表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第1章 旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/78

第8話 砂漠の三竦み

 ギルドで仕事の依頼いらい砂漠さばく奥地おくちにある小さな集落しゅうらくへ、貴重きちょうな水を送り届けるというものだった。依頼内容は単純だが、灼熱しゃくねつの太陽が容赦ようしゃなくギラギラ照りつける広大こうだいな砂漠を横断おうだんする道のりは、決して楽ではない。


砂粒の間に、かすかに光を反射はんしゃする無数むすうの小さな欠片かけらが埋もれていた。透き通るような輝きを放つそれらは、まるで星屑ほしくずが地面に散りばめられたかのようだ。


わたしは足元に視線を落とし、その欠片をそっと拾い上げた。手のひらで転がる冷たいクリスタルビーストの欠片は、不思議なエネルギーをめているように、かすかに震えている。触れた瞬間しゅんかん、わずかな振動しんどうが伝わり、まるで何かが目覚めようとしているかのような錯覚さっかくにとらわれた。

(クリスタルビーストの欠片がなぜここに?)

疑問ぎもんを持ちつつポケットに仕舞った。


「この砂漠は本当に過酷かこくね。足元から熱気ねっきが伝わってくるわ。でも、この水が届いたら、きっとみんな喜んでくれるはずよ」


「ったく、こんな暑いところで水運びかよ。魔法で一気に運べねえのか?」


わたしは汗をぬぐいながら、少し苛立ったように言葉を続ける。


「魔法で水を生成せいせいするにも限界げんかいがあるし、効率こうりつも悪いわ」


灼熱の太陽から身を守るため、二人は現地げんちの商人が着るような薄手のトーブを身につけ、ユラユラと陽炎かげろうが立ち昇る足元を焼く砂漠を黙々《もくもく》と歩いていた。遠くに見える蜃気楼しんきろうが揺らめき、地平線ちへいせんは熱で歪んで見える。どこまでも続く砂の海は、その雄大な景色とは裏腹うらはらに、生命の気配が希薄きはくで、どこか不気味ぶきみな静けさをまとっている。


その時、後方こうほうから微かな地鳴りのような振動が伝わってきた。最初は錯覚かと思ったが、その振動は徐々《じょじょ》に、そして確実かくじつに大きくなっていく。砂煙すなけむりが空高く舞い上がり、それがこちらへと猛スピードで近づいてくるのが見えた。


「……何かが来るわ! しかも、かなりの数よ! 馬のひづめの音……リザードマン!?」


砂煙の中から姿を現したのは、屈強くっきょうな緑色の肌の集団だった。彼らは、砂漠の馬を引き連れたリザードマンたちだ。鎧姿に背中には盾を載せている。その中に、以前いぜん、前王宮前で遭遇そうぐうした、あの威圧的いあつてきなリザードマンの旅団長りょだんちょうらしき姿が見えた。彼の鋭い眼光がんこうが、明里たちを射抜く。


リザードマン旅団長レックス

「貴様ら! この地で何をしている!? 以前、王宮前で出会ったな! 我らの砂漠に、何の用だ!」


わたしは反射的はんしゃてきに身構えた。煉も、腰の剣に手をかけ、臨戦態勢りんせんたいせいに入る。二重三重にリザードマンたちが馬を操り、わたしたちを取り囲む。その馬の蹄が砂地を叩く音が、威嚇いかくするように響き渡り、砂埃すなぼこりが舞い上がった。


「わたしたちはギルドの依頼で、この先の集落に水を届けに来ただけよ! 争うつもりはないわ!」


リザードマン旅団長レックス

「嘘をつけ! 人間が我らの砂漠に、易々《やすやす》と立ち入ることを許すわけにはいかん!」


リザードマンたちが一斉いっせいに槍を構え、襲いかかろうとした、その瞬間だった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


地面が、まるで生きているかのように大きく波打ち、リザードマンたちの足元が崩れ落ちた。砂が巨大きょだいうずを巻き、彼らを飲み込もうとする。


「な、なんだ!?」


リザードマン旅団長レックスが叫ぶ間もなく、彼の乗っていた馬が、そして周囲のリザードマン数体すうたいが、悲鳴ひめいを上げる間もなく砂の中に吸い込まれるように消えていった。


「うわああああっ!」


「地面が……地面が俺たちを食ってるぞ!」


リザードマンたちは、突如とつじょ現れた見えない脅威きょういにパニックを起こし、隊列たいれつが乱れる。外側の砂が大きく盛り上がり、その下には、何か巨大なものがうごめいているのがはっきりと分かった。

それは、「砂漠の巨顎きょがく」に似た、地中ちちゅうを潜むモンスターの気配だった。頭の先端せんたんが割れ、粘液ねんえきを出し、鋸刃のこぎりばのような鋭い歯でリザードマン兵たちを呑み込んでいる。


「リザードマンも、このモンスターの存在そんざいは知らなかったのかしら……?」


「リザードマンが食われてるぞ! 俺たち、どうするんだ!?」


リザードマンたちは、わたしたちへの警戒けいかいを忘れ、突如現れた見えない脅威に恐怖きょうふし、我を忘れてバラバラに逃げ出した。


リザードマン旅団長

「落ち着け! 動くな! 振動に反応はんのうするぞ!」


旅団長の声は、逃げ惑うリザードマンたちには届かない。四方八方しほうはっぽうに逃げるリザードマンたちの足音で、地中モンスターを刺激しげきしているようだった。逃げ惑うリザードマンたちのあとを、三匹さんびきのワームが追っていることを確認かくにんした。


わたしは隣にいる煉を見た。煉は今にも逃げ出しそうな、恐怖に引き攣った顔をしていたが、わたしが首を振り、煉を引き止めた。彼の瞳には、わたしへの信頼しんらいと、この場を乗り切ろうとする覚悟かくごが宿っていた。


その時、煉の足元、わずか数メートル先の砂が、まるで沸騰ふっとうしたかのように盛り上がった。額から冷たい汗が伝う。いつも賑やかな彼の顔が青ざめ、恐怖が見て取れた。彼の全身ぜんしん硬直こうちょくし、呼吸こきゅうすら忘れているようだった。


ゴゴゴ……


音を立てながら、盛り上がった砂の中から、巨大なミミズのような生物せいぶつが、その頭部とうぶを突き出した。それは、紛れもなく「砂漠の巨顎」だった。


わたしは、思わず口の前で人差し指を立て、「シッー」と静かにするように煉に合図あいずを送った。煉は、息をすることすら忘れ、硬直している。


リザードマン旅団長レックスも、馬から降りて、この状況じょうきょうにようやく気がついたようだった。彼の顔には、先ほどまでの余裕よゆうはなく、驚愕きょうがくと焦りの色が浮かんでいた。しかし、すでに彼の兵の何人なんにんが逃げ切れたのかは分からない。


広大な砂漠の中で、わたしと煉は、巨大な地中モンスターと、混乱こんらんするリザードマン旅団長、絶体絶命ぜったいぜつめいの三すくみの状況に、たった二人で取り残されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ