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最終章 THE ASCENSION(後編)

 クラウンは、玉座に腰かけグレイとレインを見た。

 彼は大剣を出現させ、『鳳凰の仮面』を着けて立ち上がる。

 それらは、かつてメシアやイーヴァスが使っていたものだ。


 我は神に等しい存在となった――クラウンは口を開いた。

 メシアが奪った【救世主】の全能の力、パナギアが奪った【預言者】の未来を視る力、そして元々クラウンが持つ【不死】の力。

 今や『3つの神業(しんぎ)』を併せ持つ自身は、無敵となった、と。


 それでも、グレイたちは退く気などなかった。

 クロムやスノウ、これまで失った全ての犠牲・命のためにも、ここで決着をつける。

 グレイとレインは、クラウンと最後の戦いの火蓋を切って落とした。



 メシアの大剣、ナザレの即死魔法、ラバルムの未来予知など、様々な能力を駆使し絶対的な優位に立つクラウン。

 グレイとレインはなんとか食い下がるが、これまで培ってきた力を全開し、渾身の一撃を命中させても、クラウンは自らの不死性によって全く致命傷を負わない。

 絶望的な状況を覆すことはできず、ついにレインが命を落としてしまう。


 愛するものを奪われ、グレイは激昂する。

 クラウンを殺す、そのためだけに限界を超えて自らの力を引き出す。

 だが、それでもクラウンには全く歯が立たなかった。彼の戦闘能力は桁違いな上、不死の力を凌駕する有効打を与えることができない。


 グレイたった1人で戦うには、あまりに無茶苦茶な相手だった。

 出鱈目な能力の数々を前に、成す術はなかった。

 グレイは諦めていなかった。最後まで抗うと、誓っていた。


 しかし、運命は変わらない。

 敗北を悟ったグレイは、死んだらどうなるのか、恐くなった。

 今までの選択は、決断は、間違っていたのだろうか。


 一瞬の後、グレイは死んだ……。




 グレイは、仰向けに倒れていた。

 玉座の間の天井が近づいてくる。シュロスの天蓋を透過し、空へ吸い寄せられていく。

 空の向こう側から降り注ぐ光の中に目を凝らすと、何者かがやって来た。


 レインが、クロムが、スノウが。順に姿を現す。

 グレイは、1人で最後まで戦った。死を迎えた今、魂は元の世界へ帰ることが出来る。

 もう、全て終わったのだと3人は言った。


 続々と、他の魂と邂逅する。かつて、共に戦った仲間たちだ。

 チルド、ネルシス、ブルート、ヘイル、スリート、グロウ……。

 命を落とした彼らは、先に元の世界へ帰っていたが、最後に残ったグレイの死に呼応して、その勇気を讃え、迎えに来たと言う。


 共に帰ろう。レインやクロム、仲間たちが手を伸べる。

 グレイは、光の温もりと仲間の安らぎ、元の世界での普通の生活を求め、その手を取ろうとした。

 だが、意識が遠のく中で、疑念がよぎる。このまま帰っていいのだろうか。



 グレイは振り返る。自分の体が青い粒子と化し始め、それをクラウンが見つめている。

 クラウンを生かしておけば、また世界(オクシデント)へ襲撃をしかけるかもしれない。それでは、世界を救ったことにはならないのではないか。

 何より、クラウン自身が救われない。


 グレイはレインたちの手を取らなかった。

 叶うなら、ここに残り、最後まで戦いたい。

 グレイの選んだ道を、仲間たちは笑って受け入れた。


 すると、他の救世主たちも次々と集まってきた。

 ヘイル、シース、アロー、ガード、バレット、ショウ、アヤ、マリカ、リュウ、ヒロ。

 かつて同じ世界から召喚された全ての仲間の魂が、グレイの元へ集結した。


 仲間の力を借りて、グレイは死んだはずの自分の体へと戻った。




 グレイは立ち上がった。

 仲間たちの魂・力が炎となって、周囲に揺らめく。

 クラウンは、普通の少年が死から蘇り、新たな力を纏う様に目を見開いた。


 グレイは、仲間の救世主たちが使っていた力を全て受け継いだ状態となっていた。

 クラウンに次ぐ、限りなく全能に近い存在となったのだ。

 友の想い・魂を背負ったグレイは、毅然とクラウンに相対した。


 俺は、あんたと話がしたい。

 グレイは問う。クラウンは、何がしたいのか。

 戦いの先に、どんな世界を望むのか。



 クラウンは語り始める。

 救世主や預言者、世界を導く存在を滅ぼし、民衆の自主性と意志力を取り戻す。

 絶対的な指導者は、人々を堕落させる。停滞した世界に、誰しもが変革を起こせる、可能性と希望で満ちた自由をもたらすのだ。


 グレイも、クラウンも、救世主の力を持っている。

 グレイを倒せば、全ての救世主が死んだことになる。

 そして、自身はこの死後の世界(タルタロス)で、救世主の力を永遠に封じ込める。


 それが、自分を世界(オクシデント)から追放したアシュワへの復讐になる、と。



 クラウンの思惑を聞き、グレイは改めて決意する。

 俺は生きるために戦う。

 たとえクラウンのやろうとしていることが正しかったとしても、最後まで死に抗ってみせる。


 決戦の幕が上がった。

 様々な武器・魔法を使い、互角の戦いを繰り広げるグレイとクラウン。

 しかし、未来を視ることの出来るクラウンの方が優勢だった。


 戦いの中で、クラウンと対峙する中で、グレイは悟る。

 もしかすると、クラウンは最初から自身も死ぬつもりで戦っていたのではないか。

 これはクラウンにとって、死ぬための戦いだったのでは?


 

 一進一退の攻防の末、満身創痍の2人は最後の一撃に懸けた。

 グレイは、レインやクロム、スノウやグロウ……全ての仲間の力を、全身全霊を込めて放った。

 【朱雀の(ヴァーミリオン)(ファイア)】――最後の炎が、クラウンに直撃した。


 クラウンは、満足そうに死んだ。その悠久に近い時を生きた亡骸は、砂となり散っていった。

 グレイもまた、力を使い果たし、最期の刻を迎えようとしていた。

 体が、青い粒子と化して、消えていく。


 みんなも、こんな気持ちだったのだろうか。

 そんなことを思いながら、グレイは空が近づいてくるのを見つめていた。

 死ぬのは、やっぱり恐かった。




 グレイは。

 異世界(オクシデント)の戦いに巻き込まれた少年は。

 終わりの瞬間まで、懸命に生き抜いたのだった。

 次回、最終話をもって本作は完結です。

 各章ダイジェストを執筆中に検討していましたが、最終話だけは、しっかり描くことにしました。


 物語の結末を、どうぞご一読いただけましたら幸いです。

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