逃亡とその終わり
というわけで二話目です。
クオリティは一話目と同じく低いですが、どうぞ!
二度あることは三度ある。
そんな誰でも比較的知ってるであろうことわざを、まさか自分の身で体験するとは。
ガン!と鉄を叩くような音で叩き起こされた燈静は、冷たい床に寝転がりながらふとそんな事を思った。
「……寝てたのに」
小さく欠伸を噛み殺しつつ、燈静はゆっくりと体を起こし、音の方向に体を向ける。
鉄を叩いたような音からして、やはりこの部屋の唯一の出口である扉からの音だった。
その証拠に扉についていた小さい窓から、いかにもな感じの顔をした男が燈静を見ていた。
「……何ですか」
起きたばっかということもあってか、燈静は不機嫌そうに男に話しかける。
だが、燈静の期待していたような答えは返って来ず、代わりに「出ろ」と短い声と、ガチャリと重苦しい鍵の開く音が返ってきた。
「とうとう、か」
これから起こるであろう事を思うと、燈静の中に形容できない感情が広がっていく。
諦めに似たようでそうでなくて。悲しみに似ているようで違って。
燈静自身、到底理解できないような感情だった。
「…………ふっ」
その感情が満ちていく中、燈静は一瞬だけ笑い、立ち上がる。
固い床で寝た影響なのか、痛む体を軽く解しながら鉄の扉を開ける。
そして、部屋から一歩出た途端、扉の横に控えていた二人の男のうち一人が燈静の手に手錠を流れるような動作で嵌めた。
その事に内心驚きつつも、燈静は表情には決して出さない。
表情に出せば、色々と決定的になってしまう気がしたからである。
そしてそのまま、手錠を嵌めた男が歩き出したので、燈静はゆっくりとその背中を追う。
勿論、その後ろからはもう一人控えていた男がついて来る。
随分と警戒されてるな。と燈静は思ったが、すぐに少し前に暴れた事を思い出し、この処遇に納得した。
一度前科があるなら、二度目は厳重になるのは当たり前である。
(特別待遇でありがたいですねー)
皮肉たっぷりに心の中だけで思い、燈静は歩き続ける。
そうしてる内に気付いたが、歩いている通路が比較的狭かった。更には、狭い通路の横には一定間隔で扉が配置されていた。
(……船か?)
数年前に乗った船の感じに似ていたので、すぐにそんな予想が浮かぶ。
もしそうなら、逃げるのには一苦労だな。と他人事のように燈静は思う。
実際には結構大型の船のなのだが、それを燈静が知るわけも無い。
そして、そのまま歩き続けて数分が経った。
結構な距離を歩いたはずなのだが、一向に目的地に着くような気配が無い事に、流石に燈静も気になった。
軽く首を傾げる。
この場所が途轍もなく広いのか、それともただ単純に迷っているだけなのか。
それは燈静にはわからない。だが、少なくとも迷っているわけじゃないのは二人の男が出している困惑したような雰囲気でわかった。
なら、何故か。それを考えようと、思考を働かせ始めた。
瞬間。
ビシビシビシッ!!と大きな音を立て、燈静のすぐ前の床に亀裂が走った。
「っ!?」
突如目の前で起こった出来事に、燈静は反射的に一歩飛び下がる。
その数秒にも満たない間にも、床に走った亀裂は壁を伝い、天井にまで亀裂は至った。
(まず…!)
その光景を見て、長年の間滅茶苦茶な出来事を経験してきた燈静の勘が大きく警鐘を鳴らした。
ここにいるな、すぐに逃げろ。と
その勘に従い、燈静は体を百八十度反転させ、走り出す。
その燈静を止めようと後ろを歩いていた男が手を出してきたが、燈静は屈むようにその手を避ける。
男を通り抜け、渾身の力で燈静は前に飛んだ。
その刹那、亀裂の入った所から今まで燈静がいた所まで、大きく穴が開いた。
「「な―――」」
運の悪い事に、その穴の範囲にいた男達は驚いた声を一瞬だけ上げ、すぐに消えるように落ちていった。
「……危なっ」
その一連の光景を見て、横に転がるような体勢の燈静は短い感想を漏らす。
その感想の通り、一瞬でも飛ぶのが遅れていたのなら男達と同じように穴に落ちていたのだろう。
そう考えると、冷たい何かが背中を伝った。
「ふー…」
安堵の息を漏らし、燈静は立ち上がる。そして恐る恐る穴を覗き込んでみる。
穴は数メートル先すら見えないほどに暗かった。これではどれくらい深いのかも予想できない。
「本当に危なかった…」
自分の勘に感謝しながら、穴に背を向け燈静はひとまず走り出す。
来た道を戻りながら、燈静はどうやって逃げるかを考え始める。
(まずは、ここが何なのかを確認する必要があるか…)
自分が捕まっていた所が、想像したような船なのかそれとも他の建物なのか、それをまずは把握しなければいけない。
もしも船なら、出口は限られているものの構造は結構似ている。最悪、甲板にさえ出られれば海に飛び込む事も可能だろう。
だが、建物だった場合は別になってくる。
建物なら、今いる場所が地下の可能性もあるし、普通に高層階の可能性もある。
その場合は、やはり構造を理解しなければならない。地下なら上へ上がり、高層階ならば下へ降りる必要がある故にだ。
と、そこで燈静は途轍もなく悲しい気持ちになった。
(……何でこんなに慣れた思考回路なんだろうなぁ…)
理由としては、今まで巻き込まれてきた事からの経験なのだが……流石にそんな事を経験してきた事自体が悲しいようであった。
(まぁ、何でもいいけどさ。ともかく、構造を把握することから始めないとね…)
地図、もしくは設計図の類があればいいんだけど…。と思いつつ、通路を少し速めの速度で走る。
その途中、ジャラ。という音が燈静の耳に聞こえた。
その聴こえた音の方向に視線を移し「あ」と短い声を出す。
(手錠の事忘れてた…)
「……先に鍵とか探さないと」
そんな風に最初の目的を定め、燈静は走るスピードを更に上げた。
* * *
「はっ、はっ、はっ!」
周りが暗闇に覆われたどこかで、燈静は息を荒げながら必死に走っていた。
その理由は、
「待てやぁ!!」「大人しく捕まれば、酷い目には合わさないでやるよ!!」
背後に聴こえる、日本語の怒声だった。
「二度目なんですね、やっぱり!!」
必死に走りながら、燈静は大声で叫ぶ。
こうなるまで、色々とあった。
あれから、約一時間が経過した。
あの後、燈静は目に付いた扉を手当たり次第に開け、手錠をどうにか外した。
勿論、穏便に鍵や針金で開けたわけではなく、無理矢理壊すように外したのである。
そして、その後はこの場所を把握しようと走り回っていたのだが…。
運悪く、黒いスーツに身を包んだ男三人に遭遇してしまった。
しかも、その三人は逃げ出した燈静を追っていたという理由つき。
勿論、燈静は全力で逃げ出した。が、男達はすぐに応援に呼び、燈静を追い詰めようと人海戦術を取ってきた。
それでも、燈静は物陰に隠れ、天井に張り付き、たまに殴る蹴るでどうにか切り抜けていった。
そして、内部を特に把握する事も無く出口を見つけ、外に出た。
そこまではまだよかった。そこから、今に至るまでが大変だった。
まず、外に出たと同時に広がった光景は、明らかに外国だと思わせるような光景だった。
石造りのような家の数々に、遠くにうっすらとだけ見える神殿のような建造物。
それは決して日本には無いであろう光景だった。
「……嘘」
目の前の光景が信じられなく、ポツリとそんな声が出た。
それと同時、燈静は自分の中にあったあることに気付いた。
「そっ、か…」
何故、ここまでショックを受けているのか。その理由。
「そう、だよ…」
前髪をぐしゃりと掴み、小さく溜息をつく。
「……おかしいと思ったら、そういう事か…」
自分を非難し、口を歪めて笑う。
燈静が、大きくショックを受けた理由。それは、今の光景にある。
いや,光景もあるが、正確にはその光景を見たときの燈静の心と言った方が正しいだろう。
この光景を見たとき、確かに燈静はショックを受けた。
だが、燈静は日常的に起こる出来事で、ショックには大分慣れている。
具体的に言うなら、何かショッキングな出来事が目の前で起きても、すぐに行動が出来るほどに。
その燈静がショックを受け、すぐに切り替えて行動を起こせないはずが無いのだ。
なら何故、燈静が大きくショックを受けていたのか。それは、とても簡単な理由である。
結論から先に言ってしまえば、燈静は逃げていたのだ。
このいきなり突きつけられた許容できない現実から、背を向けて逃げていた。
両親に捨てられ、その道の人たちに捕まり、そして、日本ではないどこかの国に連れて来られたという現実から。
まともに見てれば本当に壊れるであろう現実から、必死に目を背けた。
そして、壊れてない心を守る為に、わざと自分の壊れてない心を壊れたと思い込んだ。
そうする事で、心に受けるダメージを減らそうと。
だが、必死に逃げてきた現実は逃げた先にあった光景で目の前に突きつけられた。
目を逸らしてきた現実を準備もせずに突きつけられた燈静は、大きな傷を負った。
それも、色々と支障が出るレベルの傷を。
「ははは…」
その事を理解した燈静は、最早乾いた笑いしか漏らす事が出来なかった。
結局、あの後すぐに背後から大人数の男達が来てしまったので、特に何も考えずに燈静は暗闇に覆われた、見知らぬ町へ走りだした。
そうして、今に至る。
「はぁっ……はぁっ…」
大きく肩で息をしながら、燈静は壁に背中を預けていた。
追っ手の声が遠くの方から聞こえたのを確認し、燈静は息を整えるように大きく息を吐く。
(逃げ出してからどれだけ経ったかなぁ…)
体感では結構な時間を逃げているはずだが、未だに太陽が見えるような時間ではないようだった。
(いつまで逃げればいいんだろう…)
終わりの見えない逃亡劇。それはまだ高校生の燈静には余りにも酷な話だった。
もし、燈静が高校生では無く大学生か社会人ならまだ余裕はあったかもしれない。
しかし、そんなもしもに縋っていても仕方ない。
そんな風に燈静は自分を鼓舞し、壁から体重を戻し、限界の近い足で自分の体重を支える。
「はぁ、はぁ…」
ただ立ってるだけなのに、体は鉛のように重く、限界寸前の体は悲鳴をあげる。
(真面目に、やばい…)
体力は既に底をつきそうで、更に精神も限界が近い。
それでも燈静は、一歩を踏み出す。
逃げるために、捕まらない為に。そんな建前で一番の本心を隠しながら。
「…………」
荒い息を出来るだけ潜め、燈静は壁に張り付くように移動する。
その移動の仕方に特に意味は無いが、自然と体はそう動いた。
そして、曲がり角に差し掛かった時。
「おい、見つかったか?」
そんな声が曲がり角の先から聞こえてきた。
「!!」
当然、燈静の体は自然と強張る。
そんな燈静をよそに、二つの声は会話を続ける。
「いや、見つかってないようだぞ」
「そうか…。随分と逃げるな、商品は」
「仕方ないだろう。生死がかかってるんだ。そりゃ必死にもなるさ」
「そうか…。そういえば、アレって何なんだ?」
「アレ?……あぁ、船が最上階から最下階まで真っ二つに割れた事か?」
「そうそう。アレ何なんだ?」
「知るかよ…。というか、外から見ると結構綺麗に割れてるよな…」
「だな…。あそこまで綺麗に割れてると、かえって凄いと思えるぜ…」
「な…。しかも、原因不明ときたもんだからな」
「マジかよ…。……そういや、連絡来ないな」
「あぁ…。ちょっと前から、連絡が来てないな」
「だよな?何かあったのか?」
「さぁな。もしかしたら商品にでも倒されてるんじゃないか?」
「有り得ない話じゃないか…。いや、それとも侵入者の方か?」
「あー、そういえば侵入者いたな。そいつも騒ぎに乗じて外に出たのかもな」
「じゃないのか?正体自体不明だから、そいつらに倒されてる可能性も無いわけじゃないだろ」
「だな」
そこまで聞き、燈静はその場を離れた。
そして、出来るだけ足音を立てないように走りながら、今聞いた会話を思い出す。
(追っ手同士で連絡がついてない…?)
何ともそれは不思議だった。
人海戦術を取る以上、連絡は大事である。なのに、その連絡がつかないというのはおかしい。
(という事は……誰かが倒してるのかな?)
その誰かは二人の会話にも出てきた、侵入者という存在だろう。
一体誰かなのかは全く想像もつかないが、燈静には助かる存在だった。
燈静以外の標的がいるだけで、追う人数は分散されるし、侵入者という存在が追っ手を倒しているのなら、もしかしたら燈静の方の追っ手もついでに倒してくれるかもしれない。
そんな、自分に都合のいいように動くわけもないが、燈静はもしかしたらそうなるかもしれないと少しだけ考えていた。
(ま、希望論にも程があるけどさ)
自分の考えにツッコミを入れながら、燈静は路地を走る。
そして、また曲がり角が燈静の前方に見えた。
今度は声が聞こえる事も無かったので、特に足を止める事も無く燈静は曲がり角を勢いよく曲がる。
その時、視界の右端の方に金色の何かが見えた。
それが何かを判断する前に、ガツッ!!という音と、額のあたりに激痛が走り、目の裏に火花が散った。
「痛っ!?」
「痛え!?」
二つの同じような声が重なり、すぐに尻餅をつくような音がほぼ同時に路地に響いた。
「いたた…」
目の裏に散った火花に視界を焼かれ、視界が白く染まっている中、燈静の耳は「おぉぉぉぉ…!」という自分以外の男の声を確かに聞いた。
そして、視界が回復をしないままでも、体はすぐに動いた。
今の自分の置かれている状況を理解しての事なのか、それとも無意識にだったのか。
それはわからないが、燈静の体は何も見えない状態ですぐさま起き上がり、その場から大きく飛び下がる。
ザザッ。と靴底が擦れる音が耳に届く。それを聞くとほぼ同時に、視界が若干靄がかかった状態で見えるようになった。
そして、燈静はその声の人物を視界に入れた。
「――――――」
そして同時に、絶句した。
その男の姿に、喉が干上がったように渇き、言葉を発させてくれなかった。
燈静が見たのは、男。
肩までの長さの金髪に、碧い両の瞳。顔は世界中探したってほぼ同じレベルがいないほどに整っていて、同性である燈静ですら見とれてしまうほど綺麗だった。
しかし、燈静が真に絶句した理由はそれではない。
真に絶句した理由。それは、男が纏っている雰囲気だった。
地面に転び、情けなく目尻に涙を浮かべているにも拘らず、男は後光が差しているように神々しかった。
例えるなら、敬虔な教徒の目の前にいきなり崇拝する神が降り立った時に感じる神々しさのようなものだろう。
日本の傾向らしく無教徒である燈静ですら、男に対して神に対する祈りの一つでもしたくなるほど、男の持つ雰囲気は神々しかった。
そうして、燈静が絶句している間に男は燈静を見つけ、立ち上がってこちらに向かって歩いてきていた。
「っ…」
近づかれるごとに、心臓が握られるような感覚が強くなっていく。
そして、男が一メートルの間を保ち、立ち止まり。
「いやー、悪い悪い!ちょっと、いっぱいいっぱいで回り見えてなかったんだわ!あ、怪我とかしてないか?」
雰囲気には似つかわしくない態度で、とてもフランクに燈静に話しかけてきた。
「え、えっと…?」
想像もしてない態度と言動に困惑し、燈静は逃げるように顔を背ける。
それを見ても男は尚も燈静に詰め寄る。
「なぁなぁなぁ?大丈夫だよな?怪我してないよな?」
「だ、大丈夫ですから!何一つ怪我してませんから!!」
詰め寄る男の顔面を手で押し、一歩だけ後ろに下がって男との距離を取る。
男はどこかしょぼんとした表情をしていたが、神々しい雰囲気を持った人が近づくとなると、燈静としては落ち着かない。
例えそれが、自分と同じ男だとしてもだ。
だから、男の表情を見て心がチクリと痛んだが、仕方ない事だと自分に言い聞かせ心を落ち着かせる。
それからコホンと一つ咳払いし、目の前の男を改めて見やる。
親に怒られたようにしょぼんとした男は、落ち込んでいるにも拘らず神々しさは一切失われていなかった。
(こういう人いるんですね…)
その事に感心しながら、燈静は男の全身を見回す。
ついさっきまで尻餅をついていたので分かりづらかったが、身長は燈静より頭一つ高い。服装は簡素で、長袖のシャツにジーパンだった。
それらを含めて考えると、明らかに年は燈静よりも上なのだろうが、そこまで離れていないような感じがした。いうなら、青年という表現がしっくりくる。
「……………」
そう思うと、神々しさは消えてくれないが、先程よりは親しみやすい気がした。
「あのー…」
「ん?何だ?って、まさかどっか痛むのか!?」
「いや、痛みませんから距離を詰めないで!?」
つい数分前の光景がまた再現される。
結局、この後何回も同じような事が繰り返され、落ち着いたのは繰り返しが十回を越えたころだった。
「ひとまず、自己紹介でもしません…?」
「そうするか…」
息も絶え絶えに出された燈静の提案に、青年も疲れた声で答える。
「それじゃあ、言いだしっぺの僕からしましょうか。僕の名前は風峯燈静って言います。ここには……まぁ、色々とあって…」
最後の方を暗く呟いたので、青年は「お、おぉ…」と困った声を出していた。
落ち込んでいる燈静はそんな声に気付いてはいなかった。
そこに加え、行った後に暗い表情で暗く笑っていたので、青年がドン引きしていた事にも燈静は気付きはしなかった。
やがて燈静も笑うのを止め、今度は青年の自己紹介の番となった。
「俺はディオ=クーリエ。ま、色々あって追っ手から逃げてるわけさ」
燈静と違って、何も後ろに影が無いのか、ディオは屈託無く笑う。それを燈静は心から羨んだ。
「ま、見る限り燈静も逃げてるようじゃんか」
「まぁ…」
絶対に必死度が違う気がするけど…。と心の中で思いながら、一応相槌を打つ。
「という事は、ディオさんも逃げてるわけですよね?ディオさんは一体何から?」
「あー。何つーか……口うるさい奴から……ってとこか?」
「…?」
何故か疑問で言葉を締めたディオに疑問を持ったが、深く詮索する気にもならずそれ以上は何も言わなかった。
と、そこでディオが突然。
「まぁ、ここで会ったのも何かの縁ってところか。良かったら逃がすのに協力するぜ?」
「えっ!?」
そんな事を言い出したので、燈静は大声を出してしまった。
「ん?もしかして迷惑か?」
「い、いえそんなわけじゃないんですけど…」
燈静としては、むしろ助かるのだが…。
「……ディオさんに多大な迷惑がかかってしまいますし…」
会ったばかりの人を、危険な目に遭わすわけにも行かず、燈静は申し訳無さそうにディオの提案を断った。
「そうか…。俺は特に気にしないんだが…」
「僕は気にしますよ…」
「なら、俺は何も言えないな。ま、そんなら代わりに何かやるよ」
少し待ってな。とだけ燈静に言い、ディオは先程燈静とぶつかった曲がり角に消えた。
何を?と思う燈静が待つこと三十秒。
何かを後ろ手に持ったディオが曲がり角から出てきた。
「ふっふっふ…。いいもんをお前さんにやるぜ…」
(悪人っぽいよな…)
確実に失礼なことを考えながら、燈静は何を持っているのか覗こうと首を動かし、視線を後ろに移す。
その時。
つい数十秒前にディオが出てきた曲がり角から、二人の男が飛び出してきたのが見えた。
「っ!」
その事に驚き、燈静は目を見開く。
燈静がそうしてる間に、男達は懐に手を伸ばし―――その手に銃を持った。
(マズ―――っ!!)
そう思ったのと同時に、男達はこちらに向けて銃口を向ける。
それを理解した時、無意識に体が動いた。
目の前にいるディオを右手で押しのけ、庇うように前に躍り出る。
刹那、軽い発砲音が鼓膜を震わせた。
そこからの光景は、燈静にはスローモーションに見えた。
それぞれの銃から撃ちだされた銃弾が、燈静に向かって飛んでくるのが見えた。
狙いは、急所二つ。眉間に、心臓。どちらの弾も狙いは完璧に真ん中を捉えていた。
(あ)
死んだ。
それを人生で初めて燈静は確信した。
変えられない死。逃れられない現実。それを、目の前に突きつけられても驚くほどに燈静は冷静だった。
(そっか)
死に際の人間ってこんなに無力なんだ。そう悟った。
瞬間。
体の二つの位置に、穴が空いた感覚がした。
一つは体から。もう一つは頭から。
「―――――」
特に声も出せず、燈静は撃ち抜かれた衝撃からか、体が後ろに倒れていくのを感じた。
踏ん張ろうにも足が動かず、そのまま地面に鈍い音を立て、倒れる。
「―――ぁ」
そして、視界が薄暗くなり始めた。
(死ぬ、のか…)
ゆっくりと襲ってくる死の、わかりやすい宣告に燈静は納得し、力を抜いた。
全てを諦め、全てを受け入れようと。
「―――!!――――――!!」
誰かが叫んでいるのが聴こえたが、脳はそれを翻訳はしてくれなかった。
(何て言ってるんだろう…?)
そんな疑問を最後に持ち、燈静の視界が黒一色に染まった。
はい、というわけで二話連続更新でしたー。
本来は一話分だったんですけどね…。長いかと思って分割しました。ハイ。
まぁ、一週間づつちょくちょく書いてたのを複合しただけなので、下手したら繋がってないでしょうが…。その時は言ってください。すぐに直します。
という訳で今回はここで終了とします。
ではー!