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因縁

 グレイはラバルムを連れて結晶の洞窟を進んでいると、突然の轟音に立ち止まった。


「きゃあ!?」

「なんだ……?」


 直後、2人は大きな揺れに襲われた。結晶が軋み、天井や壁が唸り、地面が割れんばかりに震える。

 ラバルムは尻もちをついて、グレイの腕にしがみついた。訓練で体幹を鍛えているグレイも、あまりの揺れの激しさに態勢を崩しそうになる。


「上からか……!」


 クロムやサンボダイたちがいる上層――音も振動も、そこが発生源であることは明白だ。


「グレイさま、急ぎましょう! なんだか、嫌な予感がするんです……」

「ああ、行こう!」


 グレイたちは急勾配の坂を駆け上った。【預言者】でなくとも、この状況に危機感を覚えるのは当然だ。

 今回の襲撃には、あの【救世主(イーヴァス)】を倒したメシアもいる。レーベに言われるまでもない――なんとしても彼に【預言者(サンボダイ)】を殺されることだけは避けなければ。

 息も荒くなってきた頃。2人は広い空間に出た。


 そこには、メシアが立っていた。クロムやレイン、仲間たちがメシアの周囲で膝をついたり、横たわったりしている。

 全員が傷だらけで、唯一スノウだけは、白目を剥いて唸りながら地面の結晶を爪で削るサンボダイの側でチェーンウィップを構えていた。

 一方、メシアは大した傷を負っていないように見える。


「ばばさま!」


 ラバルムが、ただならぬ様子のサンボダイを見るや否や、悲鳴をあげて彼女に駆け寄った。

 それによってメシアが振り返り、グレイの存在に気づいた。ニヤリと、喜びさえ感じさせる不敵な笑みを浮かべる。


「ばばさま……ああ、ばばさま…………」


 ラバルムは狼狽えながら、サンボダイの名前を繰り返し呟いた。何か出来ることを探しているようだが、預言の最中の【預言者】には、いかなる干渉も無意味と思われた。

 グレイとメシアは、ラバルムの微かな声とサンボダイが結晶を削るガリガリという音など聞こえていなかった。

 ただ、対峙している。


「グレイ……!」


 メシアは赤い瞳に殺意を宿しながらも、やはりどこか嬉しそうだ。狂気めいた執着を、グレイは感じていた。

 グレイも、メシアには少なからぬ因縁を感じていた。【首都防衛戦】で殺し合った者同士だ。今度こそ、殺さなければならない。何としてもサンボダイを守らなければ。

 静寂が続く。すると、グレイに気を取られている隙を突いて、クロムが負傷した腹部を庇いながらメシアに発砲した。メシアは、クロムの方を見ることなくそれを弾く。


「死に損ないは順番を待ってろ」


 メシアは一瞬でクロムの目の前へ移動し、大剣を振り下ろした。クロムも咄嗟にモノを【剣式(ベヨネット)】に変型させ、防御態勢をとる。

 あの傷では無茶だ――グレイは瞬間的に【アサルトサイド】を発動させ、ひとっ跳びで2人の間に立ちはだかった。

 メシアの重い一撃を、グレイは交差したヤーグで受け止めた。


「グレイさんっ……! この結晶は、メシアの炎にも影響を受けない耐熱性です! 能力を使ってください!」


 スリートが喀血(かっけつ)しながら叫ぶ。グレイはそれを聞いて、一気に炎を噴出させた。


「スノウ! みんなを頼む!」


 グレイは大剣を弾き返し、出力全開のブレイズでメシアに突進した。ジェットエンジン並の馬力で、壁を破壊しながらメシアを吹っ飛ばす。まずはサンボダイから引き離すのが先決だ。

 勢いのまま結晶の壁や天蓋を貫通し、2人は雪山の表面から飛び出した。グレイは空中からメシアを地面へ叩きつけ、積もった雪の上に着地した。

 どうやら、ここはアノクタラ山脈の山頂のようだ。


「――今度こそ!」


 メシアは雪煙の中すぐに立ち上がった。ダメージはないに等しく見える。


「ぶっ殺してやるからなあ!」


 メシアが油の染み込んだ大剣を振るい、爆炎を放った。同時に、グレイも秘技・【炎天】で応戦する。

 2つの炎が激突し、聖峰全体が揺れた。山頂の積雪が消し飛び、膝にも似た山の本当の表面が露わになる。

 その中央に。グレイとメシアはいた。


「はあ!」

「おらぁ!」


 3本の剣が交わる。メシアは巨大な大剣で、2本のヤーグを受け止めていた。グレイが渾身の力を込めているにも関わらず、ビクともしない。

 双方の刃から豪炎が迸り、グレイは服の焦げる匂いに顔をしかめながら跳び退いた。

 8人の救世主を相手に全く引けを取らなかった強敵だ。その強大さは身に沁みている――グレイは常に神経を研ぎ澄ませていた。


「どうしたぁ!?」


 グレイは着地先の足元から、杭状に地面が飛び出てくるのを見た。空中で態勢を変え、ヤーグでそれを斬り落とす。

 すると背後からゴォォ……と気迫のようなものを感じ、振り返る。何もないが、空気の刃のようなものが迫ってくるのが分かった。

 炎でそれらを消し飛ばすと、メシアが掌から電撃を放ちながら大鎚を振りかぶってきた。左手のヤーグ(ドレインソード)で電撃を払いながら、大地を砕く一撃を間一髪で避ける。


「こんなもんじゃねえだろうが!」


 メシアに煽られるまでもない――グレイは右手のヤーグ・スタンブレイドを前へ突き出した。すると剣からは黄色のオーラが漂い、刃の尖端から透明な破片へと分解されていく。

 オーラはより色濃く肥大していく。やがてスタンブレイドは消失し、オーラと共にグレイの周囲を旋回する。

 破片は粒子状となってグレイの身体を覆い、黄色のオーラはグレイ自身から発せられるようになった。【アサルトサイド】と同じ現象だ。ただ、その媒介となるヤーグと纏うオーラの色が異なる。


「【ラッシュモード】……!」


 グレイは残ったヤーグを利き手に持ち替え、全身から炎を噴き出させた。降りしきる雪はその熱で溶け、2人は霧雨に見舞われる。

 メシアは生唾を飲み込んだ。あまりの熱気で喉が乾燥している。極寒の気温が急変して身震いをした。だが、それだけではない。

 これは【首都防衛戦】の時より強くなったグレイと戦える昂りと、武者震いだ。


「なんだよ、それ……面白そうなことすんなぁ!」


 メシアは両手をかざして水の刃と円錐形の氷柱を同時に放った。それを、グレイから溢れる炎が、まるで意思を持っているかのように一掃する。


「俺の力の本質は、熱の吸収による身体能力の増強と、熱の放出による炎の使役。左右のヤーグがそれぞれの役割を担い、炎熱の入出力バランスを均衡させている。

 熱の放出を司るヤーグと一体化して、身体能力と引き換えに限界まで増幅されたその力をこの身に宿す――それが【ラッシュモード】だ」


 グレイが手を軽く振るうと、炎の波が一斉にメシアに襲いかかった。炎は瞬く間にメシアを取り囲んで渦巻き、全方位から迫る。


「うぉら!」


 メシアも対抗して大剣を薙ぎ、自身の周囲に炎を放った。グレイの炎はメシアの炎を押し切り、メシアを燃やし尽くさんと雪崩れ込む。

 するとメシアは巨大な鉄扇を出現させ、その場で回転した。生じた風はグレイの炎を消し飛ばし、更に鉄扇は熱と炎を帯びる。


「食らえ」


 メシアが鉄扇から、炎の風を放った。グレイは自らの炎を操り、それを弾き返す。メシアは伸べた手を握り締め、何やら空間を歪めて跳ね返った炎風を消滅させた。

 グレイはブレイズを応用し、メシアの目前まで一気に近づいた。ヤーグを振り下ろすと同時に、刃に纏わせた炎を炸裂させる。

 メシアは大剣と盾で防御するが、爆発の衝撃で吹き飛ばされた。反り返った山頂の一辺を削り、隣の山嶺に激突するのが見えた。


「――こちらグレイ。今のうちに下山しよう。【預言者】とラバルムを安全なところへ」


 グレイは仲間に通信し、来た方向へ引き返した。

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