最終章 THE ASCENSION(前編)
最終章も、前後編に分けました。
最後なので、物語も相応のボリュームに。
残るドラマを全て解決していきます。
赤い空、白い砂。
殺伐とした荒涼の大地。
ここが死後の世界であると、グレイは初めて実感していた。
クラウンの居城――シュロスを目指す。
その行く手に、1体のクラウドが現れる。
グレイは、剣を構えず、語りかける。
死者は、生者に不干渉というわけにはいかないのか。
クラウドは答える。命を持つ者に、持たざるものの事情など分からない。
生者と死者は相容れない……グレイは戦い、そのクラウドを破った。
赤い粒子を見送り、グレイは先を急いだ。
どれほど時間が経ったろう。
何度か戦いがあり、退け、進み続けた。
だが、一向にシュロスは見えて来ない。
道中、グレイは『土のトゥルム』跡地に辿り着いた。
瓦礫の隙間に細長いものを認め、引き抜くと、それはグロウのハンマーだった。
彼女のハンマーはここにあり、彼女の土魔法は、かつてグレイが受け継いだ。
今までのことを振り返り、物思いに耽った。
あの時は、たくさんの仲間がいた。
自ら選んだ孤独を噛み締め、グレイはその場を去った。
しばらく旅を続けていると、大量のクラウド・クラウズの群れが待ち構えていた。
グレイは苦悶の表情を浮かべながら、剣を握る。
目の前の生きもの全てが、かつて生きていた死者だと思うと、やるせなかった。
これまで数々の困難を乗り越え、仮面の試練さえも超えたグレイの力は、並のクラウドでは止められないほど圧倒的だった。
しかし、さすがに数が多く、1人では限界がある。
時間が経過すると、蓄積した疲労もあり、徐々に苦戦していってしまう。
その時。グレイを助ける3人の姿が現れた。
レイン、クロム、スノウだ。
驚愕するも、ひとまずグレイは4人で戦い、敵を撃退した。
なぜ来たのか……訊ねる前に、クロムがグレイを殴り飛ばした。
友だちは最後まで一緒だ。クロムは力強く言った。
スノウが補足する。レッジから事情を聞き、辛うじて機能する装置を起動して、冥府へやって来たのだと。
終わりまで傍にいる。レインが微笑む。
グレイは、己の愚かさを痛感した。
4人の旅路が始まった。
時折、グレイたちは思い出話をした。
海へ行ったこと、山を登ったこと、文化祭でのこと。
オクシデントだけでなく、元の世界でのことも。
思えば、オクシデントへ来てからの約10ヶ月、ほとんど元の世界のことを振り返ることはなかった。
色々なことがあった。確かに、つらいことや危険の多い、苦難の日々だったが
それでも、無駄なことなんてなかった。友だちと過ごした、かけがえのない時間があった。
それでも、終わりのない事はない。
少なくとも、この戦いは終わらせなければならない。
その果てに帰れることを、グレイたちは願うほかなかった――。
やがて、グレイたちはついにシュロスへ辿り着く。
だが、最後の防衛網として、残存する全てのクラウド・クラウズが一堂に会していた。
ここを突破すれば、あと一息……グレイたちは、持てる力の全てを駆使して突撃していった。
敵は全滅させた。
だが、回復を担うスノウが集中的に狙われ、命を落としてしまう。
最後に3人の傷を全快させ、スノウは青い粒子となって、赤い空へ消えていった。
悲しみを堪え、3人はシュロスへ突入する。
扉を開けると、メシアが立ち塞がった。
グレイは先を2人へ託し、メシアと対峙した。
シュロスの頂上へ急ぐレインとクロム。
最上階の扉の前には、ラバルムを殺したパナギアが待ち構えていた。
この奥にいるクラウンの元に辿り着きたければ、自分を倒すしかない。
膨らんだ腹部を撫でて、パナギアは言った。
グレイとメシアは睨み合っていた。
初めて戦った時から、2人の因縁はずっと続いていた。
幾度も奇妙に交錯しながら、ここまで互いに決着はつかないままだった。
それも、今ここで終わる。
終わりのない事はない。
グレイとメシアの、最後の戦いが始まった。
グレイはもう、メシアから与えられた仮面はない。
メシアは、イーヴァスを殺して奪った【救世主】の力を、クラウンへ全て移したという。
2人は初めて、純粋な自分自身の力同士でぶつかっていた。
剣技、炎、体術……あらゆる技術を尽くして、全力の勝負を繰り広げるグレイとメシア。
互いに体力を消耗し、グレイは片方の剣しか出現させられなくなっていた。
最初に戦った時は、同じように1本の剣で戦っていた。2人は思い出していた。
次の一撃で、決着がつく。
2人とも分かっていた。
駆け出して、全身全霊の一撃を放つ。
立っていたのは、グレイだった。
【救世主】の力は、全てクラウンへ譲渡した。パナギアがラバルムから奪った【預言者】の力も、同様に譲渡されている。
メシアは最後に警告と、それから自分本来の力を引き出してくれた礼を述べて、赤い粒子となって死んだ。
これまでずっと斬り結んできた大剣が消えるのを見届けて、グレイはレインたちの元へ向かった。
レインとクロムは、パナギアに道を開けるよう説得を試みる。
パナギアは、妊娠している。
罪なき胎児の命まで奪うのは、2人は避けたかった。
しかし、パナギアが聞き入れることはなかった。
戦いが始まり、レインたちは母子を傷つけないよう立ち回る。
やがて、パナギアは体力を消耗し、膝をついた。
すると、パナギアは語る……出産の時がきたと。
胎児はメシアとの間にできた子ども。死者と死者とが交わって生まれた新たな命。
生死の境界を超えた究極の矛盾を抱える赤子は、果たしてどんな存在になるのか。
赤子の秘めた可能性が世界を変えることを願い、パナギアは命と引き換えに胎児を生み出した。
母体から、光り輝く男児が誕生した。男児は産声をあげると、急激に成長していった。
余は、新たな神となるもの――胎児は青年となると、巨大な異形の怪物と化し、襲いかかった。
人知を超越した力を前に、2人は苦戦する。
グレイが駆けつけると、クロムが青い粒子となっていた。
最後に親友同士の言葉を交わし、グレイはクロムが消えていくのを見送った。
グレイはレインと協力し、死闘の末、2人の奥義【RAY】でクラウズを撃退する。
残る敵は、クラウンただ1人。
グレイとレインは、奥の扉を開いた。
最終章は、ロードムービー感を出したいというのがテーマでした。
オクシデントを描かないというのも当初から予定してまして、もう戻れないというのを演出するつもりでした。
これまでと違う雰囲気を出して、最後感を表現したかったです。