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ぬ・い・ぐ・る・み

 どうも、abyss 零です。女性回。前にもやったような、女性回。それでは本編どうぞ。

 レインたちは温泉の脱衣室にいた。


「レイン……もしかしてまた大きくなった?」


 ブルートは、レインの胸を見て言った。


「え? そ、そう? うーん、気になったことはないけど……」


 レインは胴に巻いたバスタオル越しに自分の胸に触れた。その双房は、なかなか豊満だ。


「……ふーん? いいご身分よねー。普段から大きいから、日に日に育つのも当たり前で気がつかないってことねー。あーあ、いいなー、あたしも大きくなりたいなー」

「そ、そんなイジワル言わないでよ……こういうのは……ほら、よく言うじゃない? みんな違ってみんな良いって。だから、ね……?」


 ふてくされるブルートを、レインはなんとか慰めようとした。


「いいもん。あたしにはスノウがいるもん。さ、スノウ、このデカおっぱいは置いといて――」

「デ、デカおっぱい!?」

「――あたしと一緒に温泉いこ!」


 ブルートは、服を脱ぎかけのスノウの手を取った。


「……ん?」


 その折に、ふと彼女の胸を見ることになったわけだが。果たして、その胸に違和感を禁じ得ないブルートだった。


「……スノウ。ちょっと大きくなってない?」


 言われた瞬間。スノウは顔を真っ赤にして、自分の胸を守るように腕で覆い隠した。


「う……そうなの、かな……」


 ちょっと嬉しそうだ。


「うん……分かるくらいには……」


 ブルートはやや不機嫌だ。というか失望している。


「あー……うん……もう、先に入ってるね」


 ブルートは独り、浴場へ入っていった。


「えぇ……」


 レインは苦い顔をして、彼女の後ろ姿を見送った。だが、直後にブルートは脱衣室へ舞い戻ってきた。


「ねえねえ! お風呂すごいよ! 見て見て早く早く!」


 さっきのことなど忘れ去ったかのような無邪気な笑顔で、ドアから頭だけ覗かせてレインたち4人に言うのだ。

 嬉々として浴場へ小走りで戻るブルートを見送った4人は、期待を膨らませながら互いの顔を見合わせていた。


「わーい、早くいこ早くいこー!」


 チルドは、やはり子どもということか、すごく興奮していた。ゆっくりした動作で服を脱ぐグロウを急かすように揺さぶる。


「う~……まあいい湯ならいっか。気乗りしてきた」


 珍しく気乗りしているらしかった。


「よしきた~」


 グロウは、チルドに手を引かれて浴場へ向かった。


「私たちも早く行こっか!」

「うんっ……」


 レインとスノウも、湯けむりの立ち上る浴室へ入った。そこは、足を踏み入れた瞬間、クラッとめまいを覚えるほどの湯気と、至るところに取りつけられた上品なライトとの絶妙なコントラストによって、息苦しさに心地よさを見出だすような場所だった。

 期待が持てた。みんなウキウキしてシャワーを浴び、身体を流していく。


「わーい、おーんーせーんー!」

「こら~、走ると転ぶ~」


 グロウが注意している最中に、チルドは濡れた床で滑ってしまった。


「言わんこっちゃない~」


 チルドを案じて、グロウはやや駆け足で転んだ彼女へ近づく。しかし、グロウもチルドの数歩手前で同じようにこけた。


「えぇ!? ちょ、大丈夫!?」


 ブルートはシャンプーを洗い流し、2人に駆け寄った。彼女は転ばなかった。


「うんっ! だいじょーぶ!」

「ならよかった。お風呂お風呂」


 ブルートに身体を揺すられる前に、チルドとグロウは自力で起き上がった。


「私たちもいこっ」

「うんっ」


 レインとスノウも身体を洗い終え、タオルを胸部に巻いて立ち上がる。


「ねえ、この温泉には6つの秘湯があるらしいわ」


 ブルートが見つめる石碑を、他の4人も注視した。そこには、それぞれの湯の名と効能が刻まれていた。


「『サルの湯』。疲労回復効果……へぇ~……」

「なになに? 『オオカミの湯』、血行促進。おー、いいかも」

「『クマの湯』……恋愛運上昇……う、占い……?」

「『カエルの湯!』 びよー(美容)こーか(効果)! うんっ、チルドわかんないっ!」

「『ツルの湯』~……心の安らぎ……安らげるのか~……」

「『ハヤブサの湯』、滋養強壮。ほーん。なんや、なかなかええやないかい」


 最後。唐突に挟まれた男の関西弁に、全員が声のした方を振り返った。

 しかし、そこには誰もいない。5人は顔を見合わせる。その顔色はというと、シャワーを浴びた直後にも関わらず、みるみる血の気を失せていく。


「今、ボスタフの声しなかった?」


 足下をキョロキョロしながら、ブルートが我が身を抱いた。


「う、うん、そんなような気が……」


 レインも、ブルッと肩を震わせる。


「でも、いないよ~?」


 チルドはタタタと浴場を見て回るが、ぬいぐるみの姿はない。


「き、気のせい……だったのかな……?」


 スノウは言いつつも、怯えて後ずさった。


「そ~だよ、きっとそ~。みんなの潜在意識に眠るボスタフへの警戒心が、幻聴を引き起こしただけなんだよ~」


 グロウは間延びした口調で言い、疲労回復の『サルの湯』へと歩いていった。


「そっか! じゃあチルドも入る~! びよーこーかの温泉!」


 チルドはてくてく早足で『カエルの湯』へ向かう。


「――いないもの気にしてもしゃーない! あたしたちも入ろ!」


 ブルートは懸念を振り払うように言った。


「……私、『クマの湯』に入ってくる……!」

「……うん」


 スノウはレインに告げ、焦げ茶色の湯に浸かった。


「スノウも最近、結構積極的よね……」

「え?」

「なんでもなーい」


 ブルートは意味深な台詞をレインに言い残し、グロウと同様『サルの湯』を選んだ。

 レインは釈然としないまま、血行促進の効能があるという『オオカミの湯』へ入った。

 灰色の温泉というのは今まで経験がなかったが、湯加減は上々だ。なかなかの熱さだが、それが心地いい。

 一方、ブルートとグロウが入った『サルの湯』は薄茶色を帯びていて、湯はしっとりと温かい。どちらかといえば物足りなくはあるが、しばらくは堪能していたい温泉である。


「はぁ~……いいお湯……」


 グロウが、似合わぬエロティックな声音で呟いた。


「ん~、気持ちいい~……。正直『サルの湯』ってネーミングはどうかと思ったけど、やっぱり温泉っていい~……」


 ブルートはお湯を手ですくい、肩へかけた。何気なしに浴槽の底へ視線を落とす。

 底は、ほのかに赤色を帯びていた。源泉の本来の色が残っているのか、それとも光の加減でそう見えているだけなのか。

 一瞬の思考の間に、答えは自ら『漂流して』きた。ブルートの視界に、1匹のぬいぐるみが現れた。それは仰向けで、明らかに温泉に浸かった者を見つめるための態勢であった。

 湯の赤色は、ボスタフの鼻血だった。


「きゃああああああああああああ!」


 ブルートは悲鳴をあげ、『サルの湯』から出た。そのまま浴場を走って横断し、ヒステリーのあまり途中、盛大にこけてしまいながらも、脱衣室へと避難した。

 レイン、スノウ、チルドらもそのただならぬ様子を目の当たりにし、慌てて彼女を追った。


「どうしたの!? ブルート」


 レインは、部屋の端から浴場を睨みつけるブルートを介抱した。


「ボスタフが! ボスタフが覗きしてた!」

「えぇ!? うそぉ!?」


 レインもおぞましいものを見る眼で浴場のドアの向こうを凝視する。


「いつからいたんだろー?」

「うん……私たちも特別注意してたわけじゃなかったけど……どうやって……」

「ぬいぐるみだから入れたのかなー?」


 チルドとスノウが顔を見合わせる。


「さっきの声も、聞き間違えじゃなかったんだ……だとしたら、最初から……」


 レインはおぞましげに呟いた。


「男共は何をやってんのよ! あんなスケベぬいぐるみ、ネルシスと一緒に縛りつけて監視しててよ!」


 ブルートが叫んだ、まさにその時。まるで彼女の怒号が飛ぶのを見計らったかのようなタイミングで、脱衣室のドアがピシャッと開かれる。

 グレイだ。


「大丈夫か!? ボスタフが覗きに入っ――」


 刹那。4人の裸体を目撃したグレイ。意図せずして、彼はこの一連の未来を旅の中で、女性全員の裸を見たのであった。


「きゃああああああああああああ!」

「しまったごめブッ!」


 レインは叫び、スノウはその場にうずくまり、チルドはキョトンとグレイを見つめた。そして、ブルートは音速でグレイに近づき、脱衣かごで彼を殴り飛ばした。

 グレイはすぐさま出ていった。入れ代わるように、外で騒動を聞いていたであろうにも関わらず、今度はネルシスが入ってきた。


「気をつけろ! ボ――」

「あんたは確信犯だろーっ!」

「スタフグアッ!」


 ブルートはネルシスには、なんと頭突きをお見舞いした。


「湯冷めしちゃうよ~」


 一方。グロウは独り、温泉に残って4人を案じた。


「ゴボゴボゴボゴボ (うほー、ええ身体やな~) 」


 ボスタフはグロウの肢体をガン見し、水底から喋りかけてくる。が、その内容は当然、グロウには理解できない。


「ん~? ぬいぐるみ~?」

「ゴボゴボゴボ (せや、ワイはただのぬいぐるみ。せやから気にせず、ゆっくり湯に浸かっててええんやで) 」

「な~んか言ってんねぇ」

「ゴボゴボ (にしても、ホンマにナイスバデーやな。豊満な胸! あとヒップ! そのくせ引き締まったウエスト! も~これはたまらんで) 」

「あ~、そういえばキミ、チルドのぬいぐるみか~。オスの」

「ゴボゴボゴボゴボゴボ (せや、ワイはぬいぐるみ。物言わぬただのぬいぐるみなんやで。せやから――) 」

「覗き厳禁~」

「ゴボーーーーーッ! (遅~~~~~!) 」


 ボスタフが、グロウが放った小規模の大地魔法に吹っ飛ばされた。また、温泉は建物の土台たる地面が隆起したため、それなりに破壊された。

 その轟音を聞きつけた従業員や他の宿泊客が駆けつけ、この件がホテルの一大騒動となったのは言うまでもない。

 温泉にいきたくなってきたので、その願望+女性陣のイチャイチャ&ハプニングを取り入れた今回でした。

 また第一章でも似たような場面が登場したように思うやつですが、覗き魔の出没という点が異なりますね。

 ボスタフ初登場の回から、彼を頑なに『人形』と誤記しているのに気づいたので、今回のタイトルはそこから採りました (?) 。今回からはしっかり『ぬいぐるみ』です。


 年内に第四章を終わらせたいのですが、いけるかなあ。頑張ります。

 ではまた。

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