プロローグ
登場人物
ポチ:雛鶴姫の飼い犬。ご主人様である雛鶴姫を幸せにするため、おっさんと一緒に東奔西走する。
おっさん:大学院まで行って歴史を学んだが、就職活動に失敗したため40歳を過ぎても実家で親に寄生している子ども部屋おじさん。とある理由で戦国時代に転移するが、あっという間に殺されて、その魂はポチの中に封じられる。
長野雛鶴:長野信濃守業政とその継室お福の娘で、ポチの飼い主。長野家のために人生を捧げるつもりだが、何をすればよいか分からない状態。温泉が大好き。
長野右京進氏業:長野信濃守業政とその継室お福の息子で、雛鶴の実兄。姉妹が大勢いて、とても可愛がられている。一見貴公子然としているが、内心は打たれ弱い。婚約者に藤鶴姫がいる。
加藤段蔵:元風魔党の抜け忍だが、現在は長野家所属の忍びとして氏業や雛鶴の護衛をしている。
上泉伊勢守秀綱:新陰流の創始者にして剣聖。上州の一本鎗として世間にその名が鳴り響いている。
長野業親:氏業と雛鶴の弟。庶子であることに劣等感を抱いている。
長野信濃守業政:永禄4年6月21日に71歳で病没し、上州(群馬県)の守護神となった。異名に上州の黄斑(群馬県の虎)がある。
長野吉業:業政の嫡男であったが、川越合戦で戦死した。享年16歳。
ボクは、歴史の真実とロマンを探求するため、わざわざ大学院まで行って歴史を学んだ男だ。
だが、就職活動に失敗したため、無職のまま中年のおっさんになってしまったぜ。
全く、太るわハゲるわ持病の心臓病は悪化するわでますます就職は遠のいたが、別に良いのさ。
就職できないのは、超高学歴で頭脳優秀なボクを使いこなせない社会とか就職氷河期世代としてこの世にボクを産み落とした親が悪いわけであってボクのせいじゃないし、心臓病も遺伝だからな。
心臓病のせいで運動ができないから、痩せることも身体を鍛えることもできない。
遺伝は全て親のせいだから、親の金で生活するのは当然だろ?そうそう、親には子を作ったという製造物責任があるわけだよ。
てなわけで、ボクは今日も実家の自分の部屋に籠もって歴史小説やマンガを読んだり、某戦国シミュレーションゲームで遊んだりして過ごしていたのさ。
昔から、わざと弱小大名を選択して天下統一したりしていたけど、最近お勧めなのは上野国(群馬県高崎市箕郷町)の長野家かな。最初から越後の上杉家に従属していて金や食糧をふんだくられるし、武力が90以上ある長野業政はすぐ寿命で死んじゃうし、武田と北条に同時に攻められたら一瞬で滅びるからね。でも、上杉に従属したまま長野氏業(業政嫡男)で全国統一するのが面白いんだよな。
なんてことをしていたら、ゲームだけじゃ満足できなくなって長野家生き残り計画についてまとめた歴史小説も書いてしまったよ。名付けて、「真・箕輪軍記」なんてね。
とりあえず印刷して、誤字脱字をチェックして・・・。
よーし、ネットに投稿してやるぜ。おりゃっ。
・・・・・・・・
全然反応ないじゃん。
がーん・・・。
世の中に絶望した。
アクセス数0だから反応もなにもありゃしない。
これじゃあ、売れっ子小説家になって印税がっぽがっぽで優雅な生活を送る計画が台無しじゃないか。
あーあ、やっぱ現代社会はクソだわ。
もし、ボクが戦国時代に転生して長野家に仕えたら、現代知識で無双して長野氏業を征夷大将軍にしてやるのに。
ボクは、金銀財宝・領地・官位を貰って美少女ハーレムを作るのさ。
長野家の姫を娶って姻戚関係になっておけば、ボクの藩が取り潰されることも無くなるかな。
なーんてね・・・。
『ほう、おぬしの知識があれば長野家が滅亡を回避するだけでなく、氏業が征夷大将軍になることもできるのか?』
『父上、この「真・箕輪軍記」に書かれている歴史年表だけでも、かなりの価値がありますぞ』
おのれ、何奴。
『わしは、長野信濃守業政。死して上州の守護神となった御霊じゃ』
『わたしは、河越合戦(1546年)で戦死した長野右衛門大輔吉業。長野信濃守業政の長男で、今は父上の補佐をしております』
で、長野家のお二方はボクに何のようですか。
『さっき、おぬしは自信満々に言っていたではないか。「ボクが戦国時代に転生したら、現代知識で無双して氏業を征夷大将軍にしてやる」とな。だから、わしが死んだ永禄4年6月21日の数日後におぬしを送ってやろう。あと、長野の姫を娶るとも言っておったな。わしには雛鶴という17歳の娘がおるのだが、本当に長野家のために尽くして成果を出すのであれば、結婚を許してやらんでもない』
『わたしが出陣前に見た、あの赤子のことですか。どのように育ちましたか』
『わしが言うのも何だが、実に美しく育ったぞ・・・』
はい、戦国時代に行きます。
業政様、吉業様よろしくお願いします。
『おお、そうか。それでは、これからおぬしを永禄4年6月の箕輪城に送るとしよう。目を閉じよ。おぬしが目を開いた時、目の前に居るのが雛鶴じゃ」
やったぜ、これでクソみたいな現代社会とはおさらばさ。
そして、ボクは目を閉じた。これからは素敵な人生が待っている、そう信じて。
『父上、想像以上の馬鹿ですね。このような平和な時代に生を受けておきながら不平・不満を垂れ流す究極の屑野郎が、戦国の世で生きられるはずないでしょう』
『あんな醜い容姿でおなごに好かれると思っているなど、笑いが止まらぬのう。まあ、あの馬鹿が暴走する可能性も考えて、一応対策も練っておくとするか。雛鶴にはポチという飼い犬が居るのだが・・・。こんなのはどうだ』
『そうしたら、わたしはこんな感じで対応しましょう』
『所詮、わしらは死人。氏業に情報を渡すぐらいしか現世に介入できぬが、問題は氏業がどれだけ情報を活用できるかだな。氏業は、武芸も学問も一通りはこなすが、したたかさやあくどさが無いからのう。まあ、事が済んだらわしらはあの世から上野国を見守るとして、時を経て氏業もあの世に来たら、三人で昔語りでもしようかの』
『その時に良き話ができたら、これに勝る喜びはありませんな』




