、その実験の手伝いや雑務などに弟であるダイチを刈り出している。

 セージの憧れであり目指すところでもあるダイチの兄であるが、ダイチにしてみれば理不尽な要求をしてくる狂人マッドマンでしかない。


「とりあえずここにいても仕方ないな。お前の身体に入っている撫子嬢も大変戸惑っているだろうから見つけて彼女に話を聞いてみるのもいいかもしれない」

「……俺はこのまま外に出るのか」

「こんな機会なかなかないぞ。せいぜい満喫しとくんだな」

「えー…」


 ダイチはげんなりした顔で呟いた。




 教室にいるかもしれないとダイチとセージは手分けしてダイチと撫子の教室を見に行ったが、二人の席には誰も座っていなかった。

 階段に腰かけたダイチとセージはお互いの報告が終わると同時にため息を吐いた。


「やっぱそう簡単にいるわけないか…」

「身体が入れ替わったからと言って相手の教室にいるとは思わなかったが…まあ予想通りだったな」

「あー…もう。どうすりゃいいんだよ」


 授業の合間の休み時間に入り、ざわざわと生徒の賑やかな声と足音が聞こえてくる。


「鏑木撫子。鏑木…鏑木…? どこかで聞いたことが…」

「なに、ブツブツ言ってんだ? ……うわあ!」


 ダイチは突然立ち上がるとビタリと壁に張り付いた。セージの白衣の襟首を掴んで自分の方に引き寄せる。勢いが強すぎたのかセージが咳き込んでいる。


「何をするんだ!」


 抗議の声を無視して、ダイチはそっと顔を出して廊下を覗き込んだ。


「笹川の声がした」

「今お前は鏑木になってるんだから関係ないだろ」

「それもそうか。ってヤバイ、目が合った! こっちに来るぞ! 俺のことがわかったのか!? エスパーかあいつ!」

「そういえば…鏑木は生徒会に入っていたな」

「ウソだろおおおお」

「適当にやり過ごすしかあるまい」


 適当にってどうやって!

 ダイチの叫びなど知る由もなく笹川はダイチ──の姿になっている撫子に近寄ってくる。


「撫子」

「こ、こんにちは」

「今日、会議やるから放課後生徒会室に集合ね」

「お、おう」

「…おう?」


 笹川が訝しげな視線を向けてくる。

 そりゃそうだ、撫子がそんな言葉を使うはずがない。ダイチはげほごほと咳をしてごまかした。


「え、いえ。わかったワ」


 女子らしい返事、女子らしい返事と頭の中で繰り返す。

 隣でセージが笑いをこらえている。この野郎、後で覚えていやがれ。


「? …変なの。それに、なんで綾坂と一緒にいるの?」

「えっと…」

「僕が呼び止めたんだ。乱獅子らんじしがどこにいるか聞いていた」


 笹川の顔に動揺が走った。

 その顔に映るのは──恐怖、だろうか? 笹川にしては珍しいこともあるものだ。

 しかも、いきなりそんなことを聞き始めたセージにダイチは内心首を傾げる。乱獅子なんて名前聞いたことがない。


「あんな男のこと撫子が知るわけないでしょう!」


 笹川はダイチの手首を掴んでまるで庇うように前に立った。


(ぎゃー!)


 笹川の後ろでダイチはあたふたと手を動かす。対するセージは冷静だった。


「安心しろ。別に迷惑をかけるつもりはない」

「なんで急に乱獅子なんかのことが気になるのよ。フン、狩谷から乱獅子に鞍替えする気?」


 笹川の言葉にはあからさまな棘があった。これもまた珍しい。

 笹川とはそれなりに付き合いが長い方だが、いつもの笹川はこんな風にあからさまな態度を取ったりしない。


「言っている意味が分からないな。僕が従うのは未来永劫、自分だけだ。それに何の心配をしているか知らないが彼女に迷惑をかけるつもりはないよ。何なら君が教えてくれればいい。生徒会長ならあいつの居場所も知っているんだろ?」

「……」


 彼女の緊張が後ろのダイチにも伝わってきた。


「……第一体育館よ」

「そうか。ありがとう」

「私は職員室に用があるから行くけど、撫子、そいつに何か変なことされたらすぐ言うのよ。それと、綾坂。あんた狩谷がどこにいるか知らない?」

「さあ、知らんね」

「まさか匿ってるんじゃないでしょうね?」

「僕がそんなことをするとでも? 大体いつも一緒にいるわけじゃないんだ」


 心外だ、と言葉を続けるセージ。隣に本人がいるのに本当に良い性格をしてると思う。

 笹川はそんなセージの態度に軽く肩を竦めてみせる。


「まあ、そういうことにしといてあげるわ。見つけたら生徒会室に連れてきてよね。連行してくれたら来期の未来化学部の予算を便宜してあげてもいいわ」

「ふむ。それは魅力的だな。考えておこう」


 セージが神妙に頷くと、笹川は手をひらりと振って去っていた。

 笹川の姿が見えなくなったのを確認してからダイチはじとりと隣の相棒を見た。


「さっきのアレ。本気で言ってるんじゃないだろーな」

「………。まさか」

「今の沈黙はなんだよ!」

「気にするな。いちいちカッカしていたら持たんぞ。お前は今、ダイチじゃなくて鏑木なんだ。少しは落ち着きを覚えろ」

「ぐ。んなこと言ったって…」

「言い訳はきかん。さ、乱獅子の場所もわかったことだし行くか」


 白衣を翻して歩き始めたセージをダイチは慌てて追った。







 その場所は極めて異様だった。

 第一体育館は数年前に新しい第二体育館が出来たため取り壊す予定になっていたが理由あって計画は凍結状態だ。ダイチは知らなかったが、セージの話によるとこれから会いに行く乱獅子龍之介らんじしりゅうのすけがその原因の一つであるという。それにしても獅子に龍とは随分御大層な名前である。


「乱獅子って何者なんだよ」

「会えばわかる。あいつはお前以上の問題児だ。誰も手が出せない。あの笹川も放置してる。触らぬ獅子・・にはなんとやらって奴だな」

「言わせてもらうけど、俺は問題児じゃないぞ」


 ダイチが唇を尖らせて付け加えれば、前を歩くセージの肩が揺れた。


「なんで笑うんだよ。事実だろ」

「お前のそういうところが気に入ってる。まあ、話だけ聞いてさっさと帰ってくることにしよう」


 話しているうちに第一体育館に着いた。蔦が絡まったモルタルの外壁。校内の端の方にあり、その辺りには木が鬱蒼と茂っているせいもあって今は使われもしないこの体育館にわざわざ立ち寄る生徒はいない。肝試しに使ったら楽しいかもしれないけど。

 入学した年には第二体育館が出来たのでダイチは授業でこの体育館を使ったことはない。

 セージが扉に手を掛けながら振り向いた。


「ダイチ。忠告しておくがお前は今、自分が鏑木の姿になっていることを忘れないようにしろ」

「は?」

「決して無茶はするなということだ。特に乱獅子の前では」


 念を押すような言葉に首を傾げる。

 金属製の扉が音を立てながら開く。


 中は暗かった。上方につけられた空気取りの窓からわずかに日の光が差し込んでくる。


「あー…、なるほど」


 ダイチは苦い笑みを浮かべた。セージの言葉の意味が分かったからだ。

 二人に向けられるいくつもの目。人数にして十人ほど。ちなみに今は授業中だ。この空間にこれだけの人数の人間が集まっていること。それが極めて異様だ。

 広い体育館の奥の方にいるので顔はわからないが穏やかでない気配が伝わってくる。ダイチにとってはある意味慣れきった感覚であったが。


「忠告を忘れるなよ」


 前を向いたままセージが小声で釘をさす。


「わーってる」


 セージが歩く後ろを一定の間隔をあけてついていく。

 不良道驀進中!と体現しているような生徒が思い思いの格好で床に座ったり横になって漫画やゲームに興じている。一番奥にはどこから持ってきたのか大画面のデジタルテレビ、冷蔵庫、革張りのソファが四脚置かれている。

 中央の一人がけのソファに一際目立つ男が座っていた。テレビに視線を向けたままこちらを見向きもしない。あれが乱獅子だろう。長くなった金髪を襟足で結っている。右耳にピアスが三つ。肩にひっかけた学ラン。全体的に線は細いがそれが鍛え抜かれたしなやかな肉体であることはすぐにわかった。


(ソファには乱獅子を入れて三人。床に十人、か)


 いかにも柄の悪い──まさに不良少年の溜まり場というやつだ。

 セージは白衣のポケットに手を突っ込んだまま床に座っている不良たちの前で足を止めた。


「やあ」


 マンガを読む手を止めて一番手前にいた男が口を開く。


「綾坂じゃねぇか。…それに後ろの女は、」

「おや、僕の名前をご存じなのか。あいにく僕は君の名前を知らないがね。学ランのラインの色を見る限り同じ学年みたいだな。どうぞよろしく」


 セージが男の言葉を遮った。ギロリと睨みつけられてもセージはにっこりと笑うだけだ。


「マッドサイエンティストが何の用?」


 ガムを噛んでいるロン毛の男が口を開いた。こちらは先程の男ほどあからさまに敵対心を出してはいない。

 しかし、セージの悪名はこんなところまで届いているらしい。


「乱獅子先輩と話がしたい」

「あぁん!?」


 最初の男が勢いよく立ち上がり、セージの白衣をつかむ。一歩足を踏み出したダイチだったが、セージが背中に回した右手を僅かに振ったのを見て思いとどまる。


(動くな、か)


「乱獅子さんになんの用だ?」

「ま、後ろの女に関係あるんじゃない? どう考えても」


 乱獅子と鏑木。その二人がどう結び付くのかはダイチはわからない。


「ご推察にお任せしよう。それで──、時間は貰えないのだろうか?」


 最後の言葉は乱獅子に向けられたものだった。もちろん視線の一つも寄越されなかったが。


「乱獅子さんがてめぇに構ってる時間なんてあるわけないだろ!」

「そうか。それは残念だ」 


 セージはため息をつくと自分の白衣をつかむ男の手首をつかみ、捻りあげた。流れるような動き。床に座っていた不良たちが連鎖反応を起こしたように立ちあがる。

 あーあ。


「先に手を出してきたのはそちらだからな」


 そう断りを入れて。セージは左膝を男の腹に叩き込んだ。

 ダイチは額に手を当てて天を仰いだ。

 どこが穏便に、だ!

 セージは掴んでいた手を離して男を地面に放り投げる。

 一触即発の空気。もう淀みまくって数秒後には暴発確実だ。

 いつの間にか二人はぐるりと囲まれていた。セージとダイチは背中合わせに立った。


「お前に付き合うとろくな目にあわんな」

「ふざけんな。今のは完全にお前のせいだろ。話だけ聞いてさっさと帰るって言ったの誰だよ!」

「……話が通じない相手だった。不可抗力だ」

「どーすんだよ、コレ」

「攻撃してきたら対抗するしかないだろうな。サンドバックにされる趣味はあいにく持ち合わせていない」

「んなの、俺だってゴメンだ。けど、俺は鏑木の姿だから手伝えねーぞ。セージ、お前が頑張れ」


 セージはおもむろに白衣のポケットに手を突っ込んだ。取り出された手には小さなスプレー缶が握られている。


「こんなときのためにこれを用意してきた」

「なんだこれ」

「俺が発明したソレデキミモネンネンコロリーンver2だ」

「は?」

「嫌なやつにこれを吹きかければ一瞬でお陀…いや、ご就寝だ」

「ちょっと待て。いまお陀仏って言いかけなかったか?」

「気のせいだ。とにかくこれをやるから女らしく控えめに応戦しろ」

「えええ。いらんわそんな物騒なモン!」


 ぐいぐいと押し付けられる缶を押し返す。セージの作ったものなど怖くて使えたもんじゃない。


「何をこそこそ話してんだよ!」


 痺れを切らしたのかアフロ頭の不良が野球バットを振りかざして突っ込んできた。動きが大きすぎて楽に見切れる。ダイチとセージは左右に避ける。するとキラリと眼鏡を輝かせてセージが叫んだ。


「いまだ!」

「え!? あ、おりゃっ!」


 ぷしゅー、と音を立てて横っ面にスプレーを吹き付けた。


「ぎゃあああああ」


 断末魔のような悲鳴をあげて男が倒れた。体育館の広い天井に悲鳴が響き渡る。

 ダイチも彼らを取り囲む不良たちも今起こった理不尽極まりない出来事に思わず動けないでいる。ダイチは我に返ると満足げな表情のセージに詰め寄った。


「おま、おまっ、なんじゃこりゃ!」

「すっかり眠っているな。大成功だ」

「寝てるんじゃねーよ。気絶してんだよ。白目剥いてるじゃねーか!!」

「そうか?」

「そうだよ! 何で出来てるんだこれ!」

「ふむ。濃縮ハバネロエキス、蝮のエキス他にも色々入ってるが…もちろんいい夢を見れるようにラベンダーのアロマオイルも入っている」

「聞いた俺が馬鹿だった。──けど、」


 ダイチはニイッと笑みを浮かべた。


「役に立つのは確かだな」


 腕を交差させて構えるダイチに周囲の不良たちは慄いた。撫子の中身がダイチなことを知らない連中にとっては学園のマドンナが最も危険な武器を構えていることになるのだ。恐ろしい光景である。


「別に死ぬわけじゃない。どっからでもかかってこい」


 マッドサイエンティストは笑って、同じようにスプレーを構えた。







 面倒なことになった。

 どうしたものか、と考えるも思考はバラバラになるだけでまとまらない。

 廊下を足早に歩く彼の視線の先にショッキングピンクが横ぎった。

 ピンクの髪のツインテールの二人組の少女がいる。

 目を見開いて、足を止める。

 この学校であの少女たちを知らない者はいない。

 ツインテールの二人の少女も彼を見つけたのか、途端に顔を綻ばせた。同じ顔の双子の少女は揃えて口を開いた。


「あ、お兄ちゃん!」

「やっほー!」


 彼──狩谷大地は背を向けて脱兎のごとく逃げ出した。







「こんなもんか」


 ほうっとダイチは肩で息をつく。二人の足元には気絶した不良たちが転がっている。セージが攪乱している隙にダイチがスプレーで気絶させるという抜群のコンビネーションであっという間に立っているのはダイチとセージの二人だけになった。

 口笛が聞こえて、ダイチとセージは振り向いた。ソファに座っている乱獅子以外の二人がこちらを見ている。


「あーあ、すっかり下の子たち廼してくれちゃって。たかが二人…しかも一人は女の子なのに」

「どうする? このまま放っておくわけにもいかんだろ」

「仕方ないね。このままやられっぱなしっていうのも面目が立たないしね」


 なんだかさっきまでの下っ端連中とは雰囲気も違う。ダイチが本気を出せば負けることはないと思うが、如何せん今の撫子の身体でどこまで力を出せるかわかったもんじゃない。


「おいおいおい、なんでこんな大事になってんだよ…」

「スプレーももうなくなってしまったしな」


 空気が張り詰める。


「やめろ」


 沈黙を破ったのは今まで一声も発しなかった男のものだった。

 乱獅子龍之介。

 ダイチとセージは顔を見合わせた。

 我関せず、といった体だったのにどうやら引っ張り出すことに成功したようだ。


「リュウ。でも、この子たち達暴れすぎでしょ」

「うっせぇぞ。もとから突っかかっていったのは下の連中だろ。お前ら転がってる奴ら保健室連れてけ。オレはこいつらと話をする」

「……リュウがそういうならいいけどよ」


 二人は立ち上がり、転がっている男どもを担いだり引き摺ったりしながら体育館を出ていく。

 それを見送って、乱獅子は座ったまま口を開く。


「さて、と。オレに話があるらしいな」

「ええ。先輩に聞きたいことが」

「いいぜ。何でも聞きな」


 交渉はセージに任せダイチは乱獅子を観察する。学校きっての問題児、というが本当なのだろうか。確かに粗暴な感じは見受けられるが…。


「そうだ。これやるよ」


 乱獅子の指が動いた。弾かれた何かは弾丸のようにダイチの目を狙って一直線に進んできた。ダイチは素早く顔の前に手を翳しそれを掴み取る。握った手を開くと飴玉が二つ。レモン味とブドウ味。


「セージ、どっちにする?」

「お前、のんきすぎるだろう…」


 と言いつつしっかり選んでいる。セージがレモンにしたのでダイチはブドウを食べることにする。


「お前、撫子じゃないな。誰だ?」

「……」


 乱獅子の薄墨の瞳が興味深げにダイチの方を向く。乱獅子は足を組み直すと整った顔に笑みを乗せた。


「マッドサイエンティストと一緒のところからすると想像はつくけどな。一体何がどうなってんだ。おっと、何か言いたそうだな」

「……あなたが術をかけたのではないのか?」


 セージの問いに乱獅子は声を上げて笑った。


「どうやらオレのことをよく知ってるみたいだな」

「どういうことだよ。術ってなんだ?」

「乱獅子家ははるか昔から続く陰陽道の旧家だ」

「陰陽道ぉ?」

「そして同じように鏑木撫子も陰陽道の旧家の出だ。乱獅子家とは敵対しているけどな。鏑木という名前にどうも引っかかってな。さっき思い出した」

「オレは撫子のこと結構気に入ってるんだぜ。あのいつだって周りに怯えてるような顔、屈服させたくなる」


 その言い方にダイチはム、と眉を顰めた。セージが質問を重ねていく。


「陰陽道の術に身体の入れ替えというものはあるだろうか?」

「そこにいるの狩谷だろう?」


 セージの問いには答えず、返した掌で人差し指を向けられる。隣でセージの息を飲む音が聞こえた。ダイチはゆっくりと頷いた。今更隠したってどうしようもない。


「お前が今、撫子になってるんだとしたらお前の身体には撫子が入ってるわけだ」

「…そんなの当たり前だろ!」

「撫子が陰陽道の術が使えるってわかったんなら、答えは一つしかないんじゃないのか?」

「え? あ、……まさか」


 ダイチは声を上げた。乱獅子の言わんとしているところがわかったのだ。


「そうだ。さっき身体を入れ替える術があるかと聞いたな。答えは『YES』だ。古い術だけどな。それを使ってお前と身体を入れ替えたのは、オレじゃないなら撫子に決まってるだろうが」

「あなたがやったわけじゃないのか」

「何でオレがそんな得にならないことやらなきゃならないんだ? 落ちこぼれの撫子なんか興味ねえよ」

「落ちこぼれ? 彼女はいつも学年トップクラスの成績だが」

「表のお勉強のことじゃねえよ。オレ達の世界での話だ」


 つまり、撫子は陰陽術は不得手ということか。


「けど、ますますわっけわかんねえぞ。俺、鏑木に何か恨まれるようなことしたか?」

「恨んでいたとしてもお前と身体を入れ替える利点なんか…。やっぱり害しか思い浮かばない」

「セージィィィィ」

「なんだよ、本当のことを言ったまでだぞ」


 乱獅子は二人の掛け合いを面白そうに眺めていたが、やがて口を開く。


「陽が落ちるまでに術を解かないとそのままになるぞ」


 セージに掴みかかっていたダイチは「へっ?」と声を上げた。


「身体を入れ替える──転身術は禁術に近い。まあ、呪いみたいなもんだ。夜の訪れと共に術は完成する。つまり、ずっとそのままだ」


 ダイチはサアッと顔を青くした。なんてことだ。


「ど、どうやったら術を解けるんだよ!? アンタなんとかできねえのか!?」

「転身術は鏑木に伝わる術だから、オレが知るわけないだろ」

「とすると……鏑木になっているダイチがダイチになっている鏑木を見つけて術を解いてもらうしかないわけだ」

「──ッ、ややこしいわ!」


 撫子になっているダイチは頭を抱えながら叫んだ。











 体育館の外、木に寄りかかりながらダイチはセージに訊ねた。もうすぐ身体が入れ替わって4時間になる。

 セージはどこから取り出したのかシャボン玉を吹いている。


「で、どーするよ」

「どうするもこうするも鏑木を探すしかないだろう。彼女しか術を解けないそうだからな」

「探すって、どうやって」


 ダイチは吹きつけられたシャボン玉の大軍を手で払いながら尋ねた。


「虱潰し…と言いたいところだが、幸い手はある」

「おお、さすがセージ!どういう手だ!?」

「お前自分が今日どういう立場になっているかわかってるか?」


「立場…?」とダイチが首を傾げれば、セージは呆れ顔でシャボン玉をさらに吹き付けてきた。何なのだ一体。


「お前は今日、生徒会から学校中に指名手配されてるだろ。鏑木はそのせいで学校中の生徒から逃げ回っているはずだが…普段のお前のようにうまく逃げ切れるとは思わん。つまり、騒ぎが起きてるところに彼女はいるはずだ。お前の日頃の行い悪くてよかったな。まったくもって不幸中の幸いだ」

「なんか全然褒められてる気がしないんだけど…大体俺別に何も悪いことしてねーってのにあいつらが追っかけてくるんだろ」

「お前の言い分の是非はともかく騒ぎが起きてそうなところを探していくしかあるまい」

「結局地道に行くしかないってことか…セージ、ちょっと待て、動くな。今、俺はとてつもなく嫌な予感がする」


 ダイチの張り詰めた声にセージもシャボン玉を吹く手を止め、ダイチはシャボン玉を潰しながら校庭に目を凝らす。

 校庭に竜巻のような砂埃があがっていた。しかもそれは校庭を横切るようにしてこちらに向かってくるではないか。


「…俺の全細胞が! ここから逃げろと言っている!!」

「あー…あれはもしかして、お前の…」

「皆まで言うな! 俺は逃げ…ぐえっ」

「バカ言うな。僕はお前と違って彼女たちのことを気に入っている」


 走り出そうとしたところを襟を掴まれる。セージはダイチを引き摺りながら砂埃に向かって歩いていく。

 キイイッという音共にセージの前で何かが止まった。今の何と何が擦れた音なんだ。セージに引きずられたままダイチは頭の中で突っ込んだ。

 砂埃の中から現れたのは…二人の少女。ピンク色のツインテールが太陽の光にキラキラと反射して、二人の少女たちはそれに負けないくらいキラキラとした笑顔を浮かべた。


「セージくん!」

「やっぱり、セージくんだー!」

「や、二人とも久しぶりだな」


 ツインテールをひょこひょこ揺らしながら二人が駆け寄ってくる。ダイチは諦めたように──せめて二人に気づかれないように気配を押し殺していたが、双子は目ざとくダイチ──撫子の姿を目に止めた。


「後ろにいるのは……あーっ、ミイちゃん!この人!」

「うん、わかるよマイちゃん! ナデシコ先輩だ! 噂通り本当に美人さんだねえ!」

「ねえ、なんでセージくんがナデシコ先輩を引きずっているの?」

「もしかして二人はのっぴきならない仲とか!?」


 矢継ぎ早にピーチクパーチク騒ぎ立てる愚妹どもにダイチは耳を押さえた。

 いつも通りやかましくて仕方ない。なんだよ、のっぴきならない仲って。

 セージは慣れたもので興奮する彼女たちを宥めている。


「残念なことにそういうわけではないんだ。それより二人ともダイチに会わなかったか?」

「お兄ちゃん? うん、会ったよ!」


 それに反応したのは無言を貫こうと決めていたダイチだった。


「本当か!? いつ!?」

「ついさっき! 図書室の近くで会ったの! 声かけたのに走ってどっか行っちゃった! 可愛い妹たちを無視するなんてケシカランよね、マイちゃん!」

「ねー、ミイちゃん! あとで会ったら懲らしめてやらなきゃ!」


 恐ろしいことを言い始める二人である。


「それでどこに行ったのだ。ダイチは」

「んー、わかんない」


 ダイチはセージの白衣を引いて耳打ちする。


「どうするんだよ! もう日暮れまであんまり時間がねーぞ」

「そうだな、授業が終わって万が一下校されても困るしな」

「んーお兄ちゃんが校内にいるか知りたいの?」

「それなら下駄箱調べればいいんじゃないかなっ!」


「ねー」と笑いあうマイとミイにダイチとセージは顔を見合わせた。そりゃそうだ。






 誰もいなくなった体育館で乱獅子龍之介は一人窓から差し込む光を眺めていた。

 ソファの肘かけに頬杖をつくその顔に笑みが浮かんでいる。

 勿論、頭に浮かぶのはさっき舞い込んできた面白い退屈しのぎについてだ。


 転身術。

 さっき狩谷たちには撫子がその術を使ったと言ったが、それは事実ではあったが真実ではない。

 乱獅子が考えるに、その術を使ったのは撫子あいつの本意ではなかったはずだ。

 鏑木家に伝わる秘術に転身術ともう一つ、転心術というものがある。

 それは自分の気持ちを瞬時に相手に伝えるというものだ。

 恐らく撫子が使おうとしたのはそっちの方なのだ。


「クク…ウケるな。術に頼ったあげくに失敗とかいかにも撫子あいつらしい」


 乱獅子は立ち上がった。こんな面白い見世物、見逃すのはもったいない。







 正面玄関の下駄箱にやってくると(なぜかマイとミイも着いてきた)ダイチとセージは手分けして撫子とダイチの下駄箱を確認することにした。セージがダイチのダイチが撫子の下駄箱を調べることになった。ダイチはいつもの癖で自分の下駄箱を見に行こうとしたのだが、セージに「お前の下駄箱に鏑木が行ったことを誰かに見られて、身体が戻った後で鏑木にあらぬ噂が立ったら申し訳ない」と却下された。全くもってひどい扱いである。


「C組はここか。鏑木…鏑木…っと、お、あった」


 ダイチはパカリと下駄箱を開く。黒のパンプス──と、その上にある物を見つけダイチは手を伸ばした。

 三つ折りにされた紙だ。ダイチはそれを見てわなわなと震えはじめた。


「これは………!」


 女子生徒の下駄箱に入っていた手紙。世の常ならもちろん答えは一つしかない。

 だが、ダイチにその常識は通じなかった。

 目をカッと見開く。


「まさか、果たし状!?」


 悲しい哉、ダイチの経験によると靴箱に入っている手紙=果たし状だったのである。


 女子に果たし状を送りつけるなんて尋常じゃない。「鏑木も色々大変なんだな…」と呟き、ダイチは一言断りを入れてから蛇腹におられている紙をめくる。他人の手紙を開けるのは気が引けたが今回は非常事態だから仕方ない。一枚めくったところに場所と時間が書いてある。これはもう決定的だ。




「どうだ、あったか?」

「ああ、靴はある。それと他にも」

「他にも? というか、なんでお前は鏑木の靴を履いてるんだ?」


 お前の靴もちゃんとあったぞ、と言いながら戻ってきたセージが見たのはやたら真剣な顔をして撫子のパンプスを履いているダイチの姿だった。


「セージ、今何時だ?」

「もうすぐ17時だ」


 その言葉に舌打ちを一つ鳴らす。


「ちょっと、俺行ってくるわ」

「おい、行くってどこに…」


 ダイチは持っていた『果たし状』をセージに押し付けた。


「そこに書いてあるところ! たぶん撫子こいつに恨み持ってる奴から呼び出しだ。陰険な奴らだぜ。ちょっと行って代わりにシめてくらぁ!」

「おいおいおい、ちょっと待て! …行ってしまった」


 セージが止める間もなく、ダイチの姿は見えなくなってしまった。癖っ毛の頭をわしわしとかいてセージは溜息をつくと押し付けられた手紙を読み始めた。読み進めるうちにセージの頬に汗が流れる。


「…………これは、果たし状というよりむしろ」


 呟くと、背後から賑やかな足音が聞こえてきた。


「セージくん、ナデシコ先輩は?」

「なんか物凄い勢いで走ってくところをすれ違ったけど、どこ行ったの?」

「マイ、ミイ」


 セージが声をかける。二人はとてとてと近寄ってくるとセージの手元にある手紙を覗き込んだ。


「ひゃああああ!」

「うわああああ」


 読み進めるうちに二人の目がキラキラと輝き始めて、終いには奇声が飛び出てきた。


「セ、セセ、セージくん! これって!」

「ラブレターだよね!? 初めて見た! うわーうわーロマンチック!!」


 そうなのである。

 いきなり時間と待ち合わせ場所で始められている型破りなところはあるが、読むにつれてきちんとラブレターになっているのである。内容は簡潔にまとめるなら『ずっと好きだった。今日の5限終了後、校舎裏で待っている』──要するに告白の呼び出しである。

 それをどっかのバカは果たし状だと勘違いして飛び出していったのである。


「やっぱりバカ…」

「もしかしてナデシコ先輩このラブレターに書いてある場所に行ったの!?」

「五十人斬り伝説をしても好きだった人ってこの人のこと!? お付き合いするのかな!? 」

「違うんだ二人とも…あのバカは、果し合いに行ったんだ」

「果し合い?」


 首を傾げる二人に頭痛がしてきたセージであった。







「よお」


 暗がりの中から姿を見せた人物にダイチ──撫子はビクリと足を止めた。

 学ランを肩に羽織った長身の男。金髪はまるで獅子の鬣を思い起こさせる──乱獅子龍之介。

 乱獅子家の次期当主。


「や、やあ。俺に何か用か…?」


 手に湧き出る冷や汗を押し隠しながら、ダイチを装って口を開く。

 それに乱獅子はさも可笑しそうに笑い始めた。


「猿芝居はよせ。お前にそんな器用な真似できるわけないだろ、撫子」


 カッと身体が熱くなった。バレてる!?


「さっき俺のとこにお前の身体が来たぜ」

「か、狩谷くんが…?」


 途端におろおろとし始めるダイチの身体──撫子を見て、乱獅子はますます笑みを深くする。

 これを滑稽と言わずしてなんというのか。


「お前…狩谷に転心術を使おうとしただろ」

「なんで、それを…」

「意気地なしなお前がやろうとすることなんてわかりきってるんだよ。しかも失敗してるし」


 撫子は顔を伏せた。


「術を使って、自分の気持ちを伝えようなんてな。そうやって、術に頼ろうとするところがお前の弱いところだ」


「狩谷はお前を探してるぞ」

「えっ!」

「陽が落ちたら元の身体に戻れないって言っておいたからな」

「なんでそんなウソを…」

「そうでもしなきゃお前はずっと逃げ回ってるだけだろうが。ウジウジされるの目障りなんだよ。自分でまいた種なんだ。自分で落とし前をつけろ」


 撫子は学校のマドンナであるともてはやされているが、この学校の不良たちの頂点に君臨する乱獅子にとってもある意味『特別』な存在なのである。

 それは二人の家柄に関連するものでもあるし、彼女のオドオドした態度に苛々して目が離せないという個人的な感情に所以するものでもある。詰るところ、彼女は手のかかる妹分のようなものなのだ。非常に不本意なことに。


「西校舎の裏だ。早く行け」

「リュウちゃん…ありがとう」

「わかったらとっとと行け。あと、その呼び方やめろ」






 校舎裏──ダイチが到着するとそこには男が一人いるだけだった。もっと大人数がいると思ったのでなんだか拍子抜けだ。男はダイチに気づくと顔に満面の笑みを浮かべた。顔には絆創膏がいくつも貼られており、上半身もがっしりとしている。腕に相当筋肉がついているし、なかなか喧嘩慣れしてそうだとダイチは見て取った。


「来たか、撫子。…手紙読んでくれたんだな!!」


 大音声で話しかけられて、ダイチは耳を押さえた。煩い。


「おー、読んだ。こいつになんの恨みがあってこんな真似をすんだよ?」


「ここに来てくれたということは脈があると思っていいんだな! お前に手紙を送っても、何処からか嗅ぎ付けた笹川に没収されて焼却炉行きと聞くからな。俺はとても嬉しい!」


「笹川の手も掻い潜ってまで送りつけてきたのか……よっぽどこいつに恨みがあるみたいだな」


「俺の想いがようやく叶う日が来るとは! お前を手に入れたことで俺が新たな伝説になるわけだ!」


「なにが伝説だ。調子こいてんじゃねえぞ」






「……バカか、あいつら。全く会話が噛み合っておらんぞ」


 とは、セージである。二人からほど遠くない木に身を隠しつつ様子を見ていたが、どんどん手が付けられない状況になっているではないか。この状況どう収拾をつければいいのやら。

 立ったまま幹に手をつけて覗き込むセージの足元にしゃがみながら同じく二人を見守っていた双子の姉妹だったが、そのうちの一人がううんと唸り声を上げた。


「ねー…、セージくん、すごく変なことを聞くんだけどさ。あのナデシコ先輩って本当にナデシコ先輩?」

「ミイちゃん、私も今そう思ってた。なんか…あの斜めに突き抜けてる感じ…まるで」


「ダイチみたいか?」


 セージが苦笑しながら、彼女たちの頭に浮かんでいる名前を告げてやれば姉妹は同じ顔を驚きで彩った。


「さすが兄妹だな。今、あの撫子嬢はな、ダイチなんだ」

「どういうこと?」

「ナデシコ先輩が、お兄ちゃん?」


 今日ダイチに起こったことを掻い摘んで説明してやると、双子は感嘆のため息を吐いた。そのあと「お兄ちゃんらしい」と二人とも納得してしまった。さすがあのダイチの妹はこの程度では動じないらしい。


「俺の名前は普平雄太ふへいゆうた!」


 視線を戻すと、恋する少年が名乗りを上げているところだった。


「んん? 不平言うた?」

「違うよ。マイちゃん、普平雄太クンだよ」


 マイのボケを訂正するのはミイだ。


「聞き覚えのある名前だな」

「ボクシング部の子だよ。大会ですごい活躍したって友達が言ってた!」

「ああ、そういえばいつだかの校内新聞のトップを飾ってたことがあったな。どうりで見覚えがあるわけだ」


 外野がガヤガヤと雑談をしているうちに当事者たちの噛みあっていない会話は佳境に入ろうとしていた。



「鏑木撫子。お前に交際を申し込む!!」

「名乗りをあげるとはなかなか粋なやつじゃねえか。俺の名は……ちょっと待て、交際だと?」

「俺のラブレターは読んでくれたか!? 俺の気持ちをありったけ込めた!」

「……あれ、ラブレターだったのか」


 てっきり果たし状かと思ってた。でもあの形状なら誰もが勘違いするだろうと言い訳してもどうにもならない。


「へ、返事は!?」

「えーと…」


 ダイチは言葉に詰まった。さすがに本人でもないやつが勝手に返事したらまずい気がする。喧嘩の口上ならいくらでも述べられるが、告白の口上は門外漢である。


「オレはお前のことをずっと見てきた。ずっとずっと…」

「…」


 ストーカーか!と突っ込みたいのを飲み込んで、どうやってこの場を逃げ出そうかと考えていると、


「お前は恥ずかしがり屋だからな。大丈夫、お前の気持ちはわかってる」


 二人の間を詰めて、普平が素早くダイチの両手を取った。熱の籠った視線を同性から向けられて、ダイチはひくりと口元を引きつらせた。

 もちろん、傍から見たらボクシング部のエースが美少女の手を取り見つめ合う麗しいシーンである。



「あ! お兄ちゃん、魂抜けた! 今、空に魂魄飛んでったよ!」

「まずいよ! キャパオーバーになってる! 絶体絶命だよ! セージくん、どうしよう!?」

「そりゃあな、ぶふっ、百戦錬磨のダイチもさすがにこういう闘いはからっきしだろうから…ぶはっ、もうダメだ! 面白すぎる!!」


 セージは堪えきれず噴出すと、お腹を抱えて笑い始める。




「撫子、好きだ…」


 普平の顔が近づいてくるが、思考停止状態のダイチは反応できていない。

 唇が、近づいて──



 その時。



「待って!!」


 普平とダイチを挟んだ反対側から飛び込んでき人影があった。



「…あ! あれ!」

「あーーーっ」

「ああああ!」



 その人物を見てセージと双子の姉妹は大声を上げた。




 それは……ダイチだった。

 違う、正確にはダイチの体である。その中にいるのは、この騒動を巻き起こした張本人の撫子だ。


「て、てめぇ!? 狩谷! なんでここにっ」


 当然そのことを知らない普平は驚愕に目を見開き、次に怒りをあらわにした。


「その人から手を放して!」

「お前もやっぱり撫子のことを狙って…!」


 肩に置かれた手に力が籠る。はー、と撫子になっている方のダイチはため息をついた。


「好きな人はその人だけなの!」


「…へ?」


 撫子が普平に掴みかかっている。対するダイチは状況についていけずぽかんとして間抜けな声を出している。


「てめえ…やっぱり撫子のこと!噂は本当だったのか!俺の方が撫子にふさわしいってことを思い知らせてやる!」


 普平が撫子を押さえつけ大きく腕を振りかぶる。

 襲い来る痛みと衝撃を予想して撫子はぎゅっと目を瞑った。


 が。


「ったく。本人を差し置いて話進めるの反則だぜ」


 二人の間に身体をねじ込ませる。鋭い右ストレートをダイチは巧みに手首を弾くことで軌道を逸らした。

 女の細腕が自分の一撃を逸らしたことに普平は驚いて目を見開く。ダイチは不敵に笑った。


「それに、」


 己を省みず飛び込んでくる度胸、あの啖呵。

 気に入った。


「お前に撫子こいつはもったいねーよ」


 右脚が地面を踏みしめ、スカートから伸びる白い足が振り上げられる。左脚が鋭い鞭のようにしなり、男の首を刈った。見事な回し蹴りが決まり普平は地面に叩きつけられた。地面とキスしたまま、白目を剥いて気絶している。


「ふぅ。──平気か?」

「狩谷、くん」

「お、おい!」


 振り向くと、緊張から解放されて力が抜けたのか撫子はそのまま地面に崩れ落ちてしまった。慌てて抱き留める。自分の身体を抱きとめる不自然さを感じつつ、今はそんなことを言っている場合じゃないと頭から追い払う。セージとマイとミイがこちらに向かって駆けてくる。そのさらに向こうから獅子のような金髪を持つ男の姿が歩いてくるのが見えた。







 わかってはいたのだ。自分は間違ったことをしている、と。

 乱獅子に指摘されるまでもなく、術に頼るしかなかった自分はとても弱い。術者として半人前なくせに人の気持ちを動かそうなどなんと浅はかで卑劣だったのだろう。

 彼は撫子にとっては憧れだった。そして、彼は忘れていると思うが初めてまともな会話をしたあの日から憧れは恋に変わったのだ。

 臆病な自分は気持ちを告げることもできず彼を目で追うことしかできなかったが。彼と自分は住む世界が違う。彼女の知らないキラキラした世界で生きていたから。



 高1の冬……2月13日。授業後に生徒会長から頼まれたお使いで撫子は両手に大きな段ボールを抱えながら一階の廊下を歩いていた。この箱にはチョコレートが詰まっている。会長の発案で明日のバレンタインデーに生徒会総出で全校生徒にチョコを配ることになったのだ。と言っても、駄菓子のチョコだが、包装紙にはご丁寧にうちの学校の名前がプリントされている。「大量注文ついでに頼んだら喜んでやってくれた」とは会長の言だ。抜き打ち風紀チェックの日に生徒会の面々がチョコを配る風紀違反をするなんておかしいと副会長の柚月は会長に抗議をしていたが、「だからだよ。明日くらいは日頃のみんなの理解に感謝を示さないとね。…それに何より僕もチョコが欲しいし!!!」と最後の一言以外はまともなことを言った会長に押し切られる形でこの企画は会議を通ってしまった。そもそもこのチョコレート代は会長のポケットマネーから出ているのだから誰も文句を言えるはずがなかった。さすが財閥の御曹司と言ったところだ。今年から生徒会に入った撫子は始めのうちは彼の突飛な思い付きにも驚いていたが、段々と慣れてきた。突拍子なことを言いだす彼だが、どれもが生徒のことを思ってのことだからだ。

 肌に突き刺さるような寒さに自然と足取りも早まる。校庭から賑やかな声が聞こえてきて、撫子は校庭に面した窓に目を向けた。この寒空の下、サッカーに興じている生徒たちが見えた。

 その中の一人に茶髪の少年を見つけて撫子は思わず足を止めた。


(狩谷くんだ…。今日学校来てたんだ)


 その姿に目が釘付けになる。



「いえーい。おい、見たか!? ハットトリック!」


 フェイントをかけて追い抜き、ゴールのど真ん中にシュートを決めたダイチは拳を突き上げた。チームメイトが自分を讃えて駆け寄ってくれるだろうと勝利の余韻に浸っていた。が。


「いで!」


 その顔にボールが直撃した。


(あ!)


 味方チームのメンバーが目を吊り上げてダイチにボールを蹴りつけ始めたのだ。


「狩谷、てめぇふざけんな!」

「お前なぁぁ、なんでこっちのゴールに突っ込んでくんだよ! 敵味方の区別くらいつけろ!」

「なぁにがハットトリックだ。自殺点じゃボケ! あーあ、お前のせいで同点になっちまった」


 味方からはブーイングの嵐である。それをフォローするのは敵チームのメンバーだ。


「まぁまぁ、いいじゃんか。大体そっちの点数だって狩谷が入れたやつだろ」

「うぐぐ。まぁそうなんだけどよぉ」


 ダイチを睨みつけていたが、やがてはあと大きくため息をついた。


「ま、仕方ないか。ダイチだし」

「そうそ、狩谷だし」

「しっかし、やっぱりダイチがいると楽しいよな。お前ちゃんと学校来いよ。次から体育はバスケだぜ」

「え、マジで!? やりぃ、体育だけ絶対行くわ!」


 ドッと笑いが起きる。「体育の時だけってなんだよー」「エノちゃん先生怒るぞ~」と仲間から野次が飛ぶ。彼はいつだって人気者だ。


「いいなぁ」


 つい口にしていた。

 そう、いいなぁ、なのだ。コツン、と額を窓ガラスに押し付ける。

 ガラスを隔てた先の世界が自分にはとても遠い。撫子が辿り着きたくても絶対辿れない道の先にいるのだ。遠巻きに見られる自分とは違う、もっと暖かくてキラキラした場所に。


「いいなぁ」


 もう一度呟いた。


 ──私もあんな場所に行きたい。


 隣の空いていた窓からヒヤリとした空気が流れ込んできた。深々と身体に寒さが染み込んでいく。まるでお前には無理だと言うように。


「わかってる……そんなこと」


 小さく頭を振って、眩しい光景から視線を引き剥がし歩き出す。


 だから、


「あぶねえ!」


 それは運命だったのかもしれない。恋に落ちる運命の音。


 衝撃と鈍い痛み。気付いたら段ボールから手が離れ、撫子は吹き飛ばされていた。

 廊下に手をついて隣を見るとサッカーボールが転がっていた。

 どうやら開けていた窓から方向を誤ったボールが飛び込んできたらしい。


「おーい、大丈夫か?」


 涙で滲んだ視界に飛び込んできたのは金色だった。

 ──太陽みたい。

 それが彼の茶髪が光の反射で金色に輝いて見えたと気づいたのはしばらくしてからだった。

 狩谷大地。

 憧れの人が窓のサッシを乗り越えて自分に向かってくるではないか!

 撫子はわたわたと立ち上がろうとしたが押し留められる。


「バ、バカッ。動くなって。お前、頭から血が…」


 額に手を持っていくと指に少し血が付いた。


「大丈夫です…」

「いやいやいや、大丈夫じゃねーから! ちょっと待てって」


 ダイチは落ちていたサッカーボールを掴み、校庭に向かって投げると「俺、抜けるわ!」と大きな声でチームメイトに叫んだ。そして再び撫子の近くに来ると背を向けてしゃがみ込んだ。


「ほら、乗れって。保健室に連れて行ってやるから」

「え、でも…」


 大丈夫ですと言えばいいのか、自分で歩けるといえばいいのか迷っていると、痺れを切らしたダイチの方が動きが早かった。くるりと向き直られ、目が合ったことに固まっていると膝に手を入れられて持ち上げられる。


「ちょ、ちょっと待ってください…!」


 これは柚月が貸してくれたマンガにあったお姫様抱っこというやつではないか!

 顔が熱い。余計に頭に血が上って血が噴出してきたらどうしよう。


「暴れるなって。落ちて怪我したくないだろ」


 ダイチの言葉に大人しくなる。

 ダイチの腕の中で揺られるのにもようやく少し慣れてきたころ、視線がちらりと降りてきて、また目が合った。


「そのリボンの色…同学年だな。何組?」

「A組です…」

「へえ、隣か! 俺はB組なんだ。狩谷ダイチ。まあ、あんまり学校は来てないから知らないか」


 そんなことない、よく知ってる。名前を尋ねられて、やっぱり私のことなんか知らないよねと思いつつ正直に答える。


「撫子…って花の名前だよな? 花の名前とかキレイだな」


 間近で笑う彼の顔を見て、もうどうすればいいかわからなかった。

 ああ、もう。誰か、助けて。

 心臓がバクバクして口から飛び出そう。




「狩谷大地?」

「うん」

「あの問題児がどうかしたの? あ、まさかあいつ撫子にも迷惑かけたとか!?」

「ち、違うの柚月ちゃん。ただどんな人なのかなぁって。ほら、生徒会でもいつも追いかけているし」


 撫子が取り繕うと柚月は頬に人差し指を当てて考え込んでしまった。


「んー…、バカ」

「ば、ばか…?」

「そうだなぁ。悪いやつじゃないのよ。ただバカなだけで。問題ばっかり起こして手を焼かせるけど、たまーにいいこともするしね」

「……あのさ、柚月ちゃんは狩谷くんが好きなの?」

「は?」

「その、仲良さそうだし、良く知ってるし…」


 撫子の言葉にぽかんと口を開けていた柚月だったが、撫子がはらはらしながら次の言葉を待っていると柚月はぶはっと噴出した。


「ちょ、いきなり何を言い出すかと思ったらあたしがあいつのことを好きかって? 冗談やめてよ! どうしてあたしがあんなやつを好きになんなきゃいけないのよ」

「だ、だって」

「確かにあいつとは中学から一緒だし付き合いも長いけどね。好きになるとか絶対にないわ」


 力いっぱい否定するのでどうやら本心らしい。


「しかしまさか撫子の恋愛に関する言葉がでてくるとはねー。なになに、好きな人でもできたの?」

「え? その、なんていうか、好きというか気になるってだけで」

「おお! 誰だれ? うちのガッコの人?」


 まさか今さっきまで話題に上がっていた人ですとは言えないので、頷くだけに留めた。


「そっかぁ。撫子に好きな人かー。あたし応援するよ。なんなら副会長権限使ってもいいし!」

「え!それはさすがにどうかと思うから気持ちだけもらっておくね」


 顔を見合わせて二人で笑いあった。

 狩谷くんのことをもっと知りたい。



 まさか、この時の会話が聞かれているとは思わなかった。

 次の日学校に来たら、女友達から取り囲まれ「撫子は今日、チョコ誰にあげるつもりなの?」と興味津々といった顔で訊ねられたり、男の子に呼び出されてなぜか告白されるたり。その数の多さに吃驚してしまい途中から柚月に助けを求めたほどだ。柚月は事情を知ると副会長権限を使い、学校中に噂を流した。おかげで告白五十人斬り伝説というわけのわからない伝説が出来てしまった。

 結局、昨日のお礼も兼ねてダイチに渡そうと思っていたチョコを取り出すこともないまま一日が終わってしまた。だから、今年こそはと思っていたのに、また失敗してしまったようだ。




「お、起きたか?」

「狩谷くん!? ここ、保健室…? あ、あれ? 身体…元に戻ってる…」


 ダイチの顔が目の前にあって、撫子は飛び起きた。自分の身体を見るといつもの自分だ。ダイチの身体も戻っている。撫子のいるベッドに腰掛けたままダイチは笑う。


「鏑木が気を失った後、乱獅子が来て戻してくれたんだよ。自分は戻せないとか言ってたのにな」


 そう言って、ダイチは両手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。

 半日振りの我が体。やっぱり自分の体が一番しっくりくる。

 撫子を見ると落ちるんじゃないかというくらいベッドの隅に座り申し訳なさそうに眉を下げている。


「なあ」


 ダイチが声をかけると撫子の肩がびくりと跳ねた。まるでこっちが悪いことをしたみたいだ。


「少しでも悪かったと思ってるのならこっち見てくんない?」


 ちょっと意地悪な言い方かなと思ったけど、今日の苦労を思えばこれくらい許されるはずだ。

 撫子は目を伏せながらゆっくりと体の向きを変えた。膝に置いた手が小さく震えている。


「さてと、理由を聞かせてほしいな。どうしてこんなことをしたのか」


 理由。勿論彼にはそれを知る権利がある。


「ずっと、ありがとうって、それだけを伝えたくて」

「ありがとうって何が?」

「一年前の今日、サッカーボールに当たって怪我した私を保健室まで運んでくれたから…」

「そんなことあったっけ?」


 消えそうな声であの日のことを話せば、「ああ、そんなことあったかも」とぼんやりとながら思い出してくれたらしい。


「それだけ言うためにあんな波乱万丈なことしてくれたわけ?」

「…ごめんなさい」


 萎れる撫子にダイチは肩を竦めて笑った。


「ま、いいよ。結構楽しかったし。もう一度は勘弁だけど」


 はっはっは、とダイチが笑うと釣られたように撫子の顔にも笑みが浮かぶ。


「本当にごめんなさい。そして、また助けてくれてありがとう」


 ダイチは手をついてぐっと撫子に顔を近づける。

 長い睫、小さな鼻、形の良い桜色の唇。

 俺はこんなのと入れ替わってたのか。なんならもうちょっと満喫しておくべきだったかな、と少し後悔した。色々と楽しいことができたかもしれないのに。


「あ、あの」


 視線に耐えきれなくなったのか撫子が小さく声を上げた。


「ごめんなさいもありがとうもわかった。けど、それだけ?」

「え?」

「鏑木はさ、もうちょっとわがままになった方がいいなァ」

「それはどういう…」

「さっきの言葉。続きないの?」


 撫子の頬にサッと朱が差した。


「俺を助けてくれたときすっげーかっこよかったなァ」

「…う」

「俺が女なら惚れてたかも」

「…あうう」

「あ。でも俺、そん時女になってたわ」


 その言葉に撫子は目を瞠る。それは、つまり。

 ダイチは意地の悪い笑みを浮かべた。散々な目に合ったのだからこれくらい期待したっていいだろう?

 撫子は大きく息を吸った。


「好き、です。ずっと、好きでした。狩谷くん、私と…付き合ってください」


 真っ赤になって言葉を紡ぐ撫子はそりゃあもう可愛かった。

 ダイチは彼女の片手を取りそっと指先に口づけた。


「──喜んで」


【Happy ending of the story ... GOTCHA!!】


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