第16章 INFERNO
戦い続ける者たち――。
グレイたちは攻撃の準備を進めていた。
残りのトゥルムを破壊して、クラウドの侵攻手段を潰す。
そのため、救世軍の残存戦力の再編成や、進軍経路の選定や破壊作戦などの計画立案を行った。
未だ、一時とはいえクラウドに味方したグレイへの忌避感を持つ者も多い。
これまで共に戦ってきたヘイルでさえ、スリートの死から立ち直れず、グレイに対する態度もこれまでと同じという訳ではなかった。
そんな中で、組織再編に伴いグレイと同じ班への編入を希望・受容する者もいた。
新たな仲間と行動を共にし、交流する中で、グレイはそれぞれの事情を知る。
ショウは、死んだ人々の無念を晴らすため。
アヤは、異世界の貴重品を集め、元の世界へ持ち帰って巨万の富を得るため。
マリカは、自らの能力である爆弾の威力を確かめるため。
リュウは、オクシデントの魔法をはじめとした知識・学問を究めるため。
ヒロは、異種族間の理解と対話を実現させるため。
人の数だけ、異なる考えや正義がある。
グレイは、新たな仲間を時間と経験を共有することで学んだ。
トゥルム破壊作戦は、大きく2つの段階で構成された。
冥府突入後、トゥルムを探し出す探索の段階。(直近2回の突入とイーヴァスからの情報提供はありましたが、この時はまだ不完全なマップです。)
そして、トゥルム発見後に破壊する段階。
ここで懸念されたのは、トゥルムを探し出す段階についてだった。
まだ冥府の地形を完全に把握しているわけではない。クラウドであるゼクスも、ポルタの向こう側の全てを知っているわけではなかった。
トゥルムを見つけ出すまでどれだけの時間がかかるか、その間に敵からの襲撃を受けないか……。
作戦決行の前日、救世軍へ匿名の情報提供があった。
それは、これまでの情報で得られなかった箇所を含める、冥府の地形データだった。
丸一日をかけて、司令部と救世主たちとで情報を信頼するか議論が交わされた。
敵の罠かもしれない――グレイが、クラウンから内通者の存在を仄めかされていたのもあり、警戒された。
しかし、他に確たる算段はない。グレイたちは提供された情報とこれまでの収穫を基に、突入作戦を実行することにした。
残存する救世軍の3分の2が投入され、作戦が開始した。
その中には、ガードやバレットもいた。
救世主たちは二手に分かれ、それぞれトゥルムを探しに行った。
グレイは、クロムらこれまでの仲間に加え、ショウたちを含めた新しい班を組んで、他の班と共にトゥルムを探索する。
やがて、グレイたちはトゥルムを見つけた。匿名の情報の精度は高いようだった。
ゼクスが言う。それは、『風のトゥルム』だと。
戦いが始まった。防衛網を突破して中枢へ向かう。
激闘の中、他の救世主たちは次々に犠牲になっていく。
覚悟が足りなかった者は、戦いの途中で逃げ出したり、降伏する者もあった。
弱い者、戦わない者は死んでいった。
グレイたちは懸命に戦うが、ヒロやリュウが命を落とす。
そうして、ついに辿り着いた中枢では、最高位のレジェンド級クラウドが待ち構えていた。
その実力は凄まじく、ガードが落命し、グレイたちは苦戦を強いられた。
絶体絶命となったその時、ヘイルが立ち上がる。
生きる者のため、死んだ者のため、負けるわけにはいかない。
ヘイルの覚醒に呼応するように、彼の手に新たな武器が現れた。
【リコイルトンファー】――スリートの武器だ。
一緒に戦ってくれ。ヘイルは、スリートの魂と共に戦った。
スリートと自身の技を合わせた『サウザンドランチャー』で、ヘイルはクラウドを撃退する。
戦いには勝ったが、ヘイルの肉体は限界を迎えていた。
グレイや仲間たちに、謝罪と感謝を述べながら、ヘイルはスリートと同じところへ向かった。
失意に暮れるグレイたちに、本部から連絡が入る。
もう1つのトゥルムへ向かっていた別動隊は全滅した。
彼らと交戦したクラウドが、援軍としてこちらへ向かっている。
このまま連戦すれば、敗れる可能性が極めて高い……グレイたちは撤退することになった。
自軍のポルタ発生地点へ急ぐグレイたち。
そこへ、1体のクラウズを連れたナザレが立ちはだかる。
ナザレは言う。このクラウズは、ゼクスの弟だと。
弟と過ごしたければ、クラウンの元へ戻れ……ナザレは、ゼクスに対して要求した。
グレイたちは困惑するが、ゼクスは何かを悟ったようにクラウズを見つめている。
背後にはクラウドの追っ手が迫る。
更に、ナザレはゼクスを勧誘しつつ、グレイたちへ攻撃の態勢を取っている。
すると、ゼクスはグレイたちを逃がし、自らは独りポルタを潜ることなく敵地に残った――。
作戦は半分しか達成されなかった。
トゥルムはあと1つ残り、クラウド侵攻の危険性と戦いはまだ続く。
また、今回も多くの仲間が犠牲になった。これでは、負けたのと同じなのかもしれない。
己の無力を悔いるグレイに、手紙が届く。
レインからの近況報告と、本部へ共有するべき情報の数々が記されていた。
エモの裏切り、クラウンの正体、ゼクスの真意……衝撃が重なるが、それでもグレイは安堵していた。
たとえ世界がどうなろうと、誰がどこにいようと、レインはここにいる。
手紙の存在が、それを確かめさせてくれた。
グレイは、その事実があれば、なんとでもなる気がした。
離れて初めて、自分にとってレインの存在が計り知れない大きさになっていると気づいたのだった。