いつもの光景?
どうも、abyss 零です。今回は2日連続投稿です。それでは、本編どうぞ。
グレイたちはホテル『Djembe』に戻ってきた。
「明日は大一番だ。絶対に勝つ。支度を済ませて早めに休んで、万全の状態を整えとけ」
未来のクロムの言うことはもっともだ。クロムを救出できなければ、グレイたちは元の時代へ戻ることが出来ない。また、未来のクロムの目的を果たすことも叶わない。
クロムを救うことが、この場の全員を救うことになるのだ。
「それもそうね。じゃ、男共は出てって。ここ、女子部屋だから」
ブルートがドアを指した。ホテルは2部屋とってある。それぞれ男性と女性とで分けるためだ。これはスリートとスノウの判断であり、そしてそれは当然の配慮であると思われたが、2名ほどこの采配に異議を唱える者があった。
「おい、なぜ男女で部屋を分ける必要がある。俺たちは、仲間だろ」
「せや。水くさいこと言わんと、そないな性別の壁なんか取っ払って、お互い仲良く歩み寄っていこうや」
ネルシスとボスタフだった。しかも真顔だ。
「いや、男女一緒の部屋とかないから。普通に。女の子には女の子特有のあれこれがあるし。あんたたち信用ならないし」
ブルートはキッパリと言い切った。
「失敬な。人をそんな色情魔みたいな眼で見て。俺がいつそんな嫌疑をかけられるようなことをした」
「いっつもしてんじゃないのよ!」
素知らぬ顔で、心外だとでも言いたげなネルシスに、ブルートは憤慨した。
「なら、ワイはセーフやな。ワイはそんなことしてへんもんな」
「あんたもアウトよ」
「なんでや!?」
「見たら分かるわよ。あいつの同類だって」
「なにをぅ!? 人をそないな見てくれで判断してもうたら誰も信用できんくなるで! 少しは信用したって! 信頼したってぇな! 人間、信じ合うことが一番大事やろ! ワイはそんなことせぇへん! しようとしたこともないやろがい!」
「そんなこと関係ないの! とにかく、男と女が同じ部屋で寝泊まりするなんて言語道断! ほら、さっさと出てって!」
ブルートはグレイたちを含めた男性陣を、全員部屋から追い出した。
「なんだよ、あいつ! ネルシスはともかく、俺たちまでふしだら扱いして! 向こうが出ていけばいいじゃないか!」
ヘイルは勢いよく隣の部屋のドアを開けた。
「スノウさんと話して、あの部屋を女性部屋、隣を男性部屋と予め決めてあったんです。それに、年頃の女の子が異性を気にするのは当然のことです。……あなたたちはデリカシーがなさすぎますよ」
スリートはヘイルを宥め、ネルシスとボスタフを嗜めた。
「抜かせ。俺は誰よりも女を大切に扱う。時に優しく、時に激しく、な」
「抜かしとんのはお前やアホ。お前のせいでワイまでとばっちり喰ろうてもうたやないかい。どないすんねんホンマに」
ネルシスとボスタフも、あーだこーだ言い合いながら部屋へ入った。
「……ごめん、騒々しいよな」
「平気だ。慣れてる」
グレイが申し訳なさそうに詫びると、未来のクロムは呆れたような眼つきでネルシスたちの背中を見つめた。
男性陣5人(+1体)が部屋に入ると、ヘイルが『早速だが』とみんなを振り返って切り出した。
「誰がどこで寝るか、ここいらでそろそろ決めておこうじゃないか」
ベッドは2つ。ソファも2つ。部屋のレイアウトを一目見た瞬間から、誰もが無意識に思った。
ベッドで寝たい。
「俺は断然ベッドだ。そして無論、男同士で1つのベッドで寝る気はない。そんなことをするくらいなら今すぐその窓から飛び降りるね」
ネルシスの一言が、場の膠着状態となる可能性を初手から潰した。これで、ベッドで眠れるのは限られた者のみという先入観と雰囲気が完成した。
即ち、この話し合いがベッド争奪戦となる様相を呈し始めたということに他ならない。
「なら、まずワイがベッドで寝るのは確定やな」
ボスタフが言った。彼はいつの間にかベッド脇のチェストの端に座って、偉そうに腕を足を組んでいた。
「見ての通り、ワイは小さな人形や。ソファで寝たら隙間にはまってしまうかもしれへんし、床で寝てもうたらトイレに起きてきた誰かに踏み潰されてしまうリスクがある。せやから――」
「お前はそのチェストでいいだろ」
未来のクロムの一声で、ボスタフの処遇は決した。
「さて、本題に入ろうか。誰がベッドで寝るか……ベッドとソファの数的に、おそらく1人は床で寝ることになるが」
ネルシスが、まるでこの場の全員を敵と見なしているかのように眼光を煌めかせて言った。
「それでしたら、僕が床で寝ます」
スリートが眼鏡をくいっと上げた。
「あなた方では――」
「お、マジか、ありがとう」
「なら決まりだな」
スリートが続けようとした言葉を、ヘイルとネルシスが封殺した。
「よし、あとの4人はどうしようか」
何事もなかったかのように話し合いを進めるヘイル。スリートは腹立たしげな顔をしたが、黙ってクローゼットからシーツなどを取り出し始めた。
「なら、俺がソファで寝る。あとは好きにしてくれ」
未来のクロムが面倒そうに言い、ローブを片方のソファの背もたれにかけた。
「じゃあ、俺もソファでいいよ。ネルシスとヘイルがベッドを使えばいい」
グレイもクロムに倣い、空いている方のソファをポンと叩いた。
「やったぜ。今夜のベッドは俺たちのもんだ」
「よっしゃあ! あ、ところでそうと決まったら些細な問題かもしれんが、どっちのベッドで寝たいとかあるか? 俺はどっちでも構わないから、なにか好みがあるなら考慮するぞ」
「俺は窓側で寝る。この街のきらびやかな夜景は俺にぴったりだ」
「そうか。わかった」
ネルシスとヘイルも、話がまとまったようだった。
「そしたら、あとは風呂入って支度して寝るか」
グレイは朱のマントを外しながら言った。
「このホテルには温泉があるそうです。この部屋にもシャワールームはありますが、なんでもここの温泉は地元では有名らしいと、ブルートさんたちが話しているのを聞きました」
「ほう。混浴か?」
「なわけないでしょう。男女で分かれてます。さっきも部屋の外から彼女たちの声が聞こえました。はしゃいでるようだったので、おそらく温泉に入りに行ったのでしょう」
「なんだと。おい、それを早く言えよ、お前。俺たちも行くぞ」
ネルシスがふしだらな表情を浮かべながら立ち上がった。尚も何か言おうとしたスリートだったが、それは部屋のドアが閉まるガチャンという音に遮られた。
全員がドアを見た。誰か入ってきたか、あるいは出ていったか。しかし来訪者の姿はない。となれば誰かが出ていったのだろう。
しかし、不可解なことに、この場にいない人物はいなかった。グレイ、ヘイル、スリート、ネルシス、そして未来のクロム――それぞれシーツを床に敷いたり、ソファやベッドに腰かけるなどして部屋にいた。
となれば。誰が、この部屋から出ていったのだ。
5人は、おもむろにベッド脇のチェストを見た。さっきまでボスタフが座っていた場所だ。
だが、そこに彼の姿はなかった。
「――あの野郎」
ネルシスが呟いた。5人が『しまった』と顔を見合わせているところから、どうやら全員の懸念は一致していたようだった。
ボスタフは女湯を覗きに行ったのだ。
男性陣が普段みたいな調子を取り戻して、割りとリラックスできているという、そんな話でした。第一章でも似たような場面が登場したように思います。
そうくると、次回は……。




