第7話 新しいわたし、どうですか?
クリスタルビースト戦で手痛い失敗を感じ、改めて装備を整えたい明里たち。
石畳の道、賑やかな商店、そして行き交う多くの人々。
異世界に来て初めての、活気のある町に到着した。冒険者らしき人々の姿も見える。
身なりを整えるには、ここがちょうどいいだろう。町の広場には、防具屋と、どうやら髪の毛を整えてくれるらしき場所が並んで建っている。
明里は、煉に向き直った。
「ねえ、煉。私、ちょっとここで準備したいから、ここで待っててくれる?」
煉は、先を急ぎたい様子だった。
「なんだよ。早く装備整えて、さっさと出発しようぜ」
「大丈夫だって! ちょっとだけだから! すぐ済むから!」
わたしはそう言って、ほとんど言い聞かせるように煉をその場に残し、目的の場所へと小走りで向かった。
(さてと……どんな風にしてもらおうかな……!)
まず向かったのは、髪を結ってくれるらしき場所だ。
中で待っている間、わたしは自分の長いポニーテールを触った。元の世界にいた時から、ずっとこの髪型だった。
でも、これからは冒険者として、戦っていくんだ。長い髪は、やっぱり動きにくいし、邪魔になるかもしれない。
(よし……! 切っちゃおう!)
意を決して、店の人に希望を伝えた。
「戦うのに邪魔にならないように、短く、でも動きやすい感じで……」と。
そして、頭の中で、以前見たアニメのキャラクターの姿が浮かんだ。あの、意志の強そうな……
(風の谷のナウシカの、クシャナ殿下みたいな髪型……に、少しだけ憧れてたんだよね)
そう、彼女のような、きりっとした、短い髪型にしてもらおう。
そして、髪を切り終えると、次は隣の防具屋へと移動した。
ここで、いよいよ新しい防具を選ぶ。
町にあった防具店の片隅で、すすめられた防具に袖を通す……と言っても、上半身はベストだ。
それは、いくつか組み合わせられた、比較的動きやすそうな一式だった。
まず手に取ったのは、暗い茶色、あるいは濃い緑色の、少し厚手の丈夫な布地で作られた上着だ。
胴体部分は二重になっていて、内側には薄く詰め物が入っているのかもしれない。
肩や肘、前腕など、衝撃を受けやすそうな部分には、同じ色合いの、しかし少し光沢のある滑らかな革が縫い付けられている。
デザインとしてはシンプルだけれど、体のラインに沿うように裁断されており、ぶかぶかではない。
そして、下半身。
わたしが選んだのは、耐久性のある、濃い緑色の布地でできたスカートだった。
膝の少し上くらいの丈で、裾が広がりすぎず、側面には深いスリットが入っているか、あるいは計算されたプリーツが施されており、走ったり、足を大きく上げたりしても動きを妨げないようになっている。
布地は厚手で、単純なスカートというよりは、活動的な旅装に合うように仕立てられたものだ。
腰回りや、太ももの側面など、やはり革による補強が少しだけ入っている。
ポケットもいくつか付いていて、これは実用性が高そうだ。
このスカートの下には、頑丈な素材のタイツやショートパンツなどを履くことも想定されているのかもしれない。
足元は、足首までしっかりした、硬めの革でできたブーツ。
紐でしっかりと締め上げることができ、砂利道やぬかるみでも歩きやすそうだ。
そして、手にはめる革製のグローブや、前腕を覆うシンプルなブレザー(腕当て)。
これも装飾はなく実用的だが、革質が良く、丁寧な仕事で作られているのが分かる。
全体として、派手さはない。金属のような硬質な防御力もないだろう。
でも、布と革の組み合わせが、見た目に単調さを与えず、動きやすさと最低限の防御、そしてどこか「冒険者らしい」けれど「洗練されすぎていない」バランスを感じさせる。
特に、要所に使われている革の質感が、ただのボロ着ではない、これから始まる旅への期待感を少しだけ感じさせる。
ごてごてした鎧ではないけれど、これなら戦える。
そして、これなら……元の世界にいた時の「私」から、大きくかけ離れすぎている感じもしない。
これが、異世界に来て初めて身につける、「冒険者・明里」の、最初の一歩となる防具なのだ。
新しい防具を全て身につけ、髪型も整えたわたしは、店の奥にある鏡で自分の姿をじっと見た。
そこにいたのは、休日にゴロゴロしていた、あの時の自分ではなかった。
短い髪。布と革の防具。見た目は、確かに「戦う女」だ。
まだ少しだけ、この姿が自分自身であることに戸惑いがあるけれど、でも……
なんだか、力が湧いてくるような、少しだけ自信が持てそうな気がした。
わたしは、胸を張り、煉が待っている場所へと向かった。
きっと、驚くだろうな。
「おまたせ! どう? 似合う? 似合うでしょ!?」
少し得意げ《とくいげ》に、新しい姿を煉にお披露目した。
クルッと一回転して見せるくらいのサービス精神も発揮した。
煉は、明里の新しい姿を見て、一瞬目を見開き、それからいつものように深い溜息をついた。
「……はぁ」
そして、わたしの頭から足元までをじろじろと見て、ボソッと呟いた。
「……戦いに行くのに、そんな格好かよ。まぁ、似合ってるけどな」
予想通りの、しかし少しだけ残念そうな、いや、呆れたようなツッコミだった。
明里は、その言葉を聞いて、ムッとしながらも、どこか安心している自分がいることに気づいた。
そうそう、この感じ。これが、煉とのいつものやり取りだ。
新しい姿で、新しい相棒と。
明里の異世界での冒険は、ここからさらに本格的に始まっていく。
……けれど、その日の冒険が、とんでもない方向に転がっていくなんて、この時の私はまだ知らなかった。




