創世物語〜忘却の彼方〜
『小説家になろう』中でははじめての恋愛以外の物語です。
短編小説で、気の向くままに書いた作品ですが楽しんでいただけると嬉しいです。
護りたいものを守れなかった時。
護りたいものを見つけた時。
そして大切なものを奪われそうになったその時に。
己の無力さを歎いた。
神でさえ憐れんだのか、はたまたただの気まぐれか。
大いなる力が少年の内から溢れ出した――。
「綺麗な街やなぁ〜」
眼下に広がる広大な街は、今まで訪れた中でも1番大きい。
このカスタリニア王国首都カスタリニア。
カスタリニア王家が住まう街であり、男――シルフェルダンが目指していた街でもある。
――ある男に会うために。
「さ、何処から捜すかな」
生来暢気で気ままな性格のシルフェルダン――長いので愛称であるシルと呼ぶことにしよう――は小高い丘となっているここから眼下を見下ろし、街に入るべく歩を進めた。
喰らう、喰らう、喰らう。
血を。
肉を。
恐怖を。
街の外にはそういった異形のものが数多く存在する。
街中にそれら異形のものが入って来れない理由はこの世界の成り立ちにあった。
この世界には6人の魔法使いがいた。
彼等の力は強大で、海を切ることも、嵐を操ることも、大地を揺らす事もできたという。
世界中に存在する異形のものに脅えて暮らす人々を哀れに思った彼等は世界中に散った。
そしてその大いなる力を行使してある地場をいくつも作った。
異形のもの達が立ち入ることの出来ない領域を。
人々は彼等に感謝し、その地場の中に街を作った。
だからこそ街には異形のものは立ち入ることが出来ない。
6人の魔法使いと6つの国。
それがこの世界に知られる創世の物語――。
「金髪の男?この辺りで金髪ていえば王家のカルタロス様ぐらいだろう。なぁ〜皆っ!」
酒場を取り仕切っているだろうマスターが常連であろう酒場の面々に投げ掛けると一斉に雄叫びが返ってくる。
その雰囲気の中で一人だけ浮かない顔をしている男――シン。
金髪の男に会いにわざわざ長い道程を歩いて来たのだ。
名前も知らないその男がこの街に来いといったから。
まさか王家の人間だなんて…。
この街にくれば会えるだろうという楽天的な考え方ではどうも埒があかないらしい。
「どうすっかなぁ〜」
王家というものがどんなものであるかという事は田舎人であるシルですら知っている。
いきなり尋ねて行った所で門前払いされるのが関の山だろう。
なにより男が自分を覚えている保証すらないのだ。
あの出来事だってもう6年も前なのだから。
「強行突破ってのも無理じゃないけど…でもなぁ〜」
自分に絶対の自信があるのか、シルの口からはそんな言葉が漏れる。
本当の所、例え強行突破を行ったとしても騒ぎにはならないだろう。
そう思えるだけの強大な力が彼にはあるのだから。
けれど呼び出したのがあちらであるというのに、そんな手間をかけるのには抵抗がある。
ここは正当に行くべきか――?
「おぃ、あんちゃん?」
「ん?わりぃ、考え事してた。なんだ?」
「その探し人に会って兄ちゃんは何がしたいんだ?」
「あ?別に何も。呼びだされんだよ。俺の方がな」
――その状況は散々なものであったが…な――という一言は胸中で囁いた。
「へぇ〜それが本当にカルタロス様だとしたら会ったのは6年ほど前かぃ?」
「そうだが…何故知っている?」
「警戒すんじゃない。俺は別に知ってるんじゃねぇよ。そう思っただけ」
「何故そう思う?」
「カルタロス様はお前が来るのを待っていたからさ」
「待つ…?」
「6年前街中に王家からのお触れが回った。『14の少年が自分に会うために都を訪れるから、失礼のないように』と。今年で6年経ってる。20ぐらいになってるだろうって事さ」
「それは今も有効なのか?」
「さぁ?わかんないけどな。行くんだろ?お前さんは」
「そうだな。一旦正面から行ってみるよ」
「今から行くんかい?」
「あぁ、善は急げって言うしな。行ってみるさ。お代ここに置いとくぜ」
「御武運を」
カランカランとカウベルの音がシルを見送る。
薄暗い中でもはっきりと浮き上がるカテラ城。
その姿を軽く目を細めて見るとシルは男に会うために歩き出した。
「よく来たね〜」
にこやかに笑う彼がシンの探し人。
一国の王子であり国一番の戦士。
窓から覗く太陽で金色の髪がキラキラと光っている。
――あの時のように――。
一面の朱。
時を刻むことを止めた街の中で。
自分を見下ろす馬上の人は言った。
『――首都に来い――』と。
冷たい声。
自分を見下ろす冷たい瞳。
それなのに――まるで汚れを知らないかのように金色に煌めく金の髪――。
忘れるわけがない。
彼は父や母の敵なのだから。
「……覚えてたんだな」
「そりゃね。君は僕等が望んだ闇だから」
彼が言う言葉の意味はわからない。
けれどシンは彼へと伸ばしていた右腕を下げる。
王子のその態度に死への恐怖は微塵も感じなかったから。
「――6年…か。長かったな。君が成長してきてくれて嬉しいよ。まさか門前からここまでこれほどた易くこれるとは…」
目を細めてシンを見るその様子は再会を懐かしんでいるかのようだ。
門前に来たシンは予想通り王子とたやすく面会させてもらえたわけではなかった。
出された条件は一つ。
力付くで王子のもとへと辿り着く事。
王城の中を駆け上がるでもよかったが、それをする気には到底なれず、城の中で王子がいそうな塔へと文字通り移動してきたのだ。
一度の移動で当人を見つけられたのは一重に運がよかったと言える。
見つけられた当人の態度が解せないが…。
「俺がどういった理由でここに来たかは承知してるはずだが…」
「復讐だろ?俺を殺しに」
「何故人を呼ばない?」
「必要がないからな。君が邪魔だと思うのであれば誰であれ止める事等出来ないだろう?死者は少ない方がいい」
王子は臆面もなくそういうと手を広げる。
「僕達は罰を受けるべきなんだ」
いつでも殺せばいいという現れであろう。
一国の王子にして最強と呼ばれる戦士が惜しげもなく命を投げ出そうとしている。
「何を躊躇う事がある?君はこの為にここに来たのだろう?」
「…何を考えている…?」
「君は創世の物語を知っているかい?この世界には6人の魔法使いがいた。彼等の力は強大で、海を切ることも、嵐を操ることも、大地を揺らす事もできたという。世界中に存在する異形のものに脅えて暮らす人々を哀れに思った彼等は世界中に散り、その大いなる力を行使していくつもの奇跡を起こした」
王子は唐突に誰もが小さい頃に耳にした物語を話し聞かせる。
目の前に暗殺がいることを気にかけもせずに…。
「――何を…」
「彼らはその後、その国を治める王族となった。これが世に知られる創世の物語」
「だからなんだ…?」
「いい話だよな。魔法使いが本当に6人であったならば…」
シンは王子に向けて右腕を向ける。
シンの腕が上がるごとに王子の足が地面から離れていく…。
「物語には…7人目の魔法使いがいたんだよ」
その状況でも、王子は話すことをやめなかった。
シンは王子の周辺の酸素量を極端に絞っていく…。
彼にしてみたらそんなことは造作もないことだ。
少しずつ、少しずつ呼吸が出来なくなっていく…。
真綿で首を絞めていくかのように…。
それでも。
王子はしゃべり続けた。
「7人目の魔法使いはその身を大地に捧げた。荒れ狂う異形の者達をその身に封印する為に…。けれど…世界はいつか彼…を忘れ…、…大…地に染…みた力は薄れ…た。…彼は…目覚めようとしている…。恩恵を忘れた世界に牙を剥くために…。…君は…」
現在彼の周りの酸素濃度は極端に薄い。
顔は蒼白になり、体にも力が入らなくなっている。
それでも。
最後の力を振り絞るかのように…彼は伝える。
「…人…目の…祝福を……受け…た――たっ…た…ひとりの…子…――」
それを最後に王子は事切れる。
ダラリとたれた手足をゆっくりと地面に横たえる。
その顔は…笑っていた。
この世に悔いはないというかのように…。
この日から。
シンを取り巻く世界は変貌を遂げる――。
けれどそれは、また別のお話。
いかがでしたでしょうか?
【創世物語〜忘却の彼方〜】
あまり深く考えず作った話ではありますが、色々と伏線は引けたのかもしれません。
が。
続きを書くつもりは今の所はありません(゜×゜*)プッ
それぞれ短編で断片的にというのはするかもしれませんが…(気分と要望によるかなw)
続きが読みたいという方なんていましたら、どうぞリクエストお願いしますw
感想もお待ちしています!
では、またいつかお会いする日まで(@^^)/