力なき正義は無力
こうして、ボクの問いに業政が答えてくれることになったのだが、果たして何を聞いたら良いものか・・・?
ええと、ボクは現実の世の中があまりに嫌というか、人生無理ゲーということで何も考えずに令和の時代から逃げ出した訳なんだけど・・・。
うーん、戦国時代に来る前に条件やら契約内容を色々聞いておくべきだったとか、チートを要求すれば良かったのかなー、なんて考えが頭をよぎったのだが、もう魂をポチに封印されてしまったわけだから、そんなことを聞いたところで意味は無いなあ。
ということで、単純に分からないことを業政たちに質問することにした。
「何を目的に、ボクを戦国時代に転移させたんですか?ボクが失敗して刀で刺され、ポチに封印されるのを見てあざ笑うというのは、悪趣味すぎやしませんか」
「あー、それな。わしの神としての仕事は、未来の人間を過去に転移させて、その影響で地球の未来がどう変化するのか実験することじゃ。人ひとりを過去に飛ばすと、その時点で本来の歴史の流れとは異なる時間軸が発生するから、できるだけ多くの未来人を過去に飛ばして複数の時間軸を創り出して、何をすればどう未来が変化するのか明らかにするのがわしの目的といえるな。ただ、過去より異世界に転移したがる奴が多くて、数を確保するのに難儀しておるぞ。ちなみに、わしは上州担当で、各国の偉人が各々の出身地で神としてこの仕事に携わっているのは言うまでもない」
「もちろん、父上一人で何十~何百もの時間軸を管理するのは困難なので、わたしのような若輩者でも神の助手として取り立てられているのですよ」
業政と吉業はそう答えるが、おっさんの疑問は益々膨らんだ。まあ、希望者が少ないから自分が戦国時代に転移させられたというのは分かったのだが・・・。
「なんで、そんな面倒くさい実験をしているんですか。その実験結果を、何に生かすんですか?」
「ふむ、おぬしがそう思うのも無理はない。まあ、それに答える前に一つ質問しよう。おぬしが生きていた時代は、世界中で戦争や内戦が頻発しているのに人口は急増(2025年時点で85億3200万人)し、地球環境は破壊されまくっておったな。このまま何の対策も取らなければ、人類や地球の未来はどうなると思う?」
「人口は令和の時代より数十億人増えてその後減少すると思いますけど、その前に地球環境が破壊しつくされて地球上の人間を養えるだけの食糧生産ができなくなり、崩壊する国家が激増するんじゃないですかね。戦争・内戦の激化と難民の大量発生が地球環境の破壊を促進するので、世界人口は予測より早く減少し、動植物の多くが絶滅するかもしれませんね・・・。もしかして、地球が崩壊すると困る上級神なりが存在するんですか?」
「まあ、概ね正解だ。わしら下級神の上に地球・太陽系・銀河系を担当する上級神がおるのだが、自身の管轄下にある惑星を崩壊させると上級神が懲戒処分を受けることになるから、わしら下級神がそうならないように色々と実験しているわけじゃよ。まあ、人類が諸悪の根源という結論が出れば、さらに上位の存在である最上級神が人類だけ排除するという決定を下すかもしれんが、それは下級神たちの本意ではない。わしは、この実験を通じて人類の滅亡回避と地球環境問題を解決する道を見つけたいと思っておる。ついでに、大名家としての箕輪長野家も存続できれば最高だがな」
「業政様、最初からそれを言ってくれれば、ボクは喜んで貴殿に協力しましたよ。つまり、ボクの使命は地球の崩壊を食い止めることで、そのために今まで学んできたことをこの時代で生かせ、ということなのですね!」
「ふん、小僧の分際でやけに自信満々な物言いではないか。試しに、どうすれば人類の滅亡を回避し地球環境問題を解決できるのか、おぬしの考えを述べてみよ」
「そんなの簡単なことですよ。人類が環境侵害を少なくすれば良いだけじゃないですか?同時に宇宙開発も進めておけば、仮に地球環境問題の解決に失敗したとしても問題ないっすよ。人間は宇宙に避難して、地球には一切手出しをせず放っておけば良いのです。地球自身の持つ再生力は凄いらしいですからね(人間が20年ほど手を加えない状態を保てれば、熱帯林は原生状態の約78%まで回復できるそうです。参考文献:『気候変動がヤバい!異常気象の教科書』斎藤勝裕著、2025)」
「ふーん、それでどのようにして人類に環境侵害を止めさせるつもりじゃ?85億人を避難させる場所など、地球外のどこにあるというのか?そもそも、数百人規模ですら地球外に輸送するのは困難であろう」
「そこは、神の力でパパーッとやっちゃえば良いんじゃないですか?」
「ほう、神の力ね・・・。ふん、そんな都合の良い力などあるかー!!」
業政は激怒した。
「お前の言ったことは、『言うは易く行うは難し』の典型例だ。人類の環境侵害を少なくさせるだと!一度良い暮らしを覚えた人間は、滅亡するその時まで生活水準を落とすことなどせぬわ。それに、全人類の環境侵害を低下させるには、世界征服でもせぬ限り不可能じゃ。仮に、地球が一つの国家に統一されて全人類に生活水準の低下を強いることが可能になったとしても、そんなことをすれば反乱が頻発して、結局地球環境は破壊されるであろうな。できるだけ費用をかけずに宇宙進出するというのも、令和の技術力では難しそうじゃ」
「それでも・・・、宇宙開発を進めなければ人類はいずれ詰むんじゃないですか?地球環境を維持しつつ、省エネで捻り出した資源を用いて人類は宇宙進出するしかないのでは・・・」
「わしが求めているのは、具体的な道筋じゃ。お前は、問題点を知っていながら何の行動もせず、時間を無駄遣いしていただけであろう。やったことといえば、電気通信網上で不平不満を垂れ流していただけだ。所詮、力を持っておらぬのだから、社会の歯車として言われたことだけやっておれば良かったのじゃ」
「くっ、結局『力なき正義は無力』ということなのか?凡人がくそ真面目に働いたところで稼ぎは知れているし、賭けに勝利して大金なり権力を手にしないと、ボク自身の望む世の中は創れないというのかー」
「まあ、そういうことだな。弱い奴は強者の言うことを聞いておれば良いのだ。それが嫌なら強くなるしかないが、お前には一世一代の賭けに出る度胸などあるまい。なにしろ、お前には成功体験がないからな。とりあえず、ポチや雛鶴たちと協力して、武田信玄相手に長野家が有利な状況を創り出してみせよ。そして、自分が単なる数あわせでないことを行動でわしに示すのだ。あまり期待しておらぬが、少しぐらいわしの役に立ってみせよ」
そう言い残すと、業政と吉業はおっさんの前から姿を消すのだった。
いくら口で大義を唱えても、力なき者の意見など無視されるということか。
だったらやってやるさ。
成功体験を積んで自信をつけて、仲間を増やすなどして力を手にして、いずれ業政の方から『どうか協力して下さい』と言わせてやろうじゃないか。
※おまけのコーナー~ここが変だよ地球温暖化~
えー、今回環境問題について多少触れてみたけれど、著者的には『地球は確実に温暖化』しているけれど、『温暖化は人間の排出する温室効果ガスが原因で、二酸化炭素の排出量を削減すれば問題は解決する』という説明や『地球温暖化への懐疑論』については不満を持っているのですよ。地球温暖化の原因を温室効果ガスの増加によるものと断言してしまうと、物事が単純化しすぎる気がするし、地球温暖化懐疑論に反論するには、気象学・気候学に関する専門知識が必要だからね。
とりあえず自分が強調したいのは、『地球環境を人類が制御するのは不可能なので、化石燃料の大量消費や地球環境の破壊は止めた方が良い』ということであろうか。多分、気候変動は不可逆的で、地球を元の状態に戻すには、長い年月地球を放っておく必要があるからだ(もちろん、人類が完全に手を引いた状態で)。
以下、解説。
『地球が温暖化』している件については、日本の暑かった年トップ10を調べるのが簡単だと思う。
例えば、『地球温暖化の仕組み』(2008)によると、以下のような結果となっている。
1位:熊谷市 40.9度(2007/8/16)
1位:多治見市 40.9度(2007/8/16)
3位:山形市 40.8度(1933/7/25)
4位:かつらぎ町 40.6度(1994/8/8)
4位:浜松市 40.6度(1994/8/4)
6位:越谷市 40.4度(2007/8/16)
6位:甲府市 40.4度(2004/7/21)
8位:館林市 40.3度(2007/8/16)
8位:高崎市 40.3度(1998/7/4)
8位:愛西市 40.3度(1994/8/5)
一方、2026年2月28日時点の気象庁ホームページでは、こうなっている。
1位:伊勢崎市 41.8度(2025/8/5)
2位:静岡市 41.4度(2025/8/6)
2位:鳩山町 41.4度(2025/8/5)
4位:桐生市 41.2度(2025/8/5)
4位:丹波市柏原 41.2度(2025/7/30)
6位:浜松市 41.1度(2020/8/17)
6位:熊谷市 41.1度(2018/7/23)
8位:前橋市 41.0度(2025/8/5)
8位:佐野市 41.0度(2024/7/29)
8位:美濃市 41.0度(2018/8/8)
8位:下呂市金山 41.0度(2018/8/6)
8位:四万十市江川崎41.0度(2013/8/12)
74年間にわたり日本一暑かった山形市が、ついにトップ10から消えてしまいました。本来、日本の最高気温はフェーン現象でも起きない限り40度を超えなかったのに、今では真夏の太平洋側で普通に41度を超えている。ということは、単純に海洋性熱帯気団(小笠原気団)が暑くなっていると言えるのではないか。
次に、『温室効果ガスによって地球が温暖化』している件については、間違っていないと思うけれど、この表現では地球が(北極・南極でも温帯でも熱帯でも)一定の速さで一律に暑くなっていると勘違いしてしまうかも知れない。やはり、地球温暖化をきちんと知りたいなら、気象学の基礎から入って、真鍋淑郎先生のGCM論文ぐらい読んで欲しいと思うなあ。
とりあえず、『①日本の気温は覆われる気団によって決まる』、『②海流の変化で地球規模の異常気象が起こる(例:エルニーニョーSouthern Oscillation)』、『③同じ気象条件を与えても、取り得る気候モード(例:温暖期や氷期)は複数あり得る』、『④気候変動の原因となる要因の変化があるしきい値を超えると、モードジャンプが起こり得る』ことぐらいは覚えておいて欲しい。
例えば、日本でいくら温暖化が進もうが、夏にオホーツク海気団に覆われれば寒くなる(冷夏)し、海洋性気団は海流の変化で大きく動くこともあるのです(例:PNAパターン)。すると、ある地域で異常気象(猛暑・冷夏・暖冬・寒冬)が発生しても、全球平均気温は例年と変わりなしということもありうるわけだ(例:中世温暖期や江戸時代の小氷期でも、全球平均気温は0.4度程度の差しかない)。ある地域でたまたま寒い夏が数年続いたからといって、地球温暖化が嘘だと言うこともできない。
とにかく、自分が一番危惧しているのは『④のモードジャンプ』かな。
人類が100億人を突破した状況で地球上の気候がいきなり変化した場合、世界中で食糧が不足して数億人の難民が発生し、その難民が先進国への移動を開始したら・・・。あとは考えたくもないなあ。
参考文献
『気候変動がヤバい!異常気象の教科書』斎藤勝裕著、(株)カンゼン、2025
『地球温暖化の仕組み』寺門和夫著、ナツメ社、2008
『気候変動を理学する』多田隆治著、みすず書房、2013
『気象学入門』釜堀弘隆・河村隆一著、講談社、2018
『文明崩壊』ジャレド・ダイアモンド著、草思社、2005
気象庁ホームページ




