01
両親は十数年前、目の前でトラックに突き飛ばされて死んだ。
何故トラックは見事に僕を避けたのかは分からない。でもそのおかげで僕は今ここにいる。
「せい」ではなく「おかげ」と僕が言っているのは別に今の生活に不自由はしていないからである。
初めは勿論落ち込みはしたものの、母方の家族が面倒を見てくれたし、更に母方の家と前々から家族ぐるみで付き合いのあった隣に住む荻原家の援助、そして心強い兄の存在もあり、おかげで、今僕は北星学園の生徒会長を務めている。
現在、僕の家は僕の兄、更に兄の妻、そして兄の双子の子…甥と姪の5人で暮らしていて、かえって両親が居た頃よりは賑やかだ。
それでも両親が居た頃もその時はその時で、とても賑やかで楽しかったに違いない。
でも、正直その時の記憶が薄れてきてしまっているような気がしてならないのだ。
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「え…転勤?」
「ごめん…ごめんよ北斗…でもこればっかりは兄ちゃんどうしようもないんだ…」
「わかったわかったから…で、どこに?」
「海外だ。」
「海………」
兄の突然の転勤宣言に僕は凍りついた、また家族が離れ離れになるような気がして。
その予感は的中し、兄は妻を連れて海外へ、そして子どもたちを妻の家族へ預けるのだという。
子どもたちを連れて行かないのはやはり海外は危険だと判断したのか、かえって僕にとって生殺しになるような結果しか生まなかったのだが。
こうして僕はここで初めて一人ぼっちになった。
賑やかで狭く感じた我が家も今ではただ広く寂しい空間になってしまった。
「北ちゃん、」
北ちゃん…?なんだが久しぶりな響きだ。
「やあ、元気…そうじゃないね…」
突如視界に現れたどこか懐かしく感じる少女は荻原 芽衣、隣の家に住む同い年の少女だった。
一瞬僕は目を大きくしてしまったが、ふと。
「あれ、鍵開いて…」
「あれっ忘れたの?うち、この家の鍵が常備してあるんだよ?」
だからと言って勝手に使ってインターホンも何もなしに入っていいわけでは無い。
「久しぶりだねー…前はお兄さんと一緒に色々やってたけどね。」
「あぁ…」
よく兄と一緒に食事をご馳走になったり、休日に一緒に遊園地に行ったり…しかし兄が起業をし、経済的にも余裕が出来てきたので徐々に荻原家からの援助を断るようになってしまったのだ。
「お母さんから聞いた。北ちゃん、ここに一人で住むんだって?」
「…そうだよ。」
「また…頼ってくれたっていいんだよ?」
「別に…兄ちゃんが毎月仕送りをくれるみたいだし…」
「寂しく…ないの…?」
――――……………でも
「そう言ってられる年じゃないしな。」
「立派になったね…聞いたよ好乃ちゃんから…北ちゃん生徒会長なんだって?」
好乃ちゃん、篠宮 好乃。僕と芽衣の幼稚園からの幼馴染。
芽衣は今、別の学校に通っているが、僕と篠宮は同じ学校に通っているのだ。
「まあな…って、今も篠宮と連絡とってるのか。」
「うんっ、たまに遊んだりするよ。」
「ふうん…」
「興味無いなら聞かないでよ…」
「興味が無いわけじゃ…」
って…僕は久々に会った不法侵入者と何話し込んでるんだ。
何かきっかけを作ってここを切り上げなくては。
「そろそろ勉強しないと…」
「えっ…」
「えっ…って何だよ。」
「あの…お母さんが北ちゃんの分まで夜ごはん作ったから呼びに来いって…」
「…いいんだな?」
「へっ?」
「僕、昔と違って結構食うけど。」
「――――!うん…!!」
こうして僕は再び荻原家にお世話になる事になった。