第18章 RAGNAROK
意識を取り戻さないグレイは、ひとまず入院することになった。
集中治療室で、原因の特定と処置が急がれた。
後日、レインたちはレッジに呼び出され、説明を受ける。
グレイの肉体は、部分的にクラウドと同質のものに変容してきている。
瞳は赤く、構成組織は冥府の元素と置き換わり、常に元の人間の状態に戻ったり、変わったりを繰り返している。
その反動で、意識レベルが落ちているというのだ。
原因は、最近頻繁に使う『仮面』である可能性が極めて高い。
目を覚ましたら、グレイはグレイでなくなっているかもしれない。
仮に無事目覚めても、次に仮面を着ければ確実に発症するだろう。
これ以上、グレイを戦わせてはならない。
事実上の、戦線離脱宣告だった。
レインたちは、今までグレイにかけてきた負担を悔いた。
グレイ不在のまま、最後のトゥルム破壊計画が進められる。
ある日、コード【クリムゾン】の警報が鳴る。
ポルタが開いたのだ。
これまでの戦いを遥かに凌駕する、クラウド・クラウズの大軍勢。
最前線で、クロムとバレットが、ナザレと対峙する。
ナザレが放った紫の魔法が、バレットに直撃する。クロムが駆け寄ると、バレットは死んでいた。
即死魔法の使い手、ナザレは宣言する。
これより冥府は、総力を以て世界を殲滅する。
救世軍に残存する救世主361人と、クラウド・クラウズの無限の軍勢との、総力戦が始まった――。
奇襲を仕掛けられた救世軍は、正規軍や民間人の助けを借りてなお、劣勢だった。
ショウやマリカ、アヤは死に、ヒルトとアローも……次々に仲間たちが命を落としていった。
そして、人間を殺したクラウズはその場で名前を付けられ、クラウドに進化する。自軍の死者が増すごとに、敵は特性上その勢力を強めていった。
戦闘中、離脱していた仲間たちが戦線へ復帰する。
ボスタフに励まされ、閉ざしてしまった心を奮起するチルド。
毒の治療が完了し、万全の体調となったネルシス。
そして、グレイもまた、意識を取り戻した。
状況を聞き、飛び起きるグレイを、レッジが止める。
仮面を使えば、グレイは我を失う。
たとえ仮面を着けなくとも、戦いの中でクラウズとなってしまうかもしれない。
これ以上、戦ってはいけない、と。
グレイは逡巡して、病室から抜け出した。
それでも、戦うことを選んだのだ。
レッジは、ウィルに連絡を入れた。
手練れのクラウド複数を、1人で相手取るレイン。
その窮地にグレイが駆けつける。
だが、多勢に無勢で、やはり仮面を着けないままで形勢を傾けることは出来ない。
たとえ自分が自分でなくなっても、守る――グレイは仮面を着けた。
クラウドたちを一蹴すると、異変が起こる。
仮面は、完全にグレイの顔と同化していた。
心の中で、グレイの魂はもう1つの魂と対峙する。
体をもらう――主導権を争う内、グレイの魂は闇に覆われる。
それと同時に、グレイの肉体は変質し、化け物となった。
敵・味方の区別なく暴走するグレイ。
レインの声も、まったく届かない。
だが、グレイの魂は諦めてなかった。
抗い続け、グレイは自身の顔に剣を突き刺した。
顔ごと、仮面を引き剥がす。
グレイの体は前のめりに倒れ、姿が人間に戻った。
心の中では、グレイの魂が、相対するもう1つの魂を闇の中へ道連れにしようとしていた。
たとえ主導権を取り戻せなくても、共に意識の深淵へ堕ちることはできる。
二度と、グレイとして目覚めることはなくとも……。
そこへ、レインの声が響いた。
名前を呼ぶ声。俺はここにいる。俺を呼んでいる。その証。
すると、光が見えた。グレイは、その光へと進んでいった。
目覚めると、レインが泣きながら顔を覗き込んでいた。
見える。グレイは瞬きをした。グレイは元の姿のまま、自我を保っていた。
戦いはまだ終わらない。グレイとレインは更なる戦場へと走った。
主戦場では、状況が動いていた。
敵勢力の半数以上が、自軍のポルタ発生装置を捜索している。
破壊されれば、こちらからの攻撃手段を失ってしまう。
必死の防衛も虚しく、装置は見つかり、敵の魔の手が迫っていた。
そこへチルドが現れ、最大の奥義を発動する。
装置へ絶対に砕けない氷魔法をかけ、代償に自らも永遠に凍りついた。
取り残されたボスタフ。
チルドの魔力の源はボスタフだ。彼が倒されれば、魔法の氷は解ける。
ナザレが看破し、ボスタフは命がけで逃げる。
そこへ、救援が駆けつける。
クロム、スノウ、ブルート。
大軍を相手に、装置とチルドを防衛するため、3人と1匹は立ち向かった。
グレイとレインは、ネルシスとウィルと合流した。
救世軍の残存戦力は、著しく減少している。
指揮系統をレッジへ委ねて、参戦しに来たという。
4人の目の前では、ポルタが開いている。
だが、クラウドの軍勢も間近に迫っていた。
ウィルは、この場は自分に任せて冥府へ向かい、最後のトゥルムを破壊するよう告げる。
敵地へ飛び込む3人を見送り、ウィルは敵の大軍とたった1人で相対する。
ウィルはレッジに、子どもを――亡きエモとの間にできた息子を託し、刀を抜いた。
赤い粒子が大量に散る中、ウィルは壮絶な死を遂げた――。
グレイ、レイン、ネルシスはトゥルムを破壊するため冥府へ乗り込んだ。
クロム、スノウ、ブルートはボスタフを守るために敵の軍勢に立ち向かった。
戦いは、最終局面を迎えていた。
総力戦は、18章と19章の2部構成です。