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BREAK DOWN

※8/4、153話が別作品のものになってしまっていたので、修正すると共に154話を最新話に差し替えてあります。

 物語上、非常に重大な事柄の登場する回ですので、ぜひ154話と併せて今回をご一読ください。

 また旧153話を既にお読みになられた方は、混乱を招いてしまい、誠に申し訳ございません。

 グレイは、メシアの放つ閃光を炎で掻き消す。間髪入れず、空間が歪み、グレイを呑み込まんと重力の奔流を発生させた。

 グレイはそれも炎で包み込んだ。莫大な火力が次元の亀裂を焼き払い、バシュンッと相殺して魔法が消滅する。しかし次の瞬間、グレイの身に纏う炎が消え、同化したはずのヤーグが意思に反して現れた。

 オーバーヒートだ――動揺する間もなく、メシアの魔法によって大地が抉れ、無数の杭状に砕けて襲いかかる。


「くっ…………」


 グレイは2本のヤーグでそれらをことごとく蹴散らした。だが疲労は否めない。自らの最大限の能力を断続的に使い続けたツケが回ってきたのだ。

 気がつくと、メシアの姿が消えていた。反射的に背後を振り返ると、メシアが黒い波動を纏った拳を振りかぶっていた。グレイは跳び退いてそれを避ける。

 するとメシアの右手から黒い波動が伸び、グレイに殴りかかってきた。ヤーグを交差させ防御するが、あまりの勢いに吹っ飛ばされる。


「ぐっ!」


 凄まじい威力で、両手が痺れる。僅かだがヤーグが軋んだ感触もした。グレイは空中で態勢を立て直せず、為す術もない。

 着地と同時に受け身を取ろうとした瞬間、グレイの身体は中空で静止した。直後、謎の引力が働いてメシアの方へ引っ張られていく。

 バランスを崩し不規則な挙動でメシアに吸い寄せられる。チラリと、メシアが大鎌を構えているのが見えた。間に合わない――グレイは極端に歪曲した鋭い刃で、腹部を貫かれた。


「がぁ……っ!?」


 何が起きているか全貌を把握できないまま、グレイは片腹を裂かれて地面に叩きつけられた。夥しい量の血が漏れ出て、雪山の天候も相まって急速に体温と体力が奪われていく。

 デタラメな強さだ――この数ヶ月で、【首都防衛戦】の時のメシアにも引けを取らないほど力をつけたはずだ。

 現に、【ラッシュモード】や【アサルトサイド】での瞬間火力では、間違いなくメシアを押した場面もあった。


 しかし、メシアはそれよりも更に強くなっている。【救世主】の全能の力をその身に宿している時点で、もはや戦闘能力は次元を異にしている。

 想像し得る事象の全てを実現可能と言っても過言でないその力は、はっきり言って対処のしようがない。

 極めつけは、これだけの実力差があっても尚まだ不完全な状態というのだから、いよいよ手に負えない。


「あー……お前、燃費悪い癖まだ直ってねえのかよ。盛り下がるんだよなぁ…………まあいいや」


 メシアは興が冷めたのか、グレイを放ってサンボダイの方へ歩き出した。グレイは止めようと全身に力を込めるが、身体が動かない。失血と、オーバーヒートの影響だ。

 メシアはサンボダイの傍らに立ち、彼女が死に瀕しながらも握り締めたままの預言――『Ρ』を、無情にも奪い取る。


「死にかけじゃねえかよ。逆に老いぼれがここまで焼かれてよく生きてんな。……もう終わりにしてやるから、【預言者】の未来を視る力、俺によこせ」


 メシアはサンボダイの身体を跨ぎ、大剣の鋒を真っ直ぐ彼女の心臓へ向け、垂直に掲げる。

 【救世主】の力を持つメシアが、【預言者】の力をも手に入れてしまう――最悪のシナリオが今、グレイの眼前で現実に起ころうとしていた。

 グレイにも、おおよその未来が見えた。敗北という名の、戦いの終焉だ。


「やめろっ…………!」

「止めてみろよ!」


 グレイが声を絞り出すと、メシアはわざわざ振り返って、煽るように応えた。グレイもせっかく生じた隙を突きたいが、身体は動かない。

 メシアはそれ以上グレイには構わず、再びサンボダイを見下ろした。火傷でただれた皮膚が、僅かに呼吸の度に揺れる。

 メシアが大剣を突き立てようとした、その時――彼の胸の中心から、ズオォ……と何かが抜け出た。


「なっ……んだ…………!?」


 メシアは怯んでよろめき、大剣がサンボダイの身体を貫くことはなかった。

 メシアの身体から突如として現れたのは、金色(こんじき)(もや)だった。それは同色の粒子を纏い、メシアから何かが吸い取られるように体外へ排出されている。

 薄れゆく思考の中、グレイはそれを見ていた。その光景は、見ていてどこか安らぎを覚える。メシアが片膝を着き、苦悶の表情を浮かべた…………。


「グレェェェイ!」


 名を呼ばれ、ハッと意識が覚醒し、グレイは振り返る。クロムが、モノ・【転式(リボルヴ)】をこちらへ構えていた。その銃口は、グレイへ向いている。

 一瞬、グレイは戦慄した。クロムが仲間を攻撃するなど、ありえない。頭では確信していたが、彼の自分に対する眼差しは、味方ではなく敵対する者へ向けるソレに見えてしまった…………。

 クロムが引き金を引き、弾丸が放たれた。超高密度の魔力が、彗星のように軌跡を伸ばしながら迫ってくる。実弾ではなく、クロムの魂を分けた弾丸だった。自らの魂を具現化した力は、敵と認識しない者を傷つけない――。


 グレイは、その弾丸を身体の中央で食らった。瞬間、それは炸裂して爆発する。グレイはこの技を知っていた――【ホーリーフレア】だ。

 すると、全身にみるみる力が湧いてきた。体温が、熱が取り戻されていく。【ホーリーフレア】に宿る熱が、グレイに力を与えたのだ。

 銃弾によるダメージも皆無。やはりクロムは助けてくれたのだ――グレイは、闘志を呼び起こし、立ち上がる。


「【ラッシュモード】!!」


 グレイは全開の炎を纏い、メシアめがけて飛んだ。今度こそ、メシアを倒す。ヤーグを振るい、超火力の炎を放った。

 メシアは水流と電撃で出来た龍を掌から放ち、対抗する。だがグレイの炎は、それを蒸発させ、消し飛ばす。

 メシアは苦々しい表情を浮かべ、避けた。


「クソッ、力が出ねえ…………!」


 グレイはすかさず2撃目の炎を放つ。メシアは大剣でそれを防御し、グレイの周囲に無数の武器を出現させた。槍、鉄球、大鎚、手裏剣、太刀――緋色のオーラを纏ったそれらが、一斉にグレイめがけて飛来する。

 グレイは炎とヤーグを使い、全方位からの武具の波状攻撃をいなしていく。鉄球を消し炭にし、太刀を弾き返す。

 不意に、緑の球体が視界に入った。光る球は怪しく輝いた瞬間、表面から無数の棘を勢いよく生やしてきた。グレイは、それをも炎で焼き尽くす。


「――ナメんなぁ!!」


 メシアは力を溜め、両手から藍色の光線を撃ち出した。それは空気や大地を取り込んで力を増しながら、グレイへと一直線に飛んでいく。

 グレイも炎を放って迎え撃つ。しかし、自身の放った炎は、少し進むと反転し、グレイに襲いかかってきた。グレイは纏っていた炎を前面へ集中させ、壁のように張って防御する。

 炎を炸裂させると、藍色の光線は掻き消えた。グレイは跳んで、ヤーグに炎を纏わせメシアに斬りかかる。メシアは炎を溜め込んだ大剣を構え、立ち尽くす。


 パッと。グレイの視界が歪んだ。自分は地上で立ち尽くし、メシアが空中から自分へ斬りかかっていた。位置が逆転されたのだ。

 グレイは突然のことに僅かに立ちくらんだが、なんとかメシアの一撃をヤーグで弾いた。そのまま炎を飛ばし、メシアに追撃をかける。

 メシアも炎を放ち、2人の炎が激突した。拮抗する中、グレイは足下が沈むのを感じた。立っている地面が橙色の光沢を帯びながら、腐敗してグレイを引きずり込もうとしている。


「うおぉ…………!」


 グレイはメシアの炎ごと自らの炎を叩きつけ、ブレイズでその場を脱した。不安定な噴射で乱回転し、受け身を取って着地する。

 グレイは態勢を立て直しつつ、メシアに目をやる。大剣に全ての炎を集約し、放とうとしている。グレイも、ありったけの炎をヤーグの刃に蓄積していく。

 グレイとメシアは、同時に全力の炎を放出した。




ドガアアアアアアアアアァァァァァァァァア!!




 グレイとメシアの中間で、炎が衝突した。計り知れない威力は轟音となって辺り一面に鳴り響いた。

 周囲のあらゆるものを吹き飛ばす衝撃波を伴って、双方向からの炎は勢いを弱めなかった。

 しかし徐々に、僅かずつグレイの炎が、メシアの炎を押し返していく。炎の交点はメシアへ近づき、苦心のあまり歪む表情を照らし出す。


 そしてついに、膨大な炎の奔流はメシアを呑み込んだ。

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