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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第3章 道

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56話 学習する戦車

 ブリキの胸部パネルが――再び、激しく回転を始めた。

パタパタパタパタ……音が部屋中に反響する。

表示が次々と切り替わっていく。


『除去』

――停止。

……しかし、すぐにまた動く。

パタパタパタパタ――。


『排除』

――停止。

再び、狂ったように回転。


音が次第に高まり、まるで意思を持ったように脈動する。


そして、最後に止まった。





『殺戮』

文字が赤熱し、空気が金属の焦げる匂いで満たされた。

明里の喉がひとりでに鳴る。


一瞬、空気が凍りつく。

明里の呼吸が止まった。


「……待って、それ以上は――!」


ブリキの胸部装甲が開く。

内部の機構が唸り、銃砲がせり出してくる。

その動きには、もう理性のかけらもなかった。


「――伏せて!!」

シルフィアが叫ぶ。


次の瞬間、

金属の銃口が閃光を放ち――。


ダダダダダダッッッ!!!!


耳をつんざく轟音。

弾丸が本棚を貫き、紙と木屑が爆ぜる。

文字が、知識が、悲鳴のように宙を舞った。


「くっ、まるで暴走してる!」

明里が机の影に身を滑り込ませる。

その目には、恐怖よりも“理解しようとする”光が宿っていた。


「違う……ただ壊れてるんじゃない。

 “感情”を――模倣してるのよ」


ブリキのパネルが再び明滅する。

『怒り』『激怒』『憤怒』


胸部装甲がゴトリと重く揺れ、腕や脚がぎこちなく軋む。

関節が回転し、脚部がわずかに広がる。

まるで射撃時の反動を学習し、安定姿勢を取ろうとしているかのようだった。

戦車が地面を踏みしめるように、金属の足が床をきしませる。

次の瞬間――ギギギ……と、両脚が奇妙に折り曲がった。

関節が反転し、太腿部が胴体へと押し込まれていく。

代わりに、脚部の内部から鋼鉄のベルトがせり出した。

それはゆっくりと床に触れ、細かなローラーが滑らかに回転を始める。


「……キャタピラー?」明里が息を呑む。

金属が床を削るような音が響き、ブリキの胴体が低く沈む。




関節が裏返るたび、内部の歯車が火花を散らした。

鋼が軋むたびに“人の姿”が削ぎ落とされていくようだった。


人型を捨て、“移動効率”を優先する兵器へと進化したかのようだった。

胴体の揺れが安定し、照準が再び明里たちに向けられる。

それはまるで、学習の果てに“戦車モード”へ到達した知性体のように。


時折、棚や机にぶつかるたびに、身体全体が衝撃を吸収して沈む。

そのたびに、胸部の赤外線センサーが点滅し、壁際をなぞるように動いた。

まるで学習中のお掃除ロボが、部屋の形状と障害物の位置を逐一記録しているようだ。

しかし、銃口も胸部パネルも感情に翻弄されて揺れ、照準は狂っていく。

怒りという感情を初めて知った子供のように、身体全体で混乱を表現していた。


銃声が図書館中にこだました。

破片と本の紙片が宙を舞う。

明里は息を荒げながら、倒れた机の影に身を隠す。


「……あの子、見て」

視線の先で、ブリキの番人が棚にぶつかりながら歩いていた。

ギィ……ガシャン、と鈍い音。


「時々わざと棚に当たってる。

 赤外線で部屋の大きさと、障害物の位置を……測ってるのよ」

「測ってる?」

「……まるで、お掃除ロボみたいに」

明里は震える声で笑った。だが、その笑みはすぐ凍りつく。


「違う。あれは、“掃除”じゃない。“選別”よ

 でも……全部“学習”し終わったら、今度は最短距離で、私たちを見つけに来るわ。それにキックを放った時、軸足や筋肉の動きを見てすべて予見してるようにみえた」


シルフィアが眉をひそめる。

「じゃあ、学習が終わる前に止めるしかないってことね」


その時――。

明里の目に、ブリキの背面が映った。

銃撃の反動で一瞬、外装がずれ、

内部の小さな銀色の装置がちらりと覗いた。


「……あれ」

「なに?」

「背中に……スイッチみたいなのがある。

 たぶん、制御用の――止めるための装置! そして学習する前に意外な動きをすれば動揺するかも」


明里の声に、シルフィアが決意の色を宿す。

「了解。私が行く」


「危険よ!」

「平気。相手が“学習”するなら、

 今度は私が“予測できない動き”を見せるだけ それに、あなたを必ず守るって誓ったわ」


そう言って、シルフィアは杖を握りしめた。

ブリキの真正面に立つ。



キャタピラーが低く唸りを上げ、床を震わせながら前進を始めた。

その動きはもはや人の歩行ではなく、機械の“侵攻”そのものだった。

轟音とともに、部屋の形状と障害物を正確に計測し終わってこちらに向かって来てるのは明らかだ。

逃げ場を探すたびに、金属の唸りがこちらの思考を追い詰めてくる――。


パネルがパタパタと回転する。

『警戒』『警戒』『照準』


「シルフィア!」

明里の悲鳴を振り切るように、

彼女はまっすぐ駆け出した。


「――理解不能」

金属的な声。

次の瞬間、閃光と共に銃口が火を噴いた。


ドドドドドッ――ッ!


銃弾が紙と木屑を撒き散らす中、

シルフィアは床を蹴り、軽やかに跳ぶ。


「――理解不能、理解不能!」

パネルが明滅を繰り返す。


シルフィアの体が宙を舞い、

ブリキの頭上を越える。


その一瞬――。

「今だ!」


明里の叫びと同時に、

シルフィアがくるりと背後に着地。


ブリキが振り返る。

『合点』


だが、遅い。


シルフィアの手が、

その銀色のスイッチを押し込んだ。


――カチリ。


直後、ブリキの全身が硬直した。

銃口が空を向いたまま、動かない。


機械音がひときわ高く鳴り、

やがて、静寂が訪れた。


パネルが最後に一度だけ光る。

『停止』


――その直前、ほんの一瞬だけ、表示が切り替わった。


『理解』





シルフィアと明里は息を呑んだ。

だが、もう動くことはなかった。


そして――完全に、沈黙した。


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