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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第3章 道

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第65話 指先の予兆

(……逃げられない。でも、わたしひとりなら……)


 呼吸を整えた、その時。


「明里!! こっちだ!!」


 レックスが叫んだ直後――

 世界から音が抜け落ちたような“間”が落ちる。


 雨の粒だけが、ぽつ、ぽつ、と土に落ちる。


 そして。


「……明里……」


 たった一言なのに、

それは雨よりも静かで、胸の奥を締めつける声だった。

ほんの一瞬、世界が止まったように感じた。



 思わず振り返りそうになる。

 だが次の瞬間、仲間たちの叫びがそれをかき消した。


「明里!! 行くな!!」

「逃げろッ!!」


叫び声が、雨に飲まれて遠くなる。



 黒甲冑がゆらりと首を向けた。


「仲間の声に反応したな。逃げる気か?」


(――罠にかかった)


 わたしはわざと仲間の方へ後退した。


 黒甲冑が追う。

 その背後――足元の泥は限界まで緩んでいる。


(あと二歩……)


 黒甲冑が手を伸ばす。


「終わりだ、明里」


「……そうだね」


「――シルフィア!! 今!!」


「グラビティ・プレス!!」


 重力が叩きつけられ、黒甲冑の足が泥に沈む。


「効かない」


 黒甲冑が跳躍しようとした瞬間、表情が揺れた。


 ――沈みすぎている。


 足元の泥が崩れ、濁った土砂が一気に流れ落ちていく。

黒甲冑の足場が、完全に砕けた。

(狙い通りだ。効かせる場所は“身体”じゃない)



「……しまっ――」


“バキィィィィィッ!!”


 地面が割れ、斜面が崩れ落ちる。


“ズドォォォォォォン!!”


 黒甲冑の巨体ごと、濁流に押し流されるようにして下へ消えた。



 「逃げられぬぞ……明里……」


その声は、泥に飲まれながらも“裏返ったように”響いた。


思わず、息が止まった。



崩落の轟音が止み、雨だけが静かに降り続けていた。


「……終わった、のか?」


 レックスが斜面の縁から下をのぞくが、そこには濁った土砂が広がるだけだった。

 黒甲冑の姿は、どこにもない。


 シルフィアが肩で息をしながら呟く。


「魔力反応……消失。たぶん、完全に埋まったわ」


 誰もがぐったりと座り込み、その場に“戦いの終わり”が流れた。


「急ごう……時間がない。目的地まで行かないと」


 わたしは泥のついた髪を払って立ち上がり、みんなを促した。

 

 仲間たちはそれぞれの痛みを引きずりながらも、前へ進む。


 雨だけが静かに降り続けていた。

 その雨音が、さっきまでの戦いが幻だったかのように感じさせた。



 ――そして、誰もいなくなった斜面で。


 濁った土砂が、わずかに“ぼこり”と膨らんだ。


 静寂の中、

 泥の表面から 黒い金属の指先が一本だけ ゆっくりと突き出した。


 ぴくり、と。


 その指が、わずかに 動いた。


“ギ…ギギ…ッ”



 すぐにまた雨に埋もれ、見えなくなる。


 


終わったはずの戦いは、終わっていなかった。

――あの黒い“指”が、そう告げていた。



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