証明:科学は裏切らない
明里は、砂浜に落ちていた空き缶をひとつ拾い上げた。
「ポンポン船、知ってる?」
煉とポルックスが顔を見合わせる。
「……なに、それ」
とポルックス。
明里は、砂の上にしゃがみこんで、缶の底を指で叩いた。
「火で温めた水が、
蒸気になって膨らんで――押して、
冷えて縮んで――また吸って、
それを勝手に繰り返す仕組み」
指で、リズムを刻む。
「ポン……ポン……ってね」
煉が目を細める。
「……勝手に、動くってことか?」
「うん。動力なし。
火と水と、管があればいい」
明里は立ち上がって、二人を見た。
「双胴艇の後ろに、
これを二基つける」
「押す力を、波任せじゃなくて――
“こっちで作る”の」
ポルックスが、思わず声を漏らす。
「……そんなの、作れるのか?」
明里は、少しだけ胸を張った。
「作るの。
だってもう、原理は――分かってるから」
砂浜に描かれた双胴艇の後部に、
小さな噴出口が二つ、増えた。
砂浜に、即席の作業場ができた。
拾ってきた空き缶。
細く割いた金属片。
焚き火の火種と、縄と、ナイフ。
明里は、缶をひっくり返して底に小さな穴を開けた。
「ここに、水を入れて……」
次に、細く丸めた金属を管の形にして、缶の内側へ通す。
「蒸気が出る道。
押して、引いて――勝手に呼吸するところ」
ポルックスが、恐る恐る聞いた。
「……それで、本当に動くのか?」
明里は、少しだけ笑った。
「理屈の上ではね。
あとは……現実が、協力してくれるかどうか」
缶の中に水を注ぎ、後ろ向きに管を伸ばす。
それを、双胴艇の後部に縄で固定した。
二基。
左右に、ぴたりと並ぶ。
「火、入れるよ」
煉が焚き火の熾火を持ってきて、缶の下へ置いた。
……しばらく、何も起きない。
波の音だけ。
風が、帆を叩く音もない。
三人とも、息をしているのが分かるくらい静かだった。
ポルックスが、不安そうに言った。
「……失敗、か?」
その瞬間。
「……ポン」
小さな音がした。
「……え?」
「……ポン……ポン……」
缶の中から、リズムみたいな音が生まれる。
ポン……ポン……ポン……
次の瞬間――
双胴艇の後ろの水面が、ぷつ、ぷつっと弾けた。
そして。
ゆっくり。
本当に、ゆっくりだけど――
舟が、前へ進んだ。
「……動いた」
ポルックスが、声を失った。
煉も、目を見開いている。
ポン……ポン……ポン……
音に合わせて、水が後ろへ押し出される。
そのたびに、舟が、少しずつ、確実に前へ進む。
明里は、しばらく黙って見つめていた。
それから、ぎゅっと拳を握った。
「……やっぱり」
声が、震える。
「理屈は……嘘つかない」
双胴艇は、波に揺れながらも、ひっくり返らず、
ポンポンと音を立てながら、前へ、前へ進んでいった。
煉は、しばらく黙って舟を見ていた。
それから、ぽつりと――
「……お前、天才かよ」
明里は、照れたように、でも誇らしそうに笑った。
「理系ですから」




