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えうんえうん!

 グレイとブルートは、はぐれた仲間たちを探すため――そして【世紀末戦争】や【預言者】の伝承について知るため――モニと共にペティの里の長老ニッチェと話した。

 だが、ニッチェはペティ(小人)族の天敵から身を守るための能力により、グレイが発した【預言者】という単語を聞くと気絶してしまった。

 呆然とするグレイたちの前に突如、別のペティが現れた。


「えぇ!?」

「うわあ!」


 グレイとブルートは、跳び上がらんばかりに驚いた。


「むーむむー(トカン)! むっむ(どうしましたか)?」


 モニは気絶しているニッチェをほったらかし、そのペティの元へてちてち寄っていった。


「えうんえうん(大変なんです)!」

「むむ(なにが)?」

「えうえうえん、えうーえうえう(お客さんと散歩していたら、カルデトが野良クァールに連れ去られちゃいました)!」

「むう(なんですと)!」


 モニと、トカンと呼ばれたペティが、何やら2人でただならぬ様子で話す。


「……どういうことなんだろ」


 話に置いてけぼりを食らうグレイは、ブルートにボソッと呟いた。


「さあ。かわいいが2乗だから良い」


 対して、ブルートは瞳を輝かせてモニたちを見つめていた。若干グレイとの話は噛み合っていないが、小人のビジュアルに魅了されたブルートは気づいていないらしい。

 グレイが呆れていると、モニがバッと2人を振り向いた。


「むぅむぅむ(友達が動物の縄張りに連れていかれました)! むむんむむんむむん(ちょっと食べないようお願いしてきます)!」


 モニは口を^型に吊り上げ、勢いよく立ち上がった。だが、立ち上がったのはモニだけではなかった。


「えっ!? 食べるってなに!? 食べられちゃうの!?」


 ブルートが『信じられない!!』と悲鳴をあげた。


「モニ! ち、ちょっと待って!」


 グレイも、たまらず立ち上がって引き止める。モニは『む?』と振り返った。


「一体、なにがあったんだ? よければ、聞かせてくれないかな?」


 グレイが訊ねると、モニは彼の方へ向き直った。


「むぅ(したらば、トカンから聞いた方が早いかと)」


 モニはそう言うと、今度はトカンに話しかけた。


「むむんむむぅむぅ、むぅむぅむむんむ(この人たちはグレイさんとブルートさん、お客さんです。トカン、お二方に説明してあげて)」


 すると、トカンは『えうん(がってん)!』と意気込んだ。


「えうえうえうん、えっえうううん(こんにちは、グレイさん、ブルートさん。わたしはトカンです。友達のカルデトとお散歩をしてたら、お客さんに会ってお喋りしてたら、野生のクァールがカルデトを巣穴へ連れ去っちゃったんです)!」


 トカンは礼儀正しくも、焦りからか早口で説明した。だが、それはグレイたちが端から聞いていた、モニとトカンの会話とほぼ同じ内容だ。

 しかし、改めて聞いて、グレイは1つ引っかかった。『お客さん』とは、まさか――。


「そ、そのクァールって……じゃあ、その……ペッペティを食べちゃうの!?」


 ブルートは、実際に身の毛をよだたせて訊ねた。


「えうえうえう(食べちゃいます)」

「むうむうむむむん(だから、わたしたちはそれぞれ身を守るための能力があるんです)」

「えっうえうえうえん(食べられちゃうと困りますからね)」


 モニたちは、やれやれと眉をひそめた。どうも緊張感に欠ける種族だと、グレイは改めて思った。


「トカン、お客さんって……俺たちみたいにマントを羽織ってなかったか?」


 グレイは辛抱ならなくなって訊ねた。トカンに背中を向けて、朱いマントを指差す。


「えうっ(うーん……あ)! えうえうえうえうえう(着けてました着けてました、あのお客さんたちも着けてました)!」

「むう〜(その背中の布きれ、『まんと』って言うんですね〜)」


 やはり……グレイは自らの抱いた懸念が、にわかに信憑性を帯びてきたことを実感した。トカンが出会ったのは、離ればなれになった仲間たちだ。

 

「……グレイ! もしかしたら、トカンに着いていったらみんなに会えるかも!」


 ブルートも気づいて、安堵と喜びの交じった笑みを浮かべる。


「うん、俺も同じこと思ってた」

「あたしたち気が合うね」

「えぇ、そんなに!?」


 グレイがツッコむと、ブルートは『でへへぇ』と笑った。これで気が合うのなら、人類は皆、気を合わせられる。

 だが、久しぶりにブルートの屈託のない笑顔を見たような気がする――グレイもホッと息をついた。


「トカン、俺たちも案内してくれないか? もしかしたら、トカンが会ったのは、俺たちの仲間かもしれないんだ。それに、モニたちの仲間が食べられるのを放ってはおけない」


 グレイが屈んで掛け合うと、モニとトカンはワァと表情を明るくした。


「むっむー(やったー)!」

「えっえうー(ぜひー)!」


 すごく嬉しそうな小人ペティたちだった。


「えうううーん(そうと決まれば急ぎましょう)!」

「むむむむー(カルデトが食べられちゃいます)!」


 モニはトカンの両脇に短い腕を伸ばし、ぎゅむっと互いに抱き合った。そのまま、しばらく2人はずっとそうしていた。


「いやかわいいけど急ぐんでしょ!?」


 ブルートも堪らなかったのか、少し語気を荒くして言った。


「2人とも、なにしてるんだ?」


 グレイは怪訝に思って訊いた。


「むむむんむ(トカンはジャンプすると行きたいところに行けるんです)」

「えうんうー(お2人も掴まってください)」


 トカンが手招きして2人を急かす。グレイは当惑してブルートの方を見たが、彼女は既にトカンの元へ駆け寄っていた(屈まないといけない家の構造上、どちらかと言うと四つん這いで這い寄っている感じだ)。

 ペティの能力――天敵に食べられないためにしては、どうにも奇天烈なものばかりだ。けれども、ジャンプすれば逃げられるというのは、モニとニッチェに比べればまだ理解できるものか。

 グレイがとりあえず納得するまでの僅かな間に、ブルートは満悦至極と言わんばかりの幸せそうな顔をしてモニとトカンに抱きついていた。


「グレイ。急がないといけないけど、急がなくてもいいかもしれない」


 ブルートはまぶたを()の字に緩めてペティの抱き心地を堪能している。放っておくといつまでもそうしていそうだ。

 グレイは気絶したままのニッチェを跨ぎ、トカンと一緒にブルートやモニをも上体で包み込んだ。トカンとの体格差や家の小ささから、輪に加わるにはそうする他ない。

 モニとトカンの身体はマシュマロのようにぷにぷにで柔らかく、ブルートの背中や肩は小枝のように細かった。


「えう(あれ)? えうえうえん(そういえば親分は)?」

「むう。むうむうむうむん(村長はそこで気絶しちゃってます。グレイさんが【あの言葉】を言っちゃったから)」

「えう〜、えうえう(あ〜。久しぶりに見ました)」


 そんな一幕を挟んでから、トカンは『えう〜(いきますよ〜)!』と言って、ぐっと膝を曲げた。


「えうっ(ていっ)!」


 トカンがピョコンと跳び、着地した瞬間。グレイたちの姿は消えていた。

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