表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

まだ言えない。

作者: 水瀬 りま
掲載日:2026/04/12

大宮駅の新幹線ホーム。

いまだにここにくると思い出す。

夜の誰もいない待合室の半透明の壁に問いかける。

君はどこに行ったのだろうか?

当時の記憶を辿ってもわからない。

言わなかったのだ。どこに行くか。

最後の日も「またね」としか言えなかった。

どこに行くのかも知らないくせに

また戻ってくると勝手に思ってた。


9歳の夏、まだ転校が決まってなかった頃を思い出す。

近所の公園に行って。

田んぼの道を歩いて。

そして...

たまに、いや結構学校でも思い出して辛くなる。

一回別れた直後に泣き出して

「辛かったと思うけど頑張って」

と言われた。何を頑張れというんだ。

忘れることを頑張れと?

辛い、未だに。言ったら軽くなるだろうと思うが

5年前のことを引きずっていると言う勇気は私にはない。


そんなことを考えているうちに私は夢の中に引き摺り

込まれる。待合室で寝るのは少し躊躇われるかもしれないが

抵抗しない。したくない。なぜなら...

「ね〜ね〜、あそこの山冒険しようよ!」

夢の中でなら会えるからだ。明晰夢である。

でも私は。

「うん!やろやろ!」と小学生のような言動をする

そして私は夢の中の杏奈に

「まだそこにいて」と無意識に言葉に出かける。

その言葉を飲み込む。あの時、すごく後悔したから。


「私、転校するの。」杏奈の口から出た時、私は反射的に

「やだ。一緒にいて」そう言ってしまった。

杏奈は静かに涙を流していた。

その時風鈴がチリンと音を立てていた。

私は事の重大さを理解して「ごめん」そう謝った。

杏奈は転校が決まっても私と遊んでいる時は

転校のことなど忘れて、楽しく遊んでいた。

その杏奈の逃げ場を転校の話をすることで

壊したくなかったのだ。

そうしてどこに行くか訊く機会を逃して、今日に至る。


杏奈の影が遠くへ行く、山の方に走って行ったようだ。

そして、杏奈の影が水に反射しているかのように揺れる。

視界がぼやける。風景が崩れていく。もう時間なようだ。

目を開けると最終の新幹線が止まっている。

どうやら新幹線の音で目が覚めたようだ。

月に一回。ここへ来てはあのような明晰夢を見るために

ここへ来ている。

チリン

風鈴の音が聞こえた気がする。

あの時、言えたら。

今も、時々遊んでいたのかな?

また、半透明の壁に問いかけた。



もう新幹線が発車するようだ。

あの中にはきっと誰かと別れる人がいるのだろう。

月が風鈴のように綺麗な円を描いていた。

杏奈がまだそこにいるようで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ