第二話 魔術使えないのに学校って…。
「…ふぅ。」
魔力検査を終えた零は周りから向けられる奇異の視線から逃れるように男子寮の自室に戻ってきていた。部屋割りは入学式の内に決められたらしく魔力検査が終わると自室の番号を教えてもらった。…忘れていたがこの学校は全寮制で学年と男女によって寮が分かれている。
「魔力『0』か…。」
先ほどいわれた言葉を反芻する。普通に生活して魔術から無縁の人でも潜在魔力は存在する。しかし自分には存在しない。欠片ほども…。そして、魔力が存在しないということは魔術を使えないということである。
「せっかく魔術ってのを使えると思ったのに。」
魔術に興味津々であった零からすれば此処はただの「全寮制の学校」に成り下がってしまった。
零は手に持った書類(魔力検査が終わってすぐにもらった。)に目を通す。
────魔力検査:結果通知書────
神田 零
魔力:「0」 潜在魔力:「0」
この結果によりあなたは─D─クラスとなります。
──────────────────
「やっぱ─D─か。…まぁ『0』でもこの学校にいれるだけありがたいな。」
(食堂は全部無料らしいし。…っとそういえば昼飯がまだだったな。)
魔力云々は置いといて、とりあえず零は食堂に向かうことにした。
…。
「………………。」
馬鹿だった、それが零が食堂に来て思ったことだった。
何故なら先の魔力検査による結果はもう周知の事実らしく、零は周りから珍しい動物でも見るような視線や影口などが聞こえてくる。
(さっさと飯食うか。)
零は少しイラついた様子で頼んでいた定食をかきこむとさっさと食堂を後にしたのだった。
…。
(さてこの後はどうしようか…。)
入学式の後は自由時間らしく皆それぞれ学校の施設を見て回っている。二〜四年生は休みで授業はないが生徒会や部活動をしている二〜四年生はいるらしい。ちなみに彼らの目的は新入生の勧誘である。
(とりあえずどっかで昼寝でもするか…。)
しかし、部活にも生徒会にも興味がない零からすればこの自由時間は絶好の昼寝タイムであった。
日は沈みあたりに夜の帳が下りてきた頃─
─屋上
結局屋上で今まで寝続けていた零は腹が空いたので夕食を食べに食堂に行こうと思ったが、昼の事思い出し購買でパンなどを買って(無料)部屋で食べることにした。
…。
「おーい。」
購買で適当にパンを選び部屋に戻ろうとドアの前まで来た零に声がかけられる。
「…何だ?」
見たところ零と同じくらいの年の男子で髪は茶色に染めている。
「あんた此処の部屋だろ?」
「そうだな。」
「俺は天井翔。隣同士これから仲良くやってこうぜ。」
男は零の部屋の隣のようだ。
(隣ってことは一年か…。)
「俺は神田 零だ。よろしくな。」
「お、あんたが噂の零だったのか。」
「零?」
「神田 零、アイリス国立魔術学校創立以来、初の異例。魔力『0』の異端児。名前の零と魔力の『0』をかけて零。誰が決めたか知らねえけど、あんたの二つ名らしいぜ。」
と、翔と名乗った男は苦笑しながら説明する。
──二つ名
魔術学校の学生たちが学生個人につけるあだ名のようなもの。
二つ名がつけられてるのはおもに三〜四年生が多い。相手を評価する意味をもつものから見下すものや侮辱するものまで多々ある。
もちろん零には侮蔑の意味が込められている。
「ふーん。…そりゃよかったな。」
「え?」
翔は自分の想像していた返答とはあまりにかけ離れていたので思わず驚きの声を上げる。
「別に周りには勝手に言わしとけばいいんだよ。」
どうでもいい、というように零は翔に見向きもせず自室へと入っていく。
「良かった、なかなか面白そうな奴で。隣がうっとうしい奴だったらどうしようかと思ったぜ。…なにより退屈しないで済みそうだし…。」
天井翔は一人笑みを浮かべながら廊下を歩いていった。
一方、部屋に戻って食事を終えた零はというと…
「さて、明日から普通の授業だな…ってよく考えたら俺って勉強する意味なくね?」
こうして夜は更けていく──
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