第四話 生徒会長
side 坂原
──
「初日から遅刻するとは良い根性してるな、お前。」
まさか登校初日から遅刻して来る奴がいるとはな。
「まあまあ。そうカリカリすんなって、おっさん。」
それにおっさんだと!?俺はまだ20代だ!ってそんなことはどうでもいい。こんなやつには一回キツく言っとかねえと、このままじゃいつまでも調子に乗るからな…。
「…おっさんじゃない、坂原先生と呼べ。」
これで素直に言うこと聞いてくれりゃありがたいんだけどな…。
「ところで俺の席ってどこ?」
だめだこいつ…。完璧に舐めてやがるな。
「お前…。」
「ん?」
「遅刻してきてる分際でどの口がそんなふざけた事抜かしてんだ?」
「え?この口だけど?」
この野郎…。
生徒が調子に乗りやがって…。先公が黙ってると思ったら大間違いだぞ…。
「…生徒だからって調子に乗ってたらどうなるか教えてやるよ。」
こいつには痛い目見せといたほうが良さそうだな…。
「やめとけっておっさん、怪我するぞ。」
訳の分かんねえこと言いやがって。
「はっ、お前みたいなガキには鉄拳制裁ってのが一番なんだよ…。」
鉄拳制裁とか言いつつ俺の憂さ晴らしに殴るんだけどな。まぁこれからは先公の言うことはよく聞くんだな、っと。
「はぁ。これは退学も考えねえとな…。」
──なんだこいつ急に雰囲気が…。ッッ!!強化!
〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!
な、んだ?こいつは…。強化使ってこのダメージだと…!?
………だめだ…思ってたより…………意識が……
sideout
(なんだ今の感触は…?)
正当防衛(?)により担任の坂原を文字通り殴り飛ばした零は、殴る瞬間に感じた違和感について考えていた…。
(急に堅くなったような…それに結構力入れたつもりが壁に人型作っただけだったし…。)
と、零が常識はずれな事に悩んでいると今まで静まり返っていた生徒達がが一斉にざわめき出した。
──「なんだあいつ!?」「殴って壁にめり込ませるとか…。」「あれって噂の零じゃないのか!?」「ほんとか!?」「あいつ魔術使えたっけ!?確か魔力『0』だよな…?」「何?実は魔術使えたとか?」「いや魔力がなきゃ魔術は絶対に使えないって…。」「もしかしたら魔力があったのかも…。」「それはない。検査の時のあの水晶はどんな微量の魔力も計測できるって先生が言ってたし…。」「…じゃあまさか強化もなしに人を殴り飛ばしたの…!?」「嘘!?」「マジかよ!?」「でも…。」「!ちょっとまって…それじゃあ…。」
「ば…化け物だ……!!」
誰が言ったのか…。教室で溢れかえっていた喧騒は一瞬の内に悲鳴に変わった…。生徒達は皆我先にと後ろのドアから廊下へ逃げていく…。
(なんだ?あいつら…?)
当の本人である零は何が起こったのか理解していないようであった…。
「とりあえずこのおっさんをどうにかしねえとな。」
少し離れたところに倒れて気を失っている坂原を見て心の中で面倒臭いと呟く。
「おーい、おっさーん生きてるかー?」
ペチペチと頬を叩く。
「おーい。」
叩く。
「…。」
また叩く。さらに叩く。そして叩く、叩く、叩く、叩く………
「…駄目だ、殺っちまった…。」
「ってそんなわけあるかい!思いっきり普通に気ぃ失ってるだけや。…えらいことしよってからに…。」
突然、背中越しからボケた零に誰かのツッコミの声が。
「ん?なんだお前?」
「ワイか?ワイはこの学校の生徒会長やっとる華道一進。よろしくな。」
このアリエス国立魔術学校の生徒至上、最強で最大の潜在魔力9900000にして魔力7000000。その二つ名「魔人」で恐れられている華道一進その人だった。
「神田 零だ、よろしく。」
挨拶を返すと一進は何かを思い出したようだ。
「ほお、あんたが噂の零さんやったんか。」
(またそれか…。)「そうみたいだな。」
「ん〜、まぁあんまりええ二つ名やないみたいやし、あんたの事は神田って呼ばせてもらうわ。」
「…分かった。」(危ねえ…また殺っちまうとこだったぜ。)
思っていた返答じゃなくて良かった、と零は内心ほっと胸を撫で下ろす。
「…でや、神田は魔力『0』やったんちゃうんか?」
「ああ。残念ながらな。」
すると一進は驚いたように目を見開く。
「じゃあ、強化はしてないんか?」
「えんちゃんと…?なんだそりゃ?」
聞き覚えのない言葉に首をかしげる。
「神田…お前強化も知らんのか…。あのな、強化ってゆうんは─」
一進の魔術解説およそ5分ほど…。
「─ってわけや。分かったか?」
「…なんとなくなら分かったが会長、あんた説明下手すぎだろ。」
「要するにパワーアップってやつや。」
(最初からそういえよ…。)
ほとんど意味の分からなかった解説(一進の解説が下手すぎる)の意味はなんだったのか。
(ってそうか。だから一瞬で堅くなったのか…。)
零は最初の違和感についてやっと理解することができた。
「ってそんなことよりおっさんどうすんだよ。」
「あ、忘れとったわ。とりあえずほっとこか。」
「…いいのか?」
「全然OK!…それにそろそろ風紀委員長が来るころやしな。」
「アイツ?」
そういうとほぼ同時に廊下の向こうから誰かの声がしてきた。
「どうする?会長。」
そういうと一進は得意げな顔で
「なんもせえへんよ。」
「は?」
一進のまさかの言葉に零は驚く。
「まあ任しとき。これでもワイは生徒会長やで。」
これでもかと言うほど自信満々に答える一進に零は一抹の不安を抱えるのだった。
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