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魔法科学の最終定理 ―科学で戦う理系少女の異世界備忘録―  作者: 武者小路団丸


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死刑台へ導く声

波打ち際で、方位磁針が狂ったように回転し続けていた。

 明里は息を殺しながら、茂みの奥から海岸を覗く。



 ――いた。



 黒い残滓の中から這い出てきた黒甲冑が、ゆっくりと陸へ上がる。


 濡れた砂を踏みしめる音が、やけに大きく聞こえた。


 黒甲冑が低く詠唱すると、その手の中に何かが浮かび上がった。


 分厚く、古びた装丁の本だった。


 表紙には、見覚えのある紋章が刻まれている。

 黒甲冑は、海岸を見回すように首を動かし、低い声で言った。


「……明里。近くにいるんだろう?」


 兜の奥の闇が、こちらを“見ている”気がした。


「おまえのお目当ての本――これだろ?」


 黒甲冑は、本を持ち上げた。


「《創生の術式》の書だ」


 明里の胸が、どくんと鳴った。


(……あれ……!)


 探していた答え。

 世界の成り立ち――全部に関わる“核心”。


 黒甲冑は、あえて見せつけるように本を掲げたまま、ゆっくりと歩き出す。

 海岸線から、森のほうへ。

 煉とポルックスが、明里の方を見る。


「……明らかに罠だよな」


「行ったら終わりのやつだ」


 煉が低く言った。

 明里は、唇を噛んだ。


「……でも……あれを取り返さないと……」


 視線が、本から離れない。


「これ……最後のチャンスかもしれない」


 沈黙。


 波の音だけが、やけにうるさい。

 ポルックスが、苦い顔で言った。


「……行くなら、逃げ道は確保しよう。何かあったら――すぐ撤退」


 煉も、頷いた。


「深追いはしない。命優先だ」


 明里は、小さく頷いた。


「……うん」


 三人は、黒甲冑の後を追った。


 ◆



 もう夕暮れに差し掛かってきた。


煉の背中を先頭に、ポルックス、明里が続いた。


 黒甲冑の足跡は、濡れた砂浜にはっきり残っていた。



 重たい鎧の跡。

 一直線に、森へ向かっている。


鬱蒼とした森は、風も通らず、湿った匂いだけが漂っていた。


奥に進むと鳥が鳴きながら飛び立っていった。


足跡は、まっすぐ森の中へ続いていた。

……いた。

……いた。

そして――



「……消えてる」

 

「……あれ?」


 煉が、立ち止まる。

 途中で――足跡が、途切れている。

 まるで、そこから先だけ、最初から誰も通っていなかったみたいに。



兜の奥から、低い声が漏れた。

「明里。お前が一歩、一歩近づくたびに――

死刑台に登ってるんだよ」




「……明里、これ……」


 明里の背筋に、冷たいものが走った。


「……ヤバい」


 ポルックスが、息を飲む。


「……誘い込まれたな」


 三人は、周囲を見渡した。

 だが――黒甲冑の気配は、どこにもない。

 静かすぎる。――生き物の気配が、何ひとつない。


 野生の勘なのか、狩られる側の防衛本能なのか、

 ここにいたら殺られる。

 明里は、そう確信した。


「……下がろう」


 一歩、引こうとした――その瞬間だった。

 ぐに、と。

 足裏の感触が、おかしい。

 冷たい空気が、地面から這い上がってくる。


 ――しまった。


 追い詰めたつもりで、

 自分から、檻に入っていた。


 野生動物が獲物を仕留めるための行動。

 ――止め足。


 地面に、薄く刻まれていた黒い文様が、

 今になって、はっきり浮かび上がる。

 闇の奥から、低い笑い声。


「……もう遅い」

 

明里の目の前に――

 “上”から、黒い兜が音もなく落ちてきた。


上から降ってきた黒甲冑が、着地の勢いそのままに拳を叩きつけた



その刹那だった。


明里は一瞬、死を思った。

逃げ場はない。受ければ――折れる。


正面から、見えない“拳”が叩きつけられた。

拳が空気を裂いた。

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