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まおま〜お

 次回の更新は、実験的に水曜日の朝にする予定です。より多くの方の目に触れていただきやすいタイミングを、鋭意模索中なため、ご理解くださいますようお願い申し上げます。

 グレイたちはカルデトを助け出し、巣穴を抜けるため来た道を戻る。最初の急斜面を、今度は足腰に力を入れて登っていく。

 上からは、外の明かりが漏れていた。進んでいくと、なにやらギターに似た騒音も聞こえる。レインが『ロック・アート』で、仲間を探しているのだ。射すような陽光が強まると共に、聞こえる弦の音も大きくなっていった。

 それでも、ブルートに抱えられながらカルデトが発するゴボゴボという声は、それに負けないくらい主張が激しかった。


 やがて、グレイたち5人はようやく巣穴から這い出た。


「あっ! グレイ!」


 レインが真っ先に駆け寄ってきた。グレイには、数時間ぶりの外界の明るさと相まって、彼女の姿が眩しく見えた。


「よかった〜、大丈夫?」


 レインは身を屈めて手を差し出した。白くて細い、綺麗な手だ。


「いや、いいよ。俺、汚れてるし――」


 グレイは手を振って拒んだが、レインは構わず握った。巣穴では入り口に滑落したり、クァールの足跡を追うため地面や壁に触れたりして、体はかなり泥や土だらけだ。

 それでも、レインが掴む手には躊躇がない。しっかりと、グレイの右手を放さない。グレイは無意識に顔を伏して、レインのするがままに引き上げられた。

 眼だけを動かして、チラリとレインの方を見ると、彼女の輝くような微笑みが映った。その少し離れた後ろから、控えめにこちらを見つめるスノウの姿も。


 グレイの後ろからは、ヘイル、スリート、ネルシス……続々と巣穴を抜け出し、新鮮な風を浴びた。


「あれ、みんなどうして?」


 レインは、巣穴へ入る前にはいなかった面々を見て問う。すると、そんな彼女の隣に、パッとクロムが現れた。空間魔法だ――どうやら、先に話したように、辺りに仲間がいないか探していたようだ。


「……おお、戻ったか――って、多いな」


 クロムも、ヘイルら3人に気づくと少し驚いた。


「僕たちは墜落中、ヘイルさんの風魔法のおかげで難を逃れましてね。皆さんを探している内に、この岩窟に辿り着き、グレイさんたちと再会したんです」


 スリートが説明した。


「そうなんですね……カルデトちゃんも助け出せて、よかった……」


 スノウが、ブルートに抱かれたカルデトを見て胸を安堵した。カルデトもスノウの姿を見ると、叫ぶのをやめた。


「モニちゃん! トカンちゃん! カルデトちゃん無事だよ!」


 スノウは、巣穴のある木の上へ向かって声を張り上げた。スノウが大声を出すと、こんな感じなのか――グレイは1人でそんなことを思っていた。

 仲間の名前を聞いたからか、カルデトが『ゴボボォ!』と水柱の中で何か言った。


「……それは何をしてるんですか?」


 スノウが気になるのも無理はない。カルデトの口元には、円柱状の水の塊がくっついている。


「うるさいから黙らせてる。大丈夫、息は鼻からできる」

「えぇ!? そんな――」


 スノウが何か言おうとしたのを遮るように、ガサガサと葉の揺れる音と共に、2つのバレーボール大のものが頭上からスノウの両肩に降りてきた。

 モニとトカンだ。


「むぅ! むぅむぅむ!(わあ! カルデトが食べられなかったです!)」

「えうえうえう〜!(やった〜!)」


 2人は諸手を挙げて喜び、ピョンとスノウの肩から跳んだ。それと同時に、カルデトもブルートの両腕から離れ、3人は地面に着地する。その勢いか、カルデトの口元を塞いでいたネルシスの水魔法は、パシャンッと飛沫をあげて破裂した。

 グレイたちは一瞬、巣穴でのあの声量を思い出し、身構えた。


「まおまお〜!(ぷはぁ〜!)」


 だがカルデトが発したのは、ちゃんとした普通の声だった。巣穴にいた5人は顔を見合わせ、ホッと溜め息をついた。


「えうんえうんえうん! えうえう〜ん(カルデトがクァールに拐われちゃった時は心配しました! 食べられなくてよかったですね)」

「まおまおまお〜、ま〜お!(とても怖かったです。みなさん、ありがとうございます)」

「むう〜……(これからは食べられないように、もっと気をつけるんですよ)」


 ペティたち3人が、なにやら独自の言語で話している。グレイたちには、不思議と何を言っているのか分かった。

 グレイは、後ろでドサッという音が聞こえて振り返った。ブルートが木にもたれ、モニたちを見つめながら胸を押さえている。

 かわいいものが好きなブルートにとっては、天国のような光景なのだ。


「まったく……こっちは助けたそばからうるさいのなんの、散々だったんだからな」


 ネルシスは、わざとらしそうに嫌みを言った。すると、カルデトはぺこっと頭を下げた。


「まおまお。まおまおまおん、まおまーお(助けてくださったのに、ごめんなさい。わたしは泣いちゃうとすっごくうるさいんです)」

「むうむう〜(食べられないために必要な能力です)」

「えうえうん(だから言ったのに)」


 ペティ族の天敵から身を守る能力――グレイは相変わらず分からなかった。もっと威嚇とか逃げるとか、そういう方向性に秀でたものであるべきではないか。

 まあ、カルデトの『泣き声が凄まじい大音量になる能力』と、トカンの『ジャンプすると瞬間移動する能力』は分かる。いずれも、捕食者から身を守るという意味では、理解できる範疇だ。

 しかし、そこへくるとモニの『ほっぺたを触られると雨が降る能力』が、ますますどういうことなのか分からなくなっていた。


「なあ、グロウとチルドを見なかったか?」


 出し抜けにヘイルがグレイたちに訊ねた。その顔はにわかに曇っている。


「いや、見てないよ。俺も、ちょうど聞こうと思ってたんだけど……まだ探してる途中なんだ」


 グレイの答えに、ヘイルは『そうか……』と肩を落とした。


「俺……グロウやチルドを助けられなかった。風魔法が届かなくて、周りがグルグル回りながら、2人が落ちていくのが見えたんだ…………」


 ひどく落胆した調子で呟くヘイル。こんなに落ち込むヘイルは初めてだ。すると、ネルシスがそんな彼の肩を殴った。ゴッと痛そうな音が鳴る。


「お前なんかが助けに入らなくても、あいつらは無事なんだよ。鬱陶しいからその反省してますみたいなのをやめろ」


 ネルシスが、珍しく気を遣っているようだった。――いや、心からそう信じている。だからこそ、ヘイルを励ますのだ。

 信頼と思いやり。グレイは、ネルシスの意外な一面を見た気分になった。

 やや重たい空気が場を緊張させようとした時、モニが『むう!(そうだ!)』と思いついたように口を開いた。


「むうむうむむむん!(よければ、里のみんなにも、皆さんのお友達探しを手伝ってもらいましょう!)」

「え、いいの!?」


 願ってもみない提案に、ブルートは食いついた。


「まおまお〜! まっま〜お!(それいいですね! 恩人さんには、なにかお礼をしたいです)」


 カルデトがニハ〜と笑った。


「えう〜(じゃあ、1回里に戻りましょうか)」


 トカンは言いながら、その場でバンザイをした。すると、モニとカルデトがてくてくと近づき、トカンに抱きついた。

 グレイはそれをなんとなく見ていたが、ブルートがものすごい勢いで横を通り過ぎ、ズザァと滑るようにトカンたち3人の小さな体を抱き締めた。

 もはや、かわいいものに目がないというレベルで済まない狂気だ――そんなことを思っていたが、グレイはトカンの能力のことを思い出した。


 トカンは、ジャンプすると行きたい場所へワープする。その時、トカンを抱き締めた人も一緒に瞬間移動するのだ。

 ブルートはその能力を大義名分に、ペティの抱き心地を再び堪能……今は独占していた。

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