第ⅩⅢ章 JUDGEMENT(前編)
ダイジェストすら長くなったので、前後編にしました。
13章は、本当にドラマの山場として設定していました。
しっかり描きたかったですが、実現叶わず……申し訳ありません。
グレイがポルタの向こう側――タルタロスに取り残されてしまった。
レインたちは、すぐに戻ろうとするが、ポルタ発生装置の再起動には期間を空けなければならない。
信じるしかない――クロムの力強い励ましに、レインは勇気づけられる。
グレイが負けるはずがない……。
グレイは、たった1人でクラウドと戦い続けていた。
クラウドからは、あのメシアをこれまで3度退け、2機のトゥルムを破壊した、救世軍の筆頭戦力【クリムゾンフレイム】と呼ばれていた。
これまで正面から受け止めることのなかった、その手で命を奪う罪の意識と重圧に苛まれながら、苦闘するグレイ。
だが大量のクラウドを相手に多勢に無勢、加えてメシアの執拗な猛攻に追い込まれ、敗北してしまった。
プシュコマキアに拉致されたグレイは、敵の首領クラウンと再び相見える。(第三章で一度、会っています。)
クラウンやメシアをはじめ、レジェンド級やマスター級のクラウドに取り囲まれ、絶望するグレイ。
決死の覚悟でヤーグを取り出すが、心情を反映しているのか、剣は折れた状態で出現した。
追い打ちをかけるように現れたのは、グロウが命と引き換えに倒したはずの、『土のトゥルム』を守っていたクラウドだった。
あの時、クラウドの死を示す赤い粒子は見られなかった――グレイは思い出し、戦慄する。
更に、クラウドはグロウが使っていた大地魔法を見せつけ、グレイの心を折る。
クラウンは、グレイを幽閉し現世侵攻のために利用すると宣言する。
抵抗も虚しく、カイーナ、アンテノーラ、トロメーア、ジュデッカの四姉妹による徹底監視下に置かれ、心身共に疲弊していく。
それでも口を割らないグレイに、クラウンはそれを無駄な努力だと嘲笑う。
なぜなら、最後の情報源が、救世軍内部から機密を流しているというのだ。
一方、現世――スコラ学院では、イーヴァスが救世軍に対して、組織形態の再編を布告した。
【トリニティ】――自らを『父』、より強大な力を与える仮面を手渡された幹部を『子』、そして他の元救世主を『聖霊』とする、新たな部隊の誕生だった。
その夜、イーヴァスは『子』に選んだ人物と接触し、力を望むなら仮面を受け取るように言う。
イーヴァスはまずレインを誘うが、彼女は【総代】としての立場を優先するとし、断る。(このとき差し出された仮面は、第四章に登場したヒュエトスのもの。お察しください……)
彼女の代わりにゼクスを、そしてもう1人の『子』にクロムを選び、2人は仮面を受け取った。
クロムは『怒れる龍』の仮面、ゼクス『悲しみの麒麟』の仮面を託され、【トリニティ】の『子』となった。
翌朝、イーヴァスは自らも『歓喜する鳳凰』の仮面を着け、皆にクロムとゼクスを『子』に任命したと公表する。
もう1人の『子』を初めて知ったゼクスは、クロムに警告する。
仮面からは、人を操る魔力を感じる。心を惑わされないよう気をつけろ、と。
レインは悲嘆に暮れる。
グレイは敵地に取り残され、今すぐ助け出す術がない。
クロムとゼクスは、仮面を被り遠い存在に感じられる。
更に、【トリニティ】の方針によって外界から隔絶され、隊長ウィルとは連絡がつかない。
そして、グロウの戦死と、分け与えられた魂の返却による精神的負荷が深いのか、チルドは心を閉ざして離脱してしまった。(療養のため、救世主としての活動を休止)
仲間が、どんどん離ればなれになっていく気がした。
プシュコマキアにて――監禁と拷問の日々を、疲労困憊ながらも耐えるグレイ。
イーヴァスの復活で力を失ったメシアと、同じくイーヴァスによって精神の安定を失い孤立したグレイ。
どこか似た境遇の2人は、会話を交わした。
なぜ力にこだわるのか――グレイが問うと、メシアは答えた。
かつて、名もなきクラウズだった頃、イーヴァスを殺した。だが、その瞬間の記憶はない。
覚えているのは、たくさんの同族の死骸。赤い粒子に囲まれて、【救世主】を殺したのだ。
イーヴァスの亡骸はいつの間にか消え、帰投したクラウズは、生みの親であるクラウンに名を付けられた。
――メシア。
気がつけば、今の姿になっていた。
最初のクラウドの誕生だった。
その時に感じたのは、不安だった。
唯一覚えているのは、同族の死骸の山の上で、【救世主】を殺したという事。
自分は、多くの犠牲の上に生きているのではないか。
【救世主】を殺し、無敵に等しい力を手に入れ、いま生きているのは、他の誰かの死があったおかげなのではないか。
不安から逃れるには、自らの強さを肯定する他なかった。
自分は誰よりも強い。だから【救世主】に勝てた。生きるために、誰かの犠牲なんて必要ないのだと。
自らを認めるためには、力を求めるしかなかったのだ。
グレイは、少しだけメシアを理解できた気がした。
形は違うが、グレイも力を欲していた。
守るための力を――。
ある日、クラウンはグレイに提案する。
友を助けたければ、戦いを終わらせるしかない。
クラウンの目的は、【救世主】の死だけだと言う。
その手伝いをしないか、と。
内通者も開示しない救世軍の情報を教えれば、余計な犠牲を出すことなくイーヴァスを殺せる。
協力すれば、友は傷つけない。
仲間の死を厭わないイーヴァスに味方する道理はない。
協力するなら、力を与えよう――クラウンが告げると、メシアはグレイに仮面を差し出した。
『恐れる虎』の仮面……メシアが辛うじて残った【救世主】の力を結集して創り出したものだった。
仮面は、被った者に強大な力を与える。協力するなら、仮面を渡すというのだ。
グレイは、メシアの掌にある仮面を見つめる。
力があれば、友だちを守れる。
レインを、救える。
グレイは、恐る恐る手を伸べた――。