02
「ご馳走様でした。」
僕は丁寧に手を合わせ、箸を置く。その様子を芽衣と彼女の母親がどこか嬉しそうに見ていた。
「おばさん嬉しいわぁ また北斗くんがご飯食べに来てくれるなんて!」
「いえ…今度からは自分で作るのでもう大じょ…」
「それよりも!…よく食べるようになったわねぇ…」
「うん!北ちゃん遠慮するためにあんな事言ったのかと思った!」
「は、はあ…」
これは断りづらい雰囲気だな…しかし、これでははやり荻原家に対して申し訳なさすぎる。
「北ちゃん!これからも食べに来てね!」
「いや…そんな…いくら何でもそれは悪いですよ…!」
「あっ!また遠慮!?そんなのいーのにぃ…」
芽衣は、そういって膨れるような態度を見せた。何だかかえって申し訳ないような気がしたが、それでも僕は譲らなかった。
「そんな僕ばっかが良くしてもらったら…」
「じゃあ…こうしましょう!」
芽衣の母親がニヤリと笑い、彼女の娘を指差した。
「…芽衣、この前のテスト…赤点スレスレだったわよね?」
「えっ、」
ぎくり、と言うように芽衣は固まってしまった…まさかこの展開は。
「それなら北斗くんはうちにご飯を食べにくる代わりに芽衣に勉強を教える!これで良いでしょう!?」
「やっぱりか…」
「え?」
「いや、なんでも…」
ここで断るのは多少気が引けるな…という事で僕は首を縦に動かさざるを得なかった。
「よかった!これなら食卓も明るくなるし、芽衣の成績も上がる!一石二鳥ね!!」
「わ、わーい…」
当の芽衣はイマイチ乗り気では無かったようだが。
さて、場面を芽衣の部屋に移す。
芽衣は机の上に教科書やらノートを広げ、うなだれていた。
芽衣の通っている学校は言っては悪いが僕の通う高校よりランクが下であったので、次回のテスト範囲は僕が既に終えた所らしかった。
「…にしてもそんな頭悪いのか?」
「ストレートに聞くねっ…まあこんな感じに…」
と、前回のテストの成績表を見せてきたので、恐る恐る目を移すと…
「…微妙だな。」
「ですよね…」
そんな目玉が飛び出るほど悪いというわけでもなく…
理系教科は赤点スレスレ、英語と社会は平均点より少し下、国語はまあまあといったところだ。全体的に言ったら中の下と下の上の間くらいか。
「全部赤点で学年ビリだったら、かえって伸び白があってよかったんだけどなあ…」
「ひどい!逆にひどいっ!!」
それにしてもどうすればいいものか…とりあえず理系教科の赤点だけは回避すればいいのか…
「じゃあ今日は数学を…とは言っても理系教科はそんな得意では無いんだけどな。」
「えっ!生徒会長だから全部学年1位なんじゃないの?」
「ひどい偏見だな。」
「…前のテストの数学の点数は?」
「97点だ。」
「あ゛ーーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?」
机に突っ伏してしまった芽衣を横目に僕は教科書をパラパラとめくる。
「…僕の中で数学100点以下は、かなーり悪い方なんだ。」
「うわー!出たよそれ!うわー!うわーだよ!!」
ちなみに前回の数学のテストの満点は150点である…という事は黙っておこう。
…一応教科書に書き込みやアンダーラインが引いてあるので授業を真面目に聞いてはいるようだ。
となると勉強法が悪いのか…?
「とりあえず…この問題を解いてみろよ。」
「はーい…」
芽衣は渋々と問題を解き始める…が、1、2問解き終えたとこでペンを置いてしまった。
「…?まだ問題が…」
「もう分かりません!」
…なるほど。
「お前…とりあえず赤点回避のために基本問題だけ覚えてハナから応用問題は捨ててるタイプだな?」
「え…あ…」
どうやら図星だったようだ。
でも基本問題は解けているようなので、まだ何とかなる…か…
「まずこの問題の解き方だけ教えるから見とけ。」
「は、はーい!」
僕は記憶を遡って、芽衣に応用問題の解き方を教えた。
これもある意味の勉強法になるようで、僕によっても有難かった。
「わかったか?」
「うーん…大体…じゃあ次の問題は?」
「え、と…」
これ…は…どうやら僕の苦手な分野に当たってしまったようだ。
「北ちゃん…?」
「えと…これは…ちょっとド忘れ…」
「あっ!うん分かるよっ!私もしょっちゅうあるよね!」
ここまでしどろもどろなのに何一つ疑いの目を芽衣は向けなかった。
ある意味恐ろしい奴だ。
「あっ、そうだ!好乃ちゃんは分かるかな?」
「え…?」
「だって北ちゃんと同じ学校でしょ?ならここ習ってる筈だし。」
「まあ確かにそうだけど…」
「なら写真撮ってメールに添付っと…」
現代は便利であった。
「あれっ?返信きたよ?」
えっ、早くないか!?!?!?
「この1分程度でメールに気付き問題を見て解いただと…」
「いや、違うよっ?こっち来るって!」
「は…?」
確か篠宮の家からここは自転車で20分ほどあった気がする。
…正直、小学校の時に行ったっきりだからイマイチ覚えていないが。
「あれっ…やっぱり好乃ちゃんと最近殆ど話してない?」
「うーんと…」
「そうだよね…男の子と女の子だもんね…話すまではあっても親しくしてなくても不思議じゃないか…」
その時、リビングから芽衣の母親の呼ぶ声がした。
それからすぐに部屋のドアが勢いよく開けられた。
「芽衣っ!」
その声の主は篠宮 好乃、北星学園の生徒会副会長、そして僕の所属する文芸部の副部長。
いわゆる、僕の「相棒」だった。