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定められし刻へ向かって

 どうも、abyss 零です。長らくお待たせしてしまい、誠に申し訳ございません。

 本編どうぞ。

 グレイは仲間と共に市街を駆け抜けながら、ウィルと通信した。


「隊長、こちらグレイ。預言の謎が解けました。これからパラティウムへ行って、ラバルムと一緒にケントルムへ謁見したいんですが」


 現在、ラバルムはパラティウム運営の宿舎に住まっている。

 最重要人物たる【預言者】の後継ともあれば、それだけ待遇も厚かった。

 パラティウムとは別の場所にある住まいだが、方角は同じため、二度手間にはならない。


『何!? 急だが、分かった。俺もそっちへ行く。学院からケントルムへ話は通しておく。

 …………というか、また授業を抜け出したな。仕方ないとはいえ、あまり感心はしないな』


 真面目なウィルらしい反応だった。


「これで最後にしますよ、多分――それじゃ、向こうで会いましょう」


 グレイはウィルが『了解』と返すのを聞いて、通信を切った。ほどなくして、一行は予め知っていたラバルムの家に到着した。

 万が一【首都防衛戦】のように敵が街を襲撃してきた場合、いくらラバルムの存在が極秘とはいえ、誰も居所を知らなければ守れない。

 有事の際は、第一に急行せよ。ケントルムからの厳令と共に、伝えられた場所がそこだった。


「…………」


 先頭にいたグレイは戸を叩こうとしたが、掲げた拳は頭上で静止した。

 最後にラバルムと会ったのは、学舎の裏手で愛憎ないまぜの感情を打ち明けられた時だ。

 それが否応なしに脳裏をよぎり、彼女との再会を躊躇わせた。


「どうしたの、グレイ? 早く呼んであげようよ」


 レインが顔を覗き込んできた。

 グレイは思わず顔を逸らすが、反対側からスノウが戸を叩いた。

 グレイは最前列から退きたかったが、自然な避け方が思いつかなかった。


「ラバルムさーん。おっ、お話があるんですー」


 スノウが中へ呼びかける。その声は少し震えていて、彼女が大声を出し慣れていないのが伝わってきた。

 しかし、それでも数ヶ月前のスノウからは想像のつかないほど、自信を感じられる張り具合だ。

 元バイト先の常連の成長ぶりに感心していると、ヘイルが後ろからズイと顔を出した。


「留守か? それか、もう少し大きな声を出した方が聞こえると思うぞ。おーい、ラバルムー!」


 ヘイルはグレイの前へ歩み出て、ダンダンと戸を叩きながら声を張り上げる。

 その声量はいささか過剰で、グレイたちは道行く人から少なからぬ衆目を浴びた。

 すると、中からドタドタ慌ただしい物音が聞こえてくる。


「おお。家にはいたが、やはり聞こえていなかったようだな」


 ヘイルが得心のいったように頷いた。

 次の瞬間、ドアが勢いよく開かれ、そのままヘイルの額をガンッと強打した。

 ヘイルはよろめき、後ろの方へ退いた。


「わあ!? ごめんなさいっ、私――」


 押し開かれたドアから、ラバルムが顔を覗かせる。その瞬間、グレイと彼女の目が合った。

 ラバルムの瞳がハッキリと自分を認知したのが、グレイには分かった。

 2人とも、無意識に視線を逸らす。


「…………今日は、どうしましたか?」


 ラバルムはスノウを見て訊ねた。


「えっ……あ、はい。預言のことが少し分かったので、これからケントルムへ報告しに行こうと思ってるんです。それをお伝えしに来ました」

「ええ!? ほんとですか!? すごいですすごいです!」


 ラバルムはスノウに抱き着かん勢いで舞い上がる。

 やはり、本来のラバルムは人懐っこい性格なのだろう。グレイは彼女の歓喜する姿を見て思った。

 そんな彼女の、純粋な笑顔を曇らせてしまった――本当に罪深いのは、サンボダイを守ることが出来なかった自分だ。


 スノウはたじたじになりながら、ラバルムを宥める。


「ラバルムちゃん、一緒に行こ!」


 レインがラバルムの手を取る。

 ラバルムは僅かに口角を上げたが、少し戸惑っているようだった。視線こそ合わないが、グレイへ配慮しているのは明らかだ。

 いや、それだけではない。サンボダイの死に対する罪悪感、【預言者】として覚醒しなければという焦燥。あらゆる重圧(プレッシャー)を一身に背負い込んでいるのだ。


「――ラバルム。君も知る必要があることだと思う。そして、それを知ってケントルムがどうするか、俺たちが何をするのか。ラバルムには見ていてもらわないといけない気がするんだ」


 グレイは堪らなくなって、ラバルムの背中を押した。

 それらは詭弁だった。理屈ではなく、ただ気晴らしや息抜きをしたっていいと、そう言いたかった。

 だが彼女を追い詰めている張本人として、そんな無責任なことは、これほど回りくどい言い方でないと口に出来なかった。


「…………わかりました。私もついていきます。ばばさまが遺した最後の預言、私も真相を知りたいです」


 ラバルムは逡巡の末に答え、支度をすると言って一度家の中へ戻った。

 5分も経たない内に、再びドアが開かれた。外出用の服に着替え、ラバルムはグレイらと共にパラティウムへ向かった。

 チルドのリュックから顔を覗かせるボスタフ含め、12人もの大所帯が早足で街道を行く。


「預言の意味って、一体どんな内容だったんですか?」


 ラバルムが懸命に走る速度を合わせながら問う。

 日々クラウドとの戦いとその訓練に明け暮れる救世主と、ラバルムとの体力の差は明白だ。


「『三角の中心』というのが、どこを指しているのかが分かったんです。ドムス公国に、フォルモサ・トライアングルと呼ばれる三角形を成した群島があります。その中央にあるのが『ウェイク島』……そこに、預言に書かれた少女がいるはずなんです」


 スノウが端的に説明した。


「みなさま、そこまで分かってるなんて……すごいです…………」


 ラバルムは肩を落とした。グレイたちと走る速度を合わせることで、荒くなった息がその肩を揺らす。


「私なんて、まだ【預言者】として何も出来てない…………」


 やはり、グレイは自分の見立てが正しいらしいと確信した。

 【預言者】として――それはラバルムが慕うサンボダイから受け継がれた絆の象徴であり、そして皮肉なことに彼女の思考と未来を縛る鎖でもあるのだ。

 そのために、ラバルムは自らを追い込み、そして孤独になろうとしている。


「そんなことないです!」


 スノウが立ち止まって、ラバルムの眼を真っ直ぐ見る。


「今、たくさんの人が【預言者】を頼っていて……ラバルムさんは、突然その役目を期待されて…………きっと、すっごく重い責任なのに、ラバルムさんは逃げずに向き合ってます。それだけで、本当にすごいことです……。

 だから…………せめてっ、自分のことを、もっと大切にしてください……!」


 スノウは、懸命に言葉を紡いだ。

 驚嘆、なのだろう。ラバルムは呆然と口を開いて、スノウを見つめ返していた。

 果たして、これまで彼女はそんな優しさを受けてきたのだろうか――グレイには、知る由もない。


「…………ありがとうございます。スノウさまは、優しいお方なんですね。みなさまも、本当に――」


 ラバルムはそれ以上言わなかった。

 グレイは、ラバルムが頑なに自分の方を見ようとしなかったことに気づいていながら、黙っていた。

 一行は、パラティウムへ急ぐ。

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