呼吸する双胴艇
砂浜に、双胴船が横たわっていた。
二本の丸太が、縄で結ばれ、板で繋がれている。
それはもう、ただの木の塊じゃなかった。
――彼らが、ここから出ていくための「舟」だった。
明里は、左右に並んだ二つの缶を指さした。
「一基だけだとね、力が“片側”に寄るの」
煉が眉をひそめる。
「……だから傾くってことか?」
「そう。双胴艇は“左右で支える”構造だから、
推進力も左右から同じだけ出さないと、真っ直ぐ進まない」
ポルックスが缶を覗き込む。
「じゃあ……二つ必要なのか」
明里はうなずいた。
「うん。二基なら、
右が止まっても左が動く。
片方が弱くなっても、もう片方で姿勢を保てる」
砂に描いた舟の絵に、二つの噴出口を描き足す。
「“安定”ってね、速さより大事なの」
煉は腕を組んだまま、しばらく考えて――
ふっと、息を吐いた。
「……なるほどな」
それから、少し照れたように言う。
「じゃあ俺は、火で動かす役じゃなくて――
“壊れないように守る役”ってことか」
明里は、少しだけ笑った。
「うん。
煉は“操縦士”。
ポルックスは“目”。
わたしは――設計士」
三人の視線が、双胴艇に集まる。
ポン……ポン……と、缶が小さく鳴った。
煉は、その音を聞きながら言った。
「……悪くねえ。
この舟、ちゃんと“チーム”で動いてる感じがする」
左右の船尾に、ポンポン缶はひとつずつ。
煉は、中央の板の上にしゃがみこみ、
両手で火の位置を調整していた。下皿には、煉の火魔法が――獣みたいに暴れながらも、煉の意思でぎりぎり抑え込まれて燃えていた。
「……右、強すぎるな」
少しだけ右の火を引く。
同時に、左の熾火を寄せる。
ポン……ポン……ポン……
音が、そろった。
まるで、舟が呼吸を始めたみたいに。
その瞬間、双胴艇は――
ぶれることなく、まっすぐ進み始めた。
三人の胸に、同時に灯る。
(……いける)
「……舵、いらねえな」
煉が、低くつぶやく。
明里は思わず笑った。
「でしょ?
推進と操縦、同時制御。
それが――“双胴×ポンポン”の完成形」
無人島脱出。
その言葉が、はじめて現実味を帯びた。




