高周波のポンポン船
無人島脱出のため、朝早く起きた。
わたしは風の向きと波の高さと海岸を一回りしてきた。
薄曇りだけど波は穏やかなので、なんとか脱出は出来そう。
昨夜は、数少ない荷物をまとめて確認し、早めに眠ることにした。
ポルックスは寝付けなったのか遅く起きてきた。
眠たそうに、まぶたをこすりながら
「なんとか脱出、出来そう?」
煉はエンジンとなり、この島から脱出するために張り切っている。
煉はわたしたちを見渡しながら
「俺が君たちを導いてやるさ」
いっぱしの船長気取りに、わたしとポルックスは顔を見合わせて笑った。
船は改めて見ると安定感があって頼もしく見えた。
煉が中央に陣取り、炎の魔法使うために集中した。
受け皿に火が立ちのぼり、缶が熱くなってきたのか、微かな音がし始めた。
しばらくすると「…ポン …ポン」
心地よいリズムがしてきた。
わたしたちは乗り込み、無人島を――振り返らずに、無言で見送った。
青い海を掻き分け、だいぶ沖まで進んできた。
入り江の出口が、近づいてきた。
でも同時に――
外海からの波が、逆流するように入り込んでくる。
白い水の壁。
双胴艇は、ぐっと減速した。
「……押し返されてる」
ポルックスが、息をのむ。
ポン……ポン……という音が、頼りなく聞こえる。
明里は、すぐに状況を理解した。
「このままじゃ、出られない」
煉が歯を食いしばる。
「……火、足りねえか」
明里は首を振った。
「違う。
“速さ”じゃなくて、“リズム”が足りない」
一瞬で頭の中を組み替える。
「煉、加熱を“断続”にして。
ポルックス、冷却を“刻め”。
火と氷で――呼吸を作る」
ふたりが同時に動いた。
煉の下皿に、火魔法が走る。
一気に温度が跳ね上がる。
❄
次の瞬間、ポルックスの氷魔法が缶の側面を包む。
蒸気が、膨らんで――押す。
冷えて――縮んで、吸う。
ポン……ポン……
その音が、変わる。
ポン、ポン、ポン……
ポンポンポンポン――
「……回ってる」
明里が叫ぶ。
「もっと刻んで!
波の周期より――速く!」
火と氷が、交互に走る。
ポン……ポン……は、もう聞こえない。
代わりに――
ギィィィィン……ッ!!
金属が唸るような高音。
水面が、後ろに“押し潰される”。
双胴艇の下で、白い泡が一直線に伸びた。
「……いける」
煉が、火の制御をさらに詰める。
「右、出力二割アップ!」
ポルックスが即座に冷却を合わせる。
「左、冷却短縮!」
バランスが揃う。
その瞬間――
正面から来た波に、双胴艇が突っ込んだ。
ぐっ……と、船体が持ち上がる。
でも――戻らない。
波に“負けない”。
むしろ――
押し返している。
水の壁が、左右に割れた。
「出るぞ!!」
煉が叫ぶ。
ギィィィィン……ッ!!
双胴艇は、入り江の縁を越えた。
視界が一気に、開ける。
――外海。
広く、深く、荒い海。
でも、もう止まらない。
明里は、風を切る感覚に、息を呑んだ。
「……理屈は、やっぱり嘘つかない」
煉が、笑う。
「……魔法もな」
ポルックスが、空を見上げる。
「……生きて、出られた」
双胴艇は、ポンポン船の鼓動を高周波に変えながら――
二度と戻れない海へと、滑り出していった。




