80話 推進力を作る少女
わたしは、草を蹴って走り出した。
胸の奥が、熱い。
頭の中では、もう舟の形が組み上がっている。
丸太が二本。
縄で結んで。
その上に、渡す板。
人は――真ん中。
「いける、いける……!」
足が勝手に速くなる。
息が切れても、止まれなかった。
森を抜けると、砂浜が見えた。
煉とポルックスの姿も、すぐに目に入る。
「煉! ポルックス!!」
ふたりが振り向いた。
わたしは止まらず、そのまま距離を詰めて、息も整えないまま叫ぶ。
「一本だからダメだったんだよ!
だから傾く! 沈む!
重さが逃げ場なく、全部“ひとつ”に集まるから!」
ふたりは、何も言わない。
「でもね、二本なら違う!
丸太を二本、平行に並べて、左右で支えるの!
重さは分かれる、接地面は広がる、揺れてもすぐに戻る!」
言葉が、止まらない。
「……てんとう虫みたいに!
丸くて低くて、力が来ても“転ばない”構造!
一本の舟じゃなくて――双胴にするの!」
ポルックスが口を開きかけたけど、声は出なかった。
煉も、眉をひそめたまま動かない。
「丸太はある、縄もある、板もある!
今の条件なら、できる! 理屈は通ってる!」
一歩、踏み込む。
「だから――もう一回、やらせて!」
沈黙。
波の音だけが、間に流れた。
煉は、しばらく黙ってわたしを見てから、
低い声で、ぽつりと言った。
「……落ち着け、明里」
その瞬間――
わたしは、気づいたら煉に抱きついていた。
自分でも意味が分からない。
ただ、止まれなかった。
「落ち着くとか……無理だよ……!」
声が、震える。
そのまま、隣にいたポルックスの腕を――
ぎゅっと、握りしめていた。
「明里……?」
ポルックスの声が揺れる。
でも、放せなかった。
自分でも驚くほど、指に力が入っている。
「分かったんだよ……ちゃんと、答えが」
息が荒くなる。
心臓が、耳の奥でうるさい。
「今度こそ、沈まない形が……!」
わたしは、ポルックスの腕を掴んだまま、
煉をまっすぐ見た。
止まれない。
もう、止まりたくなかった。
煉が、少し視線をそらしながら言った。
「……り、理屈は分かった。
でもよ、明里も体験したろ。
波に押し返されないか?」
明里は一瞬だけ瞬きをしてから――
ふっと、楽しそうに笑った。
「うん。だから――」
そう言って、砂浜にしゃがみこみ、
指でぐいっと線を引く。
「“進む力”を、こっちで作るの」
顔を上げて、にやっとする。
「推進力を増すアレを――作るわ」




