かんげいムード
どうも、abyss 零です。ご無沙汰しております。
前回より長らくお待たせしてしまい、申し訳ございません。
では、早速本編どうぞ。
グレイとブルートは、はぐれた仲間たちを探す道中、モニの案内によってペティの里に辿り着いた。
グレイたちの来訪を察知したのか、小さな家々からチラホラとモニと似た容姿の小人たちが顔を出してきた。ペティ族だ。
「わあー(人だー)」
「じゅじゅーん(2人もー)」
「みぅー(ようこそー)!」
ペティたちは、口々に独自の言語で喋るが、モニと同様なぜか意味は伝わった。グレイは一瞬呆気に取られたが、ペティがよたよたと集まってくる様を見て、すぐに穏やかな気持ちになった。
すると、グレイは視界の端で、ブルートが全身をガクガク震わせているのを捉えた。振り向くと、これ以上ないほど蕩けきった顔をしている。声とも形容しがたい高音を発しながら、口の端から僅かによだれを垂らしている。
モニだけであれだけ舞い上がっていたのだ。たくさんのペティに囲まれたら、かわいいもの好きのブルートが絶頂するのも無理はない。グレイは放っておくことにした。
「むむむむむむ(あわわわわわ)」
モニもブルートが身体を震わす振動でガクガク揺れていた。落ちないよう、短い手足をめいっぱい伸ばして彼女の頭の上にしがみついている。
「こんにちは」
グレイは、とりあえずしゃがんでペティたちに挨拶した。
「にゅー(こんにちは)!」
「はわー(こんにちはー)」
「のよーん(こんにちは)!」
ペティたちは、それぞれの言葉で返した。グレイはますます朗らかな気分になった。この光景がもたらす絶対的な癒しは、ブルートがだらしない顔をするのも納得できる威力だ。
「こっ、こんにちはっ! あたし、ブルートって言います! よよよ、よろしくねっ!」
ブルートは尻もちをついてペティたちに話しかけた。すると、ペティたちはわーっと彼女に寄ってくる。
「じゅーんっ(ブルートさん)」
「みみぅー(こんにちはー)!」
「のよのよー(ようこそー)!」
ペティたちに群がられ、ブルートは幸せそうだ。
「グレイ。あたしここに住む。そしてここで死ぬ」
「いつかね」
グレイは微笑んだまま言った。救世主の使命を果たすまでは、学院を離れるわけにはいかない。ましてや、死ぬことは許されない。その命には、世界の存亡がかかっているのだ。
そこで、グレイはこのペティの森へ来た目的を思い出した。【預言者】や【世紀末戦争】について調べるためだ。モニに出会ってから、あまりのインパクトでしばらく忘れていた。
「ふぉふぉふぉ(お客さんですね)」
すると、たくさん集まったペティたちを掻き分け、髭を生やした白髪のペティが、木の枝を杖のように着いてやって来た。バレーボールほどの大きさの顔には、ただ1人シワが刻まれている。
「ふぉふぉふぉーふぉ、ふぉーふぉふぉ(こんにちは、この里の長老のニッチェです)」
そのペティは、グレイとブルートを交互に見て言った。
「あ、どうも……こんにちは」
「こんにちはっ!」
2人はニッチェにも挨拶した。
「ふぉふぉんふぉふぉん(ようこそ。立ち話もあれですし、よければわたしのお家にいらしてみますか)?」
ニッチェは杖の先で、里の真ん中に建つ家を指した。
「ああ、そうですね……」
あまりにすんなり受け入れられて、グレイは少したじろいだ。
「むっむむー(村長、お2人はさっきの雨でびしょびしょになっちゃったので、1回わたしのお家に来てもらう方がいいと思いました)!」
すると、モニがブルートの頭上でシュビッと手を挙げた。たしかに、服が水を吸って気持ち悪い。グレイにとってはありがたい申し出だった。
「ふぉんふぉふぉん(そうなんですね。じゃあ、着替えたら来てください)」
ニッチェはニコ〜っと笑った。
「むっむー。むー、むぅむー(はーい。お2人とも、あっちですよー)」
モニは挙げた手で、建ち並ぶ家々のうち1軒を指差した。ブルートは眼で確認しながら、グレイと一緒にそちらを見た。モニが頭の上に乗っていると、頭を動かさずに眼だけで動きを見なければならない。手の短さもあって、ギリギリ視界に入るくらいなので、そこそこ面倒だ。だが、その手間もかわいかった。
「すみません。すぐにお伺いします」
グレイはペコッと頭を下げた。
「えー、ちょっとゆっくりしてこーよー! すぐなんてもったいないよー」
「そういうわけにもいかないでしょ」
ぐずるブルートを、グレイはたしなめた。なんだかペティの可愛さのあまり、ブルートの精神が子どもへ退行している感を覚えるグレイだった。
グレイたちはモニに案内されながら、里の中を歩き始めた。すると、他のペティたちも2人にてこてこ着いてきた。どうやら、グレイたちに興味津々のようだ。ブルートが、そんなペティたちに構うのにいちいち立ち止まったため、なかなか進めなかった。
結局、モニの家までは30メートルほどしかなかったが、辿り着くのに10分ほどかかった。
「むむぅ(ここです〜)」
2人が家の前に着くと、モニはブルートの頭上から跳び降りた。ブルートは『あぁっ!』と心配そうな悲鳴をあげたが、モニは難なく着地する。
「むむんむ(どうぞあがってください)」
モニは2人を振り返って自宅へと招いた。
「うんっ! お邪魔します!」
ブルートはウキウキでモニについていく。モニの家は高さが1メートルにも満たない程度で、グレイたちはなかなかキツい態勢まで屈まなければならなかった。
「お邪魔しまーす」
グレイは、ほぼしゃがんでいるような姿勢でモニの家に入った。中は3畳くらいで、グレイは少し手狭に感じたが、モニのサイズ感ならむしろ広そうだ。奥に食器や水の入ったバケツが並べられたラックが置かれており、キッチンのようなものと分かった。真ん中に食卓、左側の壁際にハシゴがあって、2階部分のハンモックへ昇れるようになっている。
「わぁ〜、かわいい〜っ」
ブルートは家にまで萌えているようだ。けれど、その気持ちはグレイにも少し分かった。家具や生活用品もペティたちのサイズ感に対応して、全体的にこじんまりしている。まるで、人形のおままごとのセットみたいだ。
「むーむむー、むむーむー(びしょ濡れのままだと風邪を引いちゃいます。服を貸しますので、着替えたら村長の家に行きましょう)」
モニはそう言うと、右手の衣装棚を開いた。中から、木の枝で出来たハンガーにかかった服を取り出し、2人に差し出す。
「むっむむー(どれにしますか)?」
それは、掌に収まりそうな大きさの服だった。人形の着せ替えか、あるいはペット用と同じくらいのサイズだ。
グレイは困った顔をして、ブルートの方を見た。彼女は現実的に自分が着ることではなく、服そのものの可愛さに頭がいっぱいのようだ。目を輝かせて、モニの衣装棚を見つめている。
「――モニ、それ着れないよ…………」
グレイは気まずそうに言った。モニの服を着て、パッツンパッツンな自分を想像すると、自然と苦笑が浮かび上がってきた。
かわいいやつらを描きたいという願望の化身となりつつ、話を展開して参ります。
次話は、それほどお時間を戴かずに更新できると思います。
乞うご期待。