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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第4章 新たなるヒント

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76話 0と1の亡霊

 島の周りを一通り歩き回ったころには、足が砂に取られて重くなっていた。

少し開けた場所を見つけ、そこで火を起こして今夜の寝床にすることに決める。


ポルックスは、火のそばに腰を下ろすなり眠ってしまった。

無理もない。海を漂い、ようやくこの島に辿り着いたのだから。


火の温かさが、じんわりと体に染みてくる。




波の音が一定のリズムで浜に寄せては返していた。

焚き火の火がぱちぱちと弾け、赤い火の粉が夜空へ消えていく。


煉が、小枝を火にくべながらぽつりと言った。


「……黒甲冑。あいつ、なんであんなタイミングで現れたんだ」


わたしは海の向こうの暗闇を見つめながら、口を開く。


「はじめはシルフィアが占った時、次はシャワー室。 2つとも関連は無さそうね」


わたしたちの動きを、何らかの方法で捉えて移動してきた――

そう考えると、「移動」というより「転送」という言葉のほうがしっくりきた。



少し考えてわたしは口を開いた。




「ねぇ、これ完全に仮定なんだけど……」

「うん?」


「もしかしたら、あれって“転送”なんじゃないかなと思って」


煉が眉を寄せる。


「転送って……瞬間移動みたいな?」


「そう。でね……」

わたしは砂に指で点を打ちながら説明を続けた。

「もし魔法を科学で解析したら“データ転送”に似た仕組みだとしたら、

 黒甲冑の姿って、いったん“数字の列”に変換されてるのかもしれない」


「数字の列……」


「わたしたちの世界で言えば 2進法。」


煉はまばたきをした。


「……人ひとりを、その……0と1に?」


「理論上は可能よ。この世界の魔法ならね」


焚き火が、ぼ、と少し強く燃えた。


煉はしばらく黙っていたが、やがて砂に落ちていた木の実をつまんで投げた。


「……明里。

 それ、普通に怖い話になってるぞ」


「え、そう?」


「だってお前さ。

 “黒甲冑が実は数字の羅列かもしれない”って言ってんだぞ」


「いや、だから仮定だってば」


「仮定で怖がらせにくるな」


煉の苦笑に、わたしは肩をすくめた。


「でもね……

 黒甲冑が“こっちの位置にぴたり合わせて来た”理由には、

 これが一番しっくりくるの」


「……転送座標を、何かで指定してる?」


「うん。

 たぶん、わたしたちが動くと“呼ばれる”仕組みがある。

 データ転送で言うなら“アドレス指定”。

 だから……黒甲冑は、わたしの“座標”に同期してるんだと思う」


煉は焚き火を見つめ、静かに言った。


「……じゃあ、あいつは電波みたいなのをキャッチして呼ばれた?」


「かもしれない。でも――」


わたしは火の明かりの先、深い闇を見た。


「転送ってね。

 “送られる側”が必ずしも無事とは限らないの」


「無事じゃないって……どういう意味だ?」


「……数字の配置を間違えたら、全く別物になる。」


火の粉が、ぱ、と夜空に弾けた。


「……もしかしたら」

わたしは、そう言ってから、言葉を選び直した。


「黒甲冑は、“人”として送られてきてない可能性がある」


煉は燃え尽きた炭を棒で突っつきながら


「黒甲冑の件もだけど、この島からどう脱出するか… 荷物がほとんど流されたぞ」




煉は言葉を失ったまま、炎の揺らぎを見つめる。





波の音だけが、暗闇の向こうで続いていた。


わたしは、無意識に自分の手を爪が食い込むほど握りしめていた。

——もし“呼んでいる”のが、わたし自身だとしたら。




翌朝





遠くで、波が砕ける音がした。


それが夢なのか現実なのか判らないまま、煉はゆっくりと目を開けた。

夜明け前の空はまだ青く、焚き火は炭になって、かすかに赤く燻っていた。

パチッと灰の中で何かが弾ける。


――今、一瞬。


立ち上った煙が、人の形に見えた気がした。


煉は瞬きをして、首を振る。

見間違いだ。そう思うことにした。


からだを起こし、周囲を見渡す。


――明里がいない。


「……?」


周囲を見渡すと、少し離れた岩場にポルックスが立っていた。

じっと、海の一点を見つめている。瞬きすらしていない。


「なあ、ポルックス」


声をかけると、ポルックスは視線だけをこちらに向けた。


「明里は?」


少し間があって、ポルックスは顎で浜の奥を示した。


「あそこでゴミ拾いしてる」


「……は?」


煉は思わず立ち上がった。


「あぁ、もう……」


砂を踏みしめながら歩き出す。

確かに、少し先の入り江のあたりで、明里がしゃがみこんで何かを集めていた。


背後から、ポルックスの小さな声が聞こえる。


「まじないしたり、ゴミ拾いしたり……わけが判らない」


煉は苦笑して、そのまま歩みを速めた。


「明里、何してるの?」


声をかけると、明里は顔を上げずに答えた。


「見て、あの入り江 なにか感じる?」


煉も視線を向ける。

入り江の奥では、海の色が微妙に変わっていて、潮が引きずられるように速く流れていた。


「ここから海流が強くなるの。

 たぶん、わたしたちがここに流れ着いたのも、その流れのせい」


明里は立ち上がり、少し遠くの海を指さした。


「この近くを通る船も、難破する。

 操舵が狂うほどの流れが、ここにある」


煉は眉をひそめた。


「……なるほど。で?」


視線を落とすと、明里の足元には、ロープの切れ端や木片、空き瓶の欠片が集められている。


「だからゴミ拾いはなんでしてるの?」


明里は、ようやく煉のほうを見た。


その目は、眠気よりも計算で冴えている。


「ゴミに見える?」


明里はそう言って、足元を一度見下ろした。


「全部、お宝よ」


拾い上げた木片を、軽く叩いてみせる。




「材料?」


「うん」


明里は小さく息を吸って、言った。


「わたしたち、これで脱出しようと思ってる」


波の音が、少しだけ大きく聞こえた。


煉は言葉を失い、入り江と、明里の足元の“ゴミ”を、もう一度見比べた。


朝の光が、海面に細く伸びていた。

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