怪しげな露店商
更新速度が何とか戻ってきた……
side:神月
「いらっしゃい……」
俺が露店の前に立ち止まった直後、出店者の男が小さく言った。
見た感じ、俺とあまり変わらないであろう歳だが、頭一つ分大きい身長。鈍い銀色の上着と使い古された感のある黒と白の作業ズボン。頭には革帽子を目深に被り、街中にはそぐわない長靴型の橙色をした安全靴を履いている。
服装に統一性は皆無だな……俺も人のこと言えないが。
売っている物は、黒と白の運動靴に茶色と緑の唐傘、小さな剣の飾りが付いた首飾り、西洋人形、黒いリボン、伊達らしき眼鏡、何かの苗木が植えられた植木鉢、年代物の懐中時計、白い羽の付いた羽ペン、奇妙な形をした鍵と錠前、革手袋など。古今東西、和洋折衷な品々が店に乱雑に並べられている。その全てに大なり小なり魔力を帯びている。
「何か気になる物があるのかい?」
男はどこか含みを入れて言った。
その声色何かに絶望したような声だった。
「すみません買い物に来たわけじゃないんです、連れを探していまして。えぇと、橙色に似た茶色の髪をしていて、俺より頭一つ小さい女の子がこっちに来ませんでしたか?」
ココロの特徴を男に伝える。
「こっちには来てないよ、ここの道はY字になってるから反対側に行ったんじゃないかな」
少しぶっきらぼうに答えた男。
声色はさっきと変わらない。
「ありがとうございます、また後で来ます」
そういって俺はその場から立ち去ろうとした。魔力を帯びたものばかりで色々と気になるが、今はココロを探すほうが先決だ。
「待ちなよ。少し見て行ったら如何だい?」
「っ!?」
男の言った言葉が俺の耳を経て脳を直接揺さぶる。
かなり低い音程の声が、何かを指示する。
嗚呼、何かを忘れていく……。
共に此処に来たのは?
……だめだ、思い出せない……。
此処に来た理由は何だったか……。
それすら思い出す事ができない。
※
何かを忘れた気がする、思い出そうにも出て来ない。
まぁ、いいか。そのうち思い出せる。
そんなことより、今は気になることがある。
「この品々は何処で手に入れたんですか? いわく付の物もあると思うのですが」
僅かに見えている口に笑みを浮かべ、男は答える。
「おっと……君は見える人かい。俺の目もまだ曇ってはないといったところか。どうやって集めたかと言われれば、自分の足を使って直接目利きして譲ってもらったり、買い取ったとしか言えないかな。あと敬語は不要だよ、苦手そうだ」
「そう……か」
嘘は言ってないように感じる。しかし何故か信用はできなかった。
もっとも、目的の物、強力な武具を売ってもらえればかまわない。
売り物の中で目的に合う物を探し、吟味する。
「…………」
「…………」
しばし、無言が俺と男の間を支配する。
こちらも喋らないし、男も喋らない。
あれだけ雑踏が聞こえてうるさかったのに、何故か今は耳に入らなかった。
「……君が探しているような物は出していないよ」
無言に耐えられなくなったのか、それとも話す時期を探っていたのか分からないが、男は言葉を発した。
ん?
ちょっとまて、男と言葉を交わしたのは最初のやり取りだけで、それ以降は無言だった。
なのに何故、俺が思っていたことが分かった。
読心術でも持ってるのか?
確認してみるか。
俺が探している物、それは。
「天を叩き堕とすモノなんて出しとけるわけないだろ? 危険だし、見回りが来た時に出店禁止をくらう」
これで確定した、この男は心を読む術を持っている。
が、今は些細なことだ、俺にとって重要なのはそんなことではない。
男は「出しておけるわけがない」と言った。
「あるのか、ソレは」
「もう少し寄れよ、見せてやるからさ」
俺は言われた通り、露店に少しより腰を下ろす。
人の流れは気にしなくても良い程に円を描き、露店を取り囲むように無くなっていた。
男は俺が腰を下ろしたのを確認すると、後方から軽銀製の箱型鞄を出し、俺の前に置いた。
鞄には『封印』の魔術がかかっている。
近くに出されて初めて微弱な魔力に気付けるかどうかな程厳重にかけられている。
この中に入っているモノはどれだけ強力なんだ……。
……心が躍る。
だが、この『封印』は『魔界』を含む、『裏世界』の技術だ、普通の人間が使えるモノじゃない。
やはり、この男は信用出来ない。
「……利害関係の一致さ。露店にはそもそも信用何なんて言葉は無い。有るのは損得勘定と虚栄心ぐらいだと俺は思ってる」
また読まれた。
迂闊な事を考えないようにしよう。
絶対に。
「開けるぞ」
『封印』の魔術を物ともせず、男は鍵を開けた。
side:龍崎 fin
来週から学校が始まります。
行きたくないと思う反面、教官に会いたいと思う自分もいる不思議。




