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聖峰内部

 グレイは、腰に硬いものが当たる痛みに呻いた。腰や尻を擦りながら、辺りを見回す。

 【預言者】のいた『神の喉仏』に似た、結晶で出来た洞窟だ。どうやら、雪崩に飲まれてどこかへ落ちてしまったらしい。頭上から、まだ雪がポロポロと崩れていた。

 すると、雪とは別の、黒く大きいものが降ってきた。


「わああああああああああ!」


 グレイは、叫び声をあげながら落下するそれの下敷きになった。


「あたたた…………」


 少女の声が聞こえる。グレイが這い出ようとすると、身体が思った通りに動いた。

 幸い首の骨などはやってないらしい。


「あぁ! グレイさまっ、ごめんなさい! 私、グレイさまの上に乗っちゃいました! 重いですよね、ごめんなさい……!」


 ラバルムが慌ててグレイの身体から退()いた。


「いや……重くはないよ…………」


 グレイは立ち上がりながら言った。ラバルムは照れた様子で俯いた。


「ほ、ほんとですか……? えへへ…………」


 なんだかのん気だとグレイは思った。


「ラバルム。サンボダイさんやみんなは?」

「……あぁ! ばばさま!? ばばさまー!? …………ばばさまがいないっ!」


 今気づいたらしく、慌てふためいた。


「どうしよう……ばばさまがいないよぅ……クラウドが狙ってるのに……ばばさまぁ…………」


 ラバルムが今にも泣き出しそうな顔で、辺りをうろちょろする。


「大丈夫。きっと近くにいるよ。それに、俺の仲間もいる。誰か一緒にいるはずだから、探しに行こう」


 グレイがなだめると、ラバルムはぐす……と鼻をすすりながら、目元を拭った。


「そうですよね……私がしっかりするんだ。ばばさまを助けなきゃ」

「ああ。俺たちで助けよう」


 グレイはラバルムの肩に手を置いた。


『こちらレイン。誰か応答して』


 すると、耳元で通信音声が聞こえた。


「こちらグレイ。みんな無事か!?」


 言っている最中、ラバルムの肩に置いた手の甲に、温かい感触が広がるのを感じた。

 ラバルムの細く小さい手が重ねられているのが分かった。


『私は無事。ブルートも一緒だけど……みんなとはぐれちゃった』


 レインの通信からは、微かだが2人分の足音が聞こえた。


『こちらネルシス。俺もスリートとは一緒だ。合流したいが、みんなどこにいる?』


 ネルシスは問うものの、どこか期待していないような声色だ。


「…………『神の喉仏』と似てるけど…………」


 全てが結晶で出来たような洞窟は、僅かな光源を反射して明るさを保っている。

 周囲にはいくつか道が枝分かれしているが、現在地を知る手がかりとなりそうなものは、なにもない。


『なんなんだ、ここ……』

『うん……すっごく綺麗だけど、なんだか不気味…………』


 ネルシスやレインたちも、同じ地形の場所にいるらしかった。


『アノクタラ山脈の内部』


 クロムの声だ。


『――って、サンボダイが言ってた』

「【預言者】と一緒にいるのか!?」


 グレイは思わず叫んだ。


『ああ。スノウとヘイル、チルドとグロウも。氷魔法と大地魔法で助けてもらった。だが、ラバルムって奴が見当たらない』

「ラバルムは俺と一緒だ。……ラバルム、サンボダイさんは無事だ。俺の仲間といる」


 グレイは、手を重ねたままのラバルムに教えた。途端、彼女の表情が明るくなった。


「ほんと!? ばばさまばばさま、いるのですか!? ばばさまー! 聞こえますか? ばばさまーっ!」


 ラバルムはグレイの耳元で大声で叫ぶ。グレイは耳がキンキン鳴るのを感じた。


「いやラバルム、ごめん、仕組み的にラバルムの声は聞こえないよ……」


 グレイは顔をしかめ、なんとかラバルムを落ち着かせた。


「そうなんですね……ごめんなさい、うるさくして…………。でもっ、ばばさまが無事ならよかったー! グレイさまグレイさま、早く見つけに行きましょ!」


 シュンとなったり元気になったり、ラバルムは忙しかった。


『神の喉仏と同様、ここも太古の神の体の一部と言い伝えられているらしい。俺たちが登った雪山は、その上に積もった雪に過ぎず、その下には結晶で構成された神の体が横たわっている、ってな』

「え……じゃあ、ここは神の体の上?」

『というより神の体の中、だな』


 グレイは段々、レインが言っていたように気味が悪くなってきた。


『なんでもいい。ヘイルは怪我してるし、【預言者】もいるんだな。なら、俺たちがそっちへ合流する。大所帯で動かない方がいいだろ』

『うん…………クラウドもまだ近くにいるだろうし、急いだ方が良さそうだね。私、隊長とも通信を繋ぐね』


 ネルシスとレインが、クロムたちの元へ合流する方向に話をまとめた。


『こちらウィル。隊の分散を確認したが、どうした?』

『隊長。【預言者】から預言を入手しました。けれど、クラウドの襲撃に遭って、今から合流するつもりです』


 レインがウィルに説明する。


「――隊長。メシアがいます。生きていました」


 グレイは報告した。【首都防衛戦】の末、救世軍はグレイの証言を踏まえてメシアを『撃退済』扱いとしたが、それは覆ることになる。


『そうか…………了解だ』


 ウィルは驚かなかった。かねてから彼は、聴取を受け証言するグレイの表情が前向きでないことを見抜き、共に生存を疑っていた1人だ。


『諸君の位置関係を特定した。方角は分かるか?』

『いや、山の内部に落ちて、外が見えない』


 ネルシスが答えた。太陽の位置が分からなければ、方角を確かめるのは難しい。


『風向きを計測して割り出すか……いや、時間が惜しいな』


 ウィルは別の方法を模索する。


()()()()()を使いますか?』


 レインが提案したのは、全員が現在地から特定の方向を向き、同じ歩数歩いて生じた距離によって、互いの位置関係を確定させるというものだ。

 たとえば、全員が今向いている方向から右を向いて、20歩歩く。すると、20歩歩く前から変化した距離や向いている方向を元に、位置関係が分かる。

 今回は、ウィルがマントから受信する信号を元に全員の位置を把握しているため、グレイたちが互いのいる方向を確認するための手法となる。


『いや、その必要はない。みんな多分、周囲に坂があるはずだ。どの坂でも、上っていけばいずれ合流できるはずだって、サンボダイが言ってる』


 クロムが、なにやら言いにくそうな語調で遮った。


『そうなのか? 【預言者】の言うことであれば確かだろうが…………合流できるならいいが、もし何かあったら、すぐ連絡してくれ。いつでも指令室にいる』

『了解』


 レインが応えると、ウィルは通信を切った。


『アバウトだな……まあ、あるけどな、坂。じゃあ言われた通り、ひたすら上るぜ。またあとでな』


 ネルシスも通信を切る。


「――クロム。今お前らがいるのって、神の体で言うどの辺りなんだ?」


 グレイは気になって訊ねた。おそらく、サンボダイはそれを知っているから、あんな指示が出せたのだ。


『…………知らない方がいいこともあると思う。俺は』


 含みのある台詞を残して、通信が終わった。

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