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【預言者】

 どうも、abyss 零です。ご無沙汰しております。

6年目にして、前回投稿話と今回の投稿話の順序が逆となっておりました。申し訳ございません。

 歯抜けとなった部分が描かれますので、どうぞご覧ください。


 結構ドンと大きいイベントを持ってきたのに、気が逸り過ぎました。今後とも気をつけます。

 結晶の洞窟の中は、硬質な壁面や天井が僅かな光を反射して、人里離れた雪山にも関わらず明るかった。

 澄んだ海に似た色に囲まれ、グレイたちは先導するラバルムに着いていった。

 自然ならではの(いびつ)な一本道を進んでいくと、やがてその奥で両脇に蝋燭を灯し、座布団のような敷物に座る人の姿に遭遇した。


「あなたがサンボ――」


 グレイがその背中に声をかける直前には、ラバルムが一行を制止するように立ち塞がっていた。


「静かにっ! ……今、ばばさまに預言が降りてます」


 ラバルムに言われ、グレイたちは静寂を保った。見ると、その丸まった背中越しに、奥の人物が一心不乱に何かをしているのが分かった。

 時折、静まり返った洞窟に微かな呻き声が反響した。それは低く、野太い。まるで何かに取り憑かれているかのような、畏怖すら覚える声音だ。

 やがて、その人物は手を止め、同時にそれまで放っていた異様な雰囲気も消えた。


「ばばさまばばさま! お客さまですよ! 救世主のみなさんが、ばばさまの預言を受け取りにいらっしゃいましたよ!」


 ラバルムがそれを見計らったように、その背中に声をかけた。

 振り返ったその人物は、老婆だった。長い白髪、深いシワの刻まれた相貌と、そこに埋没した穏やかな瞳。

 老婆は深く頷き、立ち上がった。


「ようこそ、聖峰アノクタラへ。あたくしめが、今代の【預言者】サンボダイにございます」


 曲がった腰を倒し、グレイたちにお辞儀する【預言者】。グレイたちは緊張していた。

 彼女が、戦いの行方を視るのだ。


「ばばさまばばさま! 私、あの方に助けてもらったんですよ! このお山さまに、クラウドが現れたらしいのです!」

「そうだねぇ」


 ラバルムが嬉々として話す『クラウド』のこと対し、サンボダイは驚かなかった。


「ばばさまばばさま! それでね、私ばばさまに言われた通り、お山さまの御声を聴こうとしてみたんですけど、今日もダメでした…………」

「そうかい。でもね、焦ることはないんだよ。いつかは、御声が聴こえる。その時、おまえさんはあたくしの【預言者】を受け継ぐんだ」

「ばばさまばばさま、それは一体いつなのです? ばばさまなら、お分かりなのではないです?」

「いいや、まだ視えないねぇ。…………あたくしとおまえさんは、まだ当分、ここで一緒に過ごすらしいよ」

「ほんとに!? やったー! あ、ばばさまっ。お肩お揉みしてあげますね!」


 ラバルムはサンボダイの後ろに回り込み、拳を作って小さな肩をトントンと叩いた。

 サンボダイはされながら、目尻と口角を垂らして、朗らかに笑った。ラバルムも、笑いながら肩を揉んでいる。まるで、祖母と孫のようだ。

 それを見ていると、グレイはサンボダイと目が合った。


「知っていたんですね。クラウドがここにいること。――あなたを狙っていることも」


 グレイは少し躊躇ったが、訊ねた。この和やかな雰囲気に水を差すようで気は引けたが、静観しているわけにもいかない。

 ここへは、預言を受け取りにきたのだ。さっきサンボダイが行っていたのが目的のソレなら、渡してもらわなければ。

 グレイの問いに、サンボダイは頷いた。


「【預言者】は未来を視、その先に待つ運命を識る――世界や歴史に起こる重大な事柄を、預言という形で語る存在。その特異な権能によって、自らの身に降りかかる定めも、少しばかり分かるのさ」

「逃げたり、防御を固めたりはなさらないのですか? それとも、俺たちがあなたを守ることも分かって……?」


 サンボダイは、今度は首を横に振った。


「【預言者】は代々、預言を民衆に伝えてきた。じゃが、同時に【預言者】は預言が語る未来に一切干渉しなかった。誘導も阻止もしない。何をどうするか――それは預言を受け取りし平生の民が決めること」


 サンボダイは、まっすぐグレイを見つめていた。グレイはサンボダイへ近寄り、掌を差し出した。


「その民のためになることを、俺たちがやります。その預言を見せてもらえますか。俺たちは未来を識り、この戦いに勝たなくちゃいけないんです」


 ラバルムも肩揉みをやめ、グレイとサンボダイを不安そうに交互に見た。

 サンボダイは全てを見透すような眼差しでグレイを見つめ、ゆらりと手を伸べた。筒状の何かが握られている。それを、グレイの掌に乗せた。

 グレイはそれを凝視した。――巻物だ。


「あんたの手に今、未来がある」


 レインやクロム、仲間たちが背後にぞろぞろ集まってくるのが分かった。肩や腕から顔を覗かせて、グレイの手元に視線が集約されている。

 ラバルムも、サンボダイの肩に手を乗せたまま、生唾をごくりと呑んで巻物を見つめている。

 グレイは恐る恐る、預言を開いた。




     (いわお)と三角の中心と孤独の少女

     赤の下と白の上の彷徨

     4の1なる土の門




 肩幅ほどの紙面の中央に、3行の短い文章が綴られていた。


「…………なんだこれ」


 クロムが眉をひそめた。


「なぞなぞ…………?」


 レインも首を傾げる。


「これが…………預言」


 グレイは、巻物に書かれた文言を何度も読み返した。

 しかし、意味は分からない。


「えっと……とにかく、その少女に会えば、なにか分かるんです……よね……?」


 スノウが声を震わせて、サンボダイに訊ねた。仲間とはすっかり打ち解けてきた彼女だが、初対面の相手にはまだ緊張しがちだ。


「それもまた、預言を受け取ったあんたたち次第さね」


 サンボダイは、グレイたちを順番に見つめる。


「――さて。あんたたちは、誰かを守りながら敵と戦う時、どうするんだい?」


 突然、妙なことを訊くサンボダイ。


「え……守る役と戦う役に分かれます」

「なるほど。それは予め決まってるのかい」

「…………いえ、割りとノリで」

「そうかい。……なら、今のうちに決めておいてもらった方がありがたいかもねえ。時間はそうないだろうけど」


 グレイたちは、何者かの気配を感じて背後を振り返った。ズシ、ズシ……と重い足音のようなものが、僅かに聞こえる。


「【預言者】は、もたらされた預言によって識り得る未来に自ら干渉してはならない。

 だけど、ここであたくしが殺されるわけにはいかない」


 グレイは2本のヤーグを構えた。

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