69話 小さき者たちの戦場
煉とポルックスが左右に分かれ、
わたしも煉の後ろを追って通路を駆けた。
走り出してすぐだった。
(……なんか、腕がじんじんする)
矢が掠めた場所が、妙に熱い。
毒ではない。痛みもほとんどないのに、
皮膚の感覚がどこか曖昧になるような奇妙さがあった。
通路は薄暗く、床板の影が揺れている。
(……あれ? こんなに通路、長かったっけ?)
走っても走っても、
扉までの距離がなかなか縮まらない。
煉が低く言った。
「明里、離れるな。敵はすぐ近くに――」
その声が、
少しだけ遠くから聞こえた気がした。
気のせいだと思った。
足音が妙に響いて聞こえる。
床板の木目が、やけに“間隔が広く”見える。
(気のせい……だよね?)
通路の奥で、敵が部屋へ飛び込む影が見えた。
煉が叫ぶ。
「逃がすな!」
わたしたちは勢いのまま、その部屋へ飛び込んだ。
――そして。
光のある室内に踏み込んだ瞬間。
「……え?」
世界が、巨大だった。
床に置かれた普通の椅子が、
まるで建物の柱のように太くそびえている。
テーブルの脚は、大木の幹のよう。
部屋の奥に立つ“敵”は、
さっきまで子供ほどに見えていたはずなのに――
今は大人よりも遥かに巨大だ。
煉が息を呑む。
「……違う。
敵が大きいんじゃない。
“俺たちが小さくなったんだ”」
その瞬間、
掠めた矢の痕が、ひどく熱く脈打った。
(あの矢……これを?)
敵が喉の奥で奇妙な声を鳴らした。
嘲笑うように、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
わたしたちは
――完全に、小さくされていた。




