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第15章 HERETIC

 15章はレイン視点の物語になります。

 グレイたちの直接の出番は一切なく、一方その頃を16章で描く構想でした。

 元の世界へ帰る方法を探す者たち――。


 レインたちは救世軍を去った後、イーヴァスが使った召喚魔法について調べることにした。

 王国から支援された物資・設備を基に、負傷者の手当てなども平行していた。


 ネルシスの容態は回復しなかった。スノウとブルートが看病しているが、意識を取り戻す目処は立たない。

 チルドも、未だに精神的なショックから立ち直れておらず、ボスタフと他の隊のアローが面倒を見ている状況だった。


 レインは、アローと同じ別隊のヒルトと共に、図書館の魔導書を片っ端から読んでいった。

 イーヴァスの召喚魔法は、異世界の座標に魔法陣を展開し、内部の人間を転移させる。

 そうして、1470人もの同じ世界に生きる人々が、このオクシデントに召喚されたのだ。


 この召喚魔法は、個人の魂と世界との繋がりを絶ち切り、再構成された肉体に魂を内包させて存在を固定する。

 魂と世界との繋がりを絶つ。そのための手段が、記憶と存在から『名前を奪う』という事象だった。

 魂が肉体から分離――すなわち死を迎えた時、魂はオクシデントとの繋がりから解放され、元の世界へ自動的に返還される。


 イーヴァスの言ったことは、嘘ではなかった……レインたち救世主は、死によって元の世界へ帰ることができるのだ。


 それでも、死の先に元の世界での生活が待っている保証はない。

 死んで、そこで終わりだったら……?

 死後への不安と、死そのものへの恐怖が、どうしてもレインたちの中にはあった。



 調査が行き詰まりかけた時、エモが現れ、レインたちへ助言を与える。

 カーサ帝国に行けば、なにか分かるかもしれない。

 レインたちは、藁にもすがる思いで再び帝国へ向かう。


 キャラバンのように、定住せず移動しながら手がかりを探すレインたち。

 その道中、夫婦と子どもの3人家族と遭遇する。

 人目を避ける様子の家族だが、困っているのを見過ごせず、レインは助ける。


 ふと、子どものフードが外れ、目が合った。

 レインは気づく。子どもの瞳は、赤かった。

 子どもはクラウドだった――。


 正体に気づくと、夫婦は許しを乞い、懸命に子どもを守ろうとした。

 夫婦は、子どもの正体を知っていて、共に生活していたと言う。


 聞くと、数年前に事故で亡くなったはずの息子が、ある日突然帰ってきたというのだ。

 人を殺めるつもりはない――子どもの言うことを信じ、レインたちは見逃した。

 ただ、家族と過ごしたい。レインには、そんな子どものクラウドの願いは、人間のそれと違いないように思えた。



 レインたちは帝国に到着し、手がかりがあるという場所へ行くと、エモが待っていた。

 召喚魔法についてや、他に元の世界へ帰る方法があるかどうかは知らないが、知っていることを全て話そう。

 エモは、語り始めた。


 842年前――世界は【世紀末戦争】によって混沌を極めていた。

 原初の【救世主】アシュワ。始原の【預言者】ハスティ。

 2人の活躍によって、世界は【オクシデント】として成立し、今日まで続く秩序が生まれた。


 ここまでは、誰しもが知る歴史。

 だが、そこには語られることのない隠れた真実があった。

 アシュワとハスティには、3人目の友がいた。


 彼の名は【ラタ】――不死の肉体を持つ青年だった。

 全能の力、未来を視る眼、不死の肉体。

 無敵の3人は、永い戦争を終結させた。


 だが、終戦後の人々は、無敵ゆえに彼らを恐れるようになった。

 治世や問題解決を【救世主】と【預言者】に依存していた民衆は、不死のラタに畏敬の念を集中させた。

 民意を汲み、アシュワは不死のラタを生きたまま、死者の魂が辿り着く冥府(タルタロス)へ堕とした。



 このラタ――不死の力を持つ人物こそ、クラウンだと言う。



 レインは驚愕し、なぜエモがそれを知っているのか問う。

 エモは、自身がアシュワとハスティの子孫であると明かした。


 祖先に冥府へ堕とされた男への同情と、その血族である自身に対する罪悪感から、クラウンへ協力していたという。

 しかし、クラウンと彼が生み出したクラウドに翻弄されるレインたちを見ていく中で、エモの心は動いた。

 この世界の歴史や因果と無関係な、罪のない人々が巻き込まれ傷つくのが耐えられなくなり、エモは真相の暴露を決心したと言うのだ。



 ブルートが激昂する。エモの内通によって、結果的にネルシスは毒で重体に陥っている。

 エモは、それも告白の理由の1つだと言う。自分のせいで、多くの人が傷つき、死んだ。

 許されることは望まない。ただ、これ以上の悲劇を生まないために、知っている全てを話す決意を固めたのだ。


 トゥルムのある座標、クラウンの本拠地、冥府(タルタロス)やクラウドの情報など……エモは、知り得る全てをレインたちへ提供した。

 その後、エモは最後にやるべきことがあると言って、レインたちの前から去った。

 どうか、戦いを終わらせて、不幸を止めてほしいと言い残して。




 レインは、救世軍から退いて以後に知った情報の備忘録も兼ねて、道を別ったグレイへの手紙を書き始めた。

 いつか、再び2人の道が交わることを願って――。

 クラウンの正体は、5章84話の回収です。

 84話の執筆当時から、めちゃくちゃ不自然な挟み方で、伏線と呼べるか怪しいなとは思っておりましたが……。


 ただ、クラウンの生い立ちというのは、グレイたちが知る流れを作るのが難しかったです。 


 クラウンが敵に自身の生い立ちを語るのは厳しいですし、手下のクラウドにもそこまでは話さないでしょう。

 (半ば少年兵として見ていたグレイには、13章で少し心を許していました。)

 イーヴァスも知ってはいるでしょうが明かさないと思いますし、ラバルムも既に起きた過去を預言することはないので知る由もありません。


 そこへきて、エモというキャラクターは最初からどんな形であれ、感情ゆえに裏切り、感情ゆえに自らの裏切りを告白するという設定でしたので、この役割を担わせようと。

 そうして、15章はエモがクラウンと自身の正体を明かす話として予定していました。

 物語として、第3部はやることや描きたいことがまだまだ残ってる上、積みっぱなしのクラウンやクラウド周りの謎を解き明かさないといけないので、構想時点で話の流れと謎の絡ませ方が上手く練れなかったと感じます……。

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