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ジャンプ

 グレイとブルートは、ペティの里に辿り着き【預言者】について調べようとしたが、ひょんなことからペティ族のトラブル解決に力を貸すことになった。

 それから紆余曲折を経て、はぐれた仲間たちと共に里へ戻り、長老ニッチェと話すことになった。


 グレイたちはニッチェの家へ招かれ、その中で話をすることになった。とはいえ、ペティ族の家は、そのサイズ感も小人基準だ。


「天井低!」


 ネルシスは家の前でめいっぱい屈みながら言った。家の全高はグレイたちの腰ほどしかなく、ほぼ四つん這いにならなければ中へは入れない。

 レインたちは、なんとも不安に思いながらも、ネルシスがままごとセットのような家に身体を捩じ込む様を見ていた。

 ネルシスは喘ぎながらも、なんとか肩までニッチェ宅の中へ押し入れた。


「中狭!」


 その家は外観はもちろん、内装も小人サイズで、おもちゃのような家具が綺麗に並んでいて、足の踏み場を制限している。

 中では、台所でニッチェが何やら来客をもてなす準備をしており、それをブルートが嬉々として見つめていた。


「文句言わない! 失礼でしょ! このちっちゃくてかわいい感じがいいんじゃん! なんか、こう……いいじゃん!?」


 彼女がネルシスを見もせず抗議する。その脇には、食卓を前に礼儀正しく座っている、グレイの姿もあった。

 2人は2回目の来訪ということもあって、ネルシスたちよりも先にニッチェ宅へ入っていたのだ。


「なーグレイ。これ無理だよ。どう考えたって入り切らない。なんかさ、話すにしても場所変えないか?」

「それは俺も思った」

「知ってて黙ってたのか。なんで言わないんだよ!?」

「いや、ご厚意を無下にするのもどうかと……」


 グレイは、いそいそと仕度をするニッチェの背中を見て言った。


「馬鹿、いいんだよそんなこと。馬鹿。こちとら休暇に来てんだ。ちょっと報酬を貰って、なんかいいスポットの3つ4つ聞き出しゃそれでいいんだ」


 ネルシスはシッシッとグレイを手でどかせた。


「おい、長老さんよ。俺たち、ここへはバカンスに来てんだ。仲間を助けた礼をしてくれるのはありがたいが、出来ればソトースの滝とかミィコウ川とか、そういう観光スポットを案内してくれ。――これ通じてんのか?」


 ネルシスは急に不安そうな顔をしてグレイに訊ねた。グレイは少し笑って頷いた。ペティ族の話す言語は独特だ。普段の調子で話していると心配になってくる気持ちは、グレイにも分からないではない。


「あたしにとってはこの里が観光地」


 ブルートが夢見ているような表情をしながら呟いた。


「ふぉーふぉふぉふぉ(そうなんですね。分かりました。あとで案内します)」


 ニッチェはフリスビー大のおぼんに、人数分のお茶を載せてテーブルに置いていった。


「マジか! よし頼む、任せるぜ。これ、もらうぞ」


 ネルシスは嬉しがりながら、差し出されたお茶を飲んだ。


「ふぉん……(その前に……)」


 コト……と、最後に出されたコップが、テーブルに触れて音を立てる。それは、ちょうどグレイの目の前に置かれた。

 グレイは会釈して礼を言おうとすると、ニッチェと眼が合った。そのまま、互いに数瞬静止する。

 偶然ではない。ニッチェは、しっかりとグレイの瞳を見つめていた。


「ふぉんふぉんふぉ?(さっきのお話の続きをしましょう。なにか聞きたそうでしたよね?)」


 無垢を宿したような、真っ直ぐな瞳。その眼差しを受けて、グレイは少し後ろめたくなった。

 だが、せっかく向こうから話を切り出してきたのだ。この好機を逃す手はない。


「……いや、それはみんなに観光スポットを教えてもらった後でもいいですか? みんなが遊んでる間に、俺が残って時間をいただけたらと――」

「えっ? グレイ行かないの!?」


 ブルートがショックを受けたように声を張り上げる。


「ふぉふぉんふぉふぉ! ふぉーふぉーふぉ(じゃあ、グレイさんもぜひ遊んできてください! わたしはずっとここにいますので、帰ってからお話の続きをしましょう。夕方になると、あの辺はすごくいい景色になります。それに、日が落ちかけた頃の方が、きっとちょうどいいですよ)」


 ニッチェはニコ〜と笑って言った。耳に入る言語と、同時に頭の中に届く情報量の差が凄まじい。


「えっ!? ニッチェさんも行こうよ〜!」

「ふぉん(わたし泳げないので)」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜」


 ブルートは思いきり肩を落とした。指先が地面につきそうだ。

 それを余所に、ネルシスが嬉々として外のレインたちを振り返った。


「おい川いくぞ川! 滝見るぞ滝! 案内してくれるらしい」

「やったー!」

「わーい、やったーーー! かっわあっそび〜〜〜〜〜!!」

「う、うん……!」


 レイン、チルド、スノウあたりがはしゃぐのが聞こえた。グレイは難しい顔をした。

 今すぐにでも【預言者】のことを訊き出したい。得体の知れない衝動が、胸の内で揺れているのが分かるようだ。だが、この仲間たちの楽しげな雰囲気を台無しにするのも憚られる。グレイはジレンマの狭間で、全身を掻きむしりたくなるような気分になった。

 せっかくの休暇――みんなと一緒に遊びたい。


「…………じゃあ、お言葉に甘えて」

「ふぉーふぉふぉん(もちろん。子どもはたくさん甘えていいと思います)」


 グレイは自分より遥かに小さく、幼い容姿のニッチェに子ども呼ばわりされて、すごく不思議に感じた。


「ふぉふぉんふぉん(そしたら、1回外に出ましょうか)」


 ニッチェは立ち上がって、ネルシスが半身を出している玄関口へ歩いていった。


「あ、これ……」


 グレイは卓上に綺麗に置かれたコップを指した。出されたものを放って遊びに行くのも失礼だ。というよりもったいない。


「ふぉー(あー。じゃあ向こうに持っていって飲んでください。あとで返してほしいです)」


 ニッチェは引き返し、おぼんの上にお茶を載せて今度こそ外へ出た。ネルシス、グレイ、ブルートの順に続く。

 さすがに窮屈気味な家なので、グレイは腰や腕をグーッと伸ばした。ブルートとネルシスも、屈伸したり膝を曲げたりしている。

 そうしている間に、ニッチェはレインたちにお茶を配っていた。


「ふぉーおおー(トカンさーん)」


 ニッチェが間延びした調子で呼ぶと、ものの数十秒でトカンが向こうから、うさぎのようにてってっとやって来た。


「ふぉふぉふぉっふ(みなさんを『すごい滝』へ連れていってあげてください)」

「えう〜!(わかりました)」


 またしても輪になって手を繋ぐグレイたち。


「ふぉ〜(いってらっしゃい)」


 朗らかに手を振るニッチェを、グレイは見つめた。今も尚、【預言者】のことは気になって仕方がない。だが、みんなと満喫するはずの休暇を棒に振ることもできなかった。

 まるで、自分が2人いるかのような葛藤が、頭と胸を引き裂きそうだった。


「えっう〜!(よっこいしょっ!)」


 グレイの苦悩を他所に、トカンの掛け声でみんなはその場から跳び上がった。

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