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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第4章 新たなるヒント

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75話 影が示す方角

 最初に戻ってきたのは、音だった。


ざぁ……ざぁ……と、

何かが寄せては引いていく、単調な響き。


(……うるさい……)


次に、冷たさ。

背中にまとわりつく湿った感触と、

指の隙間を流れていく砂。


(……砂?)


煉は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。


白い光が、滲むように差し込む。

眩しさに、思わず目を細めた。


視界が、少しずつ輪郭を取り戻していく。


空だ。

雲の切れ間から、淡い光が落ちている。


その下――

視界の端で、何かが動いた。


ざぶ……。


波が、足元を撫でていく。


(……海……?)


喉が、ひりついた。

息を吸うと、塩の匂いが肺に刺さる。


(……やばいな。水、結構飲んだか)


咳き込もうとして、うまく力が入らない。

それでも、砂を掴むようにして身体を起こした。


その瞬間――

胸の奥に、別の感覚が走る。


(……待て)


視線が、勝手に動いた。


「……明里」


声にならない声が、漏れる。


少し離れた波打ち際に、明里がいた。

膝をつき、両手を砂についたまま、肩で息をしている。


倒れてはいない。

動いている。


それを確認しただけで、

煉は無意識に、深く息を吐いていた。


(……生きてる)


次に探したのは、もう一人。


視線を巡らせる。


砂浜の奥、少し高くなった場所で、

ポルックスが尻もちをついたまま、呆然と海を見ていた。


「……おい」


喉が焼ける感覚のまま、声を絞り出す。


「ポルックス……無事か……?」


一瞬遅れて、ポルックスがびくりと肩を跳ねさせる。


「は、はい……! たぶん……!」


声は震えているが、返事ははっきりしていた。


三人とも、ここにいる。


煉は、ようやく現実を理解した。小さくなった身体も正常に戻ってるみたいだ。


(……助かった、のか)


海は、すぐそこにある。

そして――ここは、岸だ。


船の影も、甲板もない。


ただの、砂浜。


煉は、無人島という言葉を、ようやく頭の中で受け取った。


――そのときだった。


明里が、ふらりと立ち上がった。




煉は、身体を起こすのもままならぬまま、彼女を見つめる。


(……なんで、もう動けるんだ……?)


明里は砂浜に一本の棒を突き立てた。

それが、地面に対してきっちりと垂直になるよう、何度も位置を直す。

棒の先端が落とす影を、彼女は無言で見つめていた。




影の先に、石を置く。

そして、かすかに呟いた。


「……ずれ、なし」


呪文のようで、呟きとも言えない――不思議な言葉。


煉は眉をひそめる。

(こんな状況で、何やって―― 何かのまじないか? )


明里はそれ以上何も言わず、山の方角を向いた。

煉は慌てて声をかける。


「おい、明里?」


「ポルックス来い」



ポルックスも、少し離れた場所から不安そうに声をかける。

「明里……?」


それでも明里は動かない。

ただ、低くぽつり、と呟く。


「……いないわ」


煉は思わず言った。

「いや、俺はいるだろ」


明里は振り返り、少し困ったような顔で答えた。

「違うの。苔を探して、方角を確かめてただけ」



明里は時計型の方位磁針を一度だけ確かめ、

「……狂ってない」

とだけ言った。





煉は肩をすくめる。




煉は腰をぬかしたようにその場に座り込んだ。

一呼吸し息を吐きながら「……相変わらずだな」とポツリと呟いた。 




だが、その瞳は確かに“先”を見ていた。



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