53話 ブリキの番人
明里たちは音の出どころを探して、視線を巡らせた。
だが、周囲には本棚と机、そして古い紙の匂いがあるだけだった。
人影も、気配もない。
再び革張りの本に指をかけようとした瞬間――。
『――警鐘』
金属を擦るような音声が空気を震わせた。
直後、机の上に何かがガシャーン!と落ちてきた。
埃が舞い、硬質な音が残響する。
図書館の空気が一瞬だけ止まった。
明里の心臓の音だけが、はっきりと聞こえる。
見下ろすと、それは――まるで古い玩具のような装置だった。
全身を鈍く光るブリキで覆われ、胸の中央には、
駅の掲示板のようにパタパタと文字を切り替えるパネルが埋め込まれている。
ところどころ錆び、ところどころ歯車が剥き出し。
なのに、どこか意志のようなものを感じさせる存在感があった。
「……人形、じゃないよね?」
明里が呟く。
ブリキの装置が小さく呟いた。
『――対象、観察開始 魔法無効』
明里とシルフィアが一瞬、顔を見合わせた。
魔法を……“無効”に?
図書館の空気が、さらに冷たくなった気がした。
パネルの表示がまた切り替わる。
『分析』
『判定』
『長考』
沈黙。
わずかに歯車が鳴る音だけが響く。
まるで何かを考えているようだった。
やがて、胸部のパネルが一度空白になり、
次の瞬間――パタパタと板が回転し『審判』と文字が浮かび上がった。
「……なんだか、感情があるみたい」
「感情?」
「うん。『注意』『警告』『審判』……怒りの手順よ」
シルフィアが小さく呟く。
「おもちゃの人形にしか見えないけど――」
パネルが一瞬だけ強く光り、表示が切り替わった。
『――排除』
その言葉と同時に、図書館の扉が音を立てて閉まる。
高い天井の奥で、魔導球が淡く脈打つ。
部屋全体が、生きているように息をした。
空気がざわついた。
誰かの『思考』が、空間そのものに流れ込んでくる。




