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第17章 Dies irae

 救世軍が次なる攻撃作戦の準備を進めていた、ある日。


 ポルタの発生警報が鳴る。だが、すぐに消失する。

 現地のスピティ共和国・大平原に、突如として光る巨人が現れた。

 光る巨人は周辺の生命力を吸収し、草木や大地を枯らした。


 光る巨人には実体がなく、力や魂の集合した存在らしく、物理的な手段ではまるで効果がない。

 グレイたちは、魔法をはじめあらゆる手を尽くすが、魔力やエネルギーも吸収され、巨人の勢力が増長していった。

 いたずらに被害を拡大するばかりで、グレイたちは一時撤退を余儀なくされる。


 通常攻撃は命中せず、魔法など巨人と同質の攻撃は吸収されてしまう。

 成す術のない救世軍は、解決策に困窮する。そもそも、巨人の性質上、倒すことで消滅するのかも不明だ。

 議論が行き詰まった時、朗報が届く――レインたちが帰ってきた。



 人材が戻ってきたことで、解析が飛躍的に進み、ついに現状打開の糸口が掴める。

 光る巨人には、これまで吸収した生命力やエネルギーが集積している。

 それと全く同量のエネルギーの塊をぶつければ、2つのエネルギーが互いを相殺するという。


 現時点で、既に光る巨人の持つエネルギー総量は、救世軍全員のエネルギーの総和を優に超えている。

 光る巨人を相殺するには、市民からもエネルギーを集めなければならない。

 しかも、光る巨人は今もなお、現在進行形で周囲からエネルギーを吸収し続けている。


 1人あたりの持つエネルギー量の平均値。

 民間人に協力を求める区域。

 エネルギー収集に要する時間。


 ……増え続けるエネルギー量に対応するためには、様々な計算が必要だった。

 少しでも、エネルギー量に差が生じれば吸収されてしまう。

 緻密な計算に基づいたエネルギー収集と、最適な実行タイミングを、完璧に遂行しなければならないのだ。


 レッジを中心に、開発科がエネルギー収集のための装置を作製する。

 装置は、剣型の『マルス』と銃型の『アポロ』、2種類が造られた。

 救世主の力を予め『マルス』に注ぎ、『アポロ』は周辺各国――ハオス王国、カーサ帝国、ドムス公国、メゾン合州国、スピティ共和国の【オクシデント】5大国――を旅して民間人の力を集めて回る。


 定められた期日へ向けて、計画が進められた。



 決行当日。

 計画では、グレイはスピティ共和国上空で、地上から『アポロ』の力を受け取り、『マルス』から全エネルギーを光る巨人へ放出する手はずとなっている。

 この時、放つエネルギー量を調整するため、グレイは『仮面』を着けることになっている。


 グレイには、懸念があった。

 3つ目のトゥルム破壊作戦の時、仮面を外す際に抵抗があった。仮面が、離れるのを拒んでいるような……。

 帰った後、わずかに瞳が赤みがかっていたようにも見えた。


 グレイは恐かった。新たな力が、体に変調をもたらしているのではないだろうか。

 不安を振り払い、それでもグレイは仮面を着ける。

 救世主の力を結集した『マルス』を背負い、グレイは光る巨人めがけて飛翔した。



 道中、アクシデントで『アポロ』の到着が遅れているという連絡が入る。

 それでも、定刻をずらすことはできない。

 グレイは、仲間を信じて迷わず進んだ。


 光る巨人が見えてきた。もはや、周囲一帯は生気を失い、死の大地に成り果てていた。

 その時、通信が入る……クロムが、『アポロ』を間に合わせたのだ。


 地上に目をやると、クロムが民衆の力と願いを込めた銃弾を放った。

 世界中の人々の莫大なエネルギーを乗せた弾丸を、グレイは『マルス』で受け止める。

 グレイは全てが詰まった一撃を、光る巨人にぶつけた。


 超高密度のエネルギー同士がぶつかり合う。

 渦中にいたグレイは、光と音のない一瞬の静寂を感じた。

 その時、グレイは内側から何者かの囁きを聞いた気がした――。



 レインやクロムが駆け寄ると、なんとグレイはレインたちに襲いかかった。

 クロムも仮面を着けて応戦するが、容赦ない攻撃によって吹き飛ばされる。

 レインの懸命な制止で、グレイはなんとか正気を取り戻し、クロムとレインの助けも借りて仮面を外した。


 光る巨人がいた場所には、人影が倒れていた。

 近づくと、そこにはゼクスがいた。

 呼びかけると、ゼクスは意識を回復し、語った。



 クラウズとは、かつて『この世界(オクシデント)』で生き、そして死んだものたちの成れの果て――死後の魂だ。

 クラウズが人を殺し、新たな死後の魂を取り込んだ後で名前を付けられることで、クラウドという人の姿へ進化する。

 稀に、クラウズに殺された人間の想いが強い場合、元々の魂を凌駕して自己存在を取り戻すという。


 自分は、かつてゼクスとして生き、死んだ。

 その後、誰かの命を奪い、再びゼクスとしての姿を取り戻せた。

 そして【首都防衛戦】の侵攻に加わり、混乱に乗じて戦場を離れ、弟と会いに行った。


 しかし、死後の弟の魂をひけらかされて、ナザレに従ってしまった。

 結局、あのクラウズが本当に弟の魂だったのかは分からない。

 ただ、自分がオクシデント侵攻のために利用されたことは確かだった。


 この戦いは、つまるところ生者と死者との戦いだった。

 全ての時代で生きた、全ての生きものが、今を生きるものたちの死によって復活しようとしている。

 悲しみの連鎖を終わらせてほしい……そう言い残して、ゼクスは赤い粒子となって消えていった。



 ゼクスの消滅を見送り、3人は学院へ帰投することにした。

 その時、グレイが倒れる。

 レインとクロムが介抱するも、反応はない。




 グレイは昏睡状態に陥っていた。

 この17章のタイミングで、エモが出頭して裏切りを自白し、処刑されています。

 これは本編で一切触れず、18章で明かされる予定でした。

 また、18章の展開のために、ウィルが一切登場しない予定でした。

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