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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第3章 道

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第62話 逆炎の召喚

 わたしは、未開の地へ向かうために二日をかけて準備を整えた。

できれば、出発の日くらいは晴れてほしかった。

けれど、空は一度も青を見せず、細い雨が途切れることなく降り続いていた。


レックスが馬車を用意してくれた。

それに乗って山の入り口まで行き、そこからは徒歩で山を越え、

近くの港を目指す――それが、今回の旅のルートだ。


雨脚は強まり、土の匂いが濃くなる。

灰色の空の下で、煉だけがやけに張り切っていた。

それが、この地から離れることへの安堵なのか、

それとも、嵐の中でも動き出したいという焦りなのか――わたしにはわからなかった。


「明里、荷物は全部馬車に入れといたぞ! ポルックス、そろそろ出発の時間だ!」


煉の声が雨音を切り裂くように響いた。

その明るさが、少しだけ救いのように感じられた。


馬車の車輪がぬかるみに沈みながらも、ゆっくりと進み出す。

山道へ近づくほどに霧が濃くなり、視界は白に染まっていった。





山の中腹に着いた頃、雨は小降りになった。

一行は岩陰に身を寄せ、簡単な休憩を取ることにした。


シルフィアが焚き火のそばに腰を下ろし、濡れた外套を絞る。

その瞳がふと、荷袋からのぞくタロットカードに向いた。


「……ちょっと気になるの。今の“流れ”を見ておきたい」


わたしが頷くと、シルフィアはカードを取り出し、

小さな石の上に並べていった。

湿気を帯びた風が吹き抜け、焚き火がかすかに揺れる。


彼女の指先が静かに一枚をめくる。

「……過去、運命の輪」

次の一枚。

「現在――塔」

彼女の眉がわずかに動いた。


そして、最後の一枚。

「未来――……悪魔デビル。」


その瞬間、焚き火の火が“ぼっ”と音を立てて跳ねた。

湿った空気の中に、焦げたような匂いが広がる。

カードの表面がじわりと黒く染まり始めた。


「……シルフィア、それ……」

わたしが声をかけた瞬間、

カードの中央から“黒い煙”のようなものが漏れ出した。

それは形を持ち始め、ゆっくりと人の輪郭を描いていく。


カードの中央から漏れ出した黒煙は、

まるで逆再生の炎のように、内側へ内側へと収束し

やがて“人”の質量を持ちはじめた。


黒い塊が脈動するたびに、焦げた匂いがさらに濃くなる。


「……なっ、これ……召喚……?」

シルフィアの声が震える。


黒煙は肩、胸、腕、と順に形を固めていき、

鎧の表面がぎしりと音を立てながら形を結んだ。


――黒甲冑。


焚き火の明かりが、その漆黒の表面に鈍く反射した。


わたしが剣に手を伸ばした瞬間だった。


「危ないっ!」


シルフィアの身体が本能的に横へ跳ねた。

その横を、黒甲冑の拳が風を裂きながら通り抜けていく。

ほぼ同時――カードから黒甲冑の腕が振るわれ、

“拳”が空気を裂いた。


岩壁に叩きつけられた拳が、石を粉々に砕く。


遅れて、甲高い衝撃音と破片の雨が周囲へ散った。


「……ッ、マジで……来やがったかよ……!」

煉が息を呑み、剣を抜き放つ。


その身体はまだ形を結びきれず、胴のあたりは黒煙が渦を巻いている。

それでも、その赤い双眸だけははっきりとわたしを捉えていた。

黒甲冑の喉奥から、金属を擦るような声が漏れた。

「……ようやく、追いついた……」


山の空気がひやりと冷え、思わず肩がすくむ。

焚き火の炎も、怯えるように小さく震えた。


わたしの心臓が強く脈打つ。


――逃げられない。

――この山で決着をつけるしかない。


煉が前に出た。

ポルックスが杖を構え、レックスが即座に周囲の地形を見定める。


そして黒甲冑は、崩れるように揺らぎながら、

再びシルフィアへ拳を叩きつけようと踏み出した――。




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