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アノクタラの戦い

 狙いは預言、そして【預言者】――サンボダイ。グレイはメシアと対峙しつつ、仲間と通信した。


「敵の増援は10体以上――メシアもいる。こっちにも誰か寄越してくれ」


 雑兵であれば、たとえクラウドでも数が来ようが問題ない。しかし、メシアもいるとなれば話は別だ。

 グレイが最後にメシアと遭遇したのは、【首都防衛戦】だ。あの時の記憶は曖昧だが、()()の助けを借りて辛勝したことだけは確かだ。

 見たところ、あの戦いで負わせた傷は快復しているようだ。クラウンに連れ去られ、死んでいないとは思っていたが……。


「……あ? 仲間を連れて来やがったか」


 メシアが忌々しげに言う。グレイは、背後から数人が駆けつける気配を察知した。


「割りと多いな」


 ネルシスの声が隣から聞こえた。他にレイン、ブルート、そしてスリートもいることを、グレイは横目で確認する。


「ヘイルはスノウが治療してる。守りはクロムとグロウ、チルドちゃんもいるから、大丈夫なはず」


 レインがグレイに状況を共有する。


「……見たような顔ぶればかり集めたなぁ。…………その左端の女は知らねえが」


 メシアは、ブルートに大剣の剣先を向けて言った。


「こっちはあんたの顔、イヤってくらい覚えてるけどね」


 ブルートはキッとメシアを睨みつける。


「どうでもいい。どうせお前らが束になっても俺には勝てねえんだ。せめて楽しませてくれよな」


 メシアは呆れたように溜め息をついて言った。次の瞬間、ネルシスがシールドブーメランを、メシアめがけて投げた。

 メシアは、それを大剣で弾いたが、その威力を受けきれず吹っ飛んだ。弾かれた盾は、独りでにネルシスの手元へ戻った。

 他のクラウドは、吹っ飛ばされたメシアを見て狼狽える。


「メシア!?」


 白熊のクラウドが声をあげる。すると、メシアは埋もれた雪を炸裂させた。

 大剣の刃が、煌々と燃える。


「てめぇ……あの時の水野郎が…………」

「お前には借りがある。ここでぶちのめして、返させてもらうぜ」


 ネルシスはシールドブーメランを指先でくるくる弄びながら、軽口を叩いた。

 メシアは、ところが笑ってみせた。


「見飽きた顔ばかりかと思ってたが、ちょっと面白そうじゃねえか――おい! お前らは手ぇ出すな! 俺が5人まとめて相手してやる」


 メシアはクラウドの軍勢に、怒声にも似た命令を下す。


「あまり侮らない方がいいですよ」


 スリートはリコイルトンファーを構え、眼鏡越しに鋭い眼光をメシアへ向ける。


「お前のことも知らねえが、そういう言葉は俺に傷の1つでもつけてから言え」


 メシアも、狂喜に満ちた眼を光らせ、油の染みた大剣を担いだ。

 【預言者】を守る、唯一の防衛線。緊張感を引き裂くように、メシアが駆け出した。グレイたちも同時に、白い大地を蹴る。

 グレイは先陣を切り、勢いよく跳び上がって、メシアに斬りかかった。だが、メシアではない何者かの体当たりを受け、雪の上を転がった。


「なっ……!?」


 グレイは毛むくじゃらの何かを蹴飛ばし、態勢を立て直した。白い毛むくじゃらが、雪を薙ぐように起き上がる。

 体当たりしたのは、白熊クラウドだった。


「おい手ぇ出すなっつったよなぁ? 邪魔すんならお前から殺すぞ」

「【預言者】はくれてやる。他の救世主もな。今回の手柄の大部分はお前のもんだ。

 だがこいつ(グレイ)は――最初のクラウドにして【救世主(イーヴァス)】を殺したレジェンド級クラウドのお前(メシア)を、殺せないまでも一度は倒した。こいつの魂には、すごい能力があるに決まってるんだ。

 グレイは俺が殺す。そうすれば、俺は最強のレジェンド級クラウドになれる。きっとそうに違いねえ」


 グレイは白熊クラウドを見据えながら、周囲の状況を探った。メシア以外のクラウド全員が、グレイを取り囲んでいた。


「俺たちの狙いは、端から【預言者】でも他でもなく、お前なんだよグレイ!」

「…………好きにしろよ」


 メシアは不機嫌そうに顔を歪めたが、グレイや他のクラウドたちに背を向けた。


「グレイ!」


 レインの悲鳴は、雪の弾ける柔らかい音に掻き消された。メシアが、レインたちの頭上高くへ跳び上がったのだ。


「よそ見してんじゃねえぞ!」


 凄まじい衝撃音が轟き、雪煙がメシアごとレインたちの姿を遮った。


「レイン!」


 グレイは助けに駆け寄ろうとしたが、行く手にクラウドたちが立ち塞がる。


「グレイ……お前がエルネスト相手に苦戦したことは知ってる」


 白熊クラウドの言葉に、グレイは振り返った。視線こそ白熊クラウドへ向けているが、注意は全方位へ払っている。

 エルネスト――メゾン合衆国での任務で戦った、エージェント級クラウドだ。

 たしかに彼との戦いは、仲間たちの援護がなければ危なかった。


「今、ここにいる俺らは全員、エージェント級以上のクラウドなんだぜ?」


 エルネストと同等の力を持つクラウド――その数11人が、グレイだけを殺そうとしている。


「そして覚えとけ――俺はレーベ。お前を殺す、エキスパート級クラウドの名前だ」


 エキスパート級――エルネストより強い階級だ。ついに、6つの階級の中で上位に入るクラウドが登場してきた。

 グレイは気を引き締める。エージェント級以上が11人……油断すれば死ぬかもしれない。

 敵の出方を窺っていると、白熊クラウド――レーベ以外のクラウド全員が、グレイに飛びかかってきた。


「死ねええええぇぇぇぇ」

「俺のだ! そいつは俺のだああああああ!」

「ギャハハハハハハハァ!」


 野蛮な声が八方から聞こえる。グレイは2本のヤーグを水平に構えた。

 刃から炎が噴き出す。炎の出力は雪崩を誘発する危険性を孕むが、一瞬なら――。


「【メイルストロム】!」


 グレイは噴出する炎の勢いに任せ、その場で回転した。炎を纏う剣が渦を巻き、クラウドたちを薙ぎ払う。

 3人はモロに喰らい、1人はヤーグに胸部を斬り裂かれ、2人は全身を焼かれて雪の上に落下した。

 残りはグレイの回転技が終わった瞬間を見計らい、再び突撃してくる。だが、今度は全員のタイミングが少しずつ違う。


「くっ……」


 グレイはまず、空中に跳び上がったクラウドへ左手のヤーグ(ドレインソード)を投げつけた。剣はクラウドの腹に突き刺さり、断末魔をあげて落ちていった。

 背後に気配を感じ、グレイはすかさず振り返る。クラウドが2人、武器を振り下ろしていた。グレイは、より速い一撃を右手のヤーグ(スタンブレイド)で受け止め、動きが遅い方のクラウドの鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れた。

 左手に先ほど投げたヤーグを再び出現させ、先手を打ったクラウドを斬り裂く。次いで、頭上から襲いくる3人のクラウド。初撃をかわしながら2人を斬り、振り返りざまに残る1人を斬った。


「この程度か!」


 グレイはクラウドたちへ叫んだ。この数秒で、既に8人を倒した。1人は味方が次々にやられていくのを見て距離を取り、先ほど蹴り飛ばしたもう1人も片膝をついて様子を窺っているようだ。

 残りは3人――グレイは勝利を確信した。ペティの森で授かった力は、これまでより遥かに強大だ。エージェント級以上のクラウド11人を同時に相手取っても、全く遅れを取らない。

 しかし、妙に引っかかった。レーベはなぜ攻撃してこない? 姿を見ていないが――。


「おらぁ!」


 怒号が聞こえ、振り返る。メシアが、相手取っていたレインたち4人を吹っ飛ばしていた。

 雪煙の中には、ギラギラと灼くような真っ赤な瞳を燃やし、メシアが大剣を担いでいた。


「みんな!」


 グレイは驚愕した。レインとクロムも、自分と同じくペティの森で新たな力を手に入れたはずだ。なのに、メシアはそれすらもことごとく蹴散らすのか……。

 【救世主】の力――イーヴァスを殺して奪った力。やはり、その能力は絶大のようだ。

 すると、グレイはゴゴゴ……と地鳴りのような音を聞いた。足元の雪が、地面が……山が、揺れている。


「本当に他人(ひと)の心配ばかりするなグレイ! だが、この状況を理解しても尚そんな余裕を保っていられるか、見ものだなあ!」


 レーベが白く毛深い両腕を着いて、獰猛な笑みを浮かべていた。その背後には、雪の波濤のようなものが、遥か頂上から聖峰の表面を削るように迫っていた。

 雪崩だ――グレイは、背後にそびえる『神の喉仏』に気づき、急いで仲間たちに通信した。


「雪崩だ、気をつけろ! 【預言者】とラバルムを――」


 雪崩は凄まじい勢いでグレイの目の前まで押し寄せ、全てを飲み込んだ。

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