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科学で戦う異世界理系JKと、壊れかけの守護者 ~めんどり頼んだら水素爆発しました  作者: 武者小路団丸
第3章 道

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50話 創生の術式とノリ弁の代償

神界時間10:48。


神界査問委員会――無数の光柱が立ち並ぶ白の審議殿。

居並ぶ上級神官たちのはるか後方、女神エリュシアは静かに席を立った。


「えー……今回の“真実隠蔽シール”――通称“ノリ弁シール”の無断使用により、

関係各位ならびに下界管理部へ多大な混乱を招いたことを、深くお詫び申し上げます」


彼女は深々と頭を下げる。

黄金の髪が光の床に流れ落ち、その姿だけが広間の静寂を震わせた。


沈黙のあと、進行役の神官が重々しく口を開いた。


「では、なぜあなたは“目隠しシール”を貼ったのですか?

 本来なら、下界干渉に関する一切は中央神殿の承認を要するはずですが」


エリュシアは、少しの間を置いて口を開く。


「――皆さんもご存じの通り、“創生の大魔道士”の残留思念が、

 私の管理下にある救世主候補の夢へ干渉してきました。

 原因が怨念なのか、あるいは過去の遺物なのかは定かではありません。

 ただ、その干渉を解除するのは容易ではない。

 ……前任の神官も制御に失敗し、大魔道士の“意思”だけがあの世界を彷徨っているのです」


エリュシアの表情がかすかに曇る。


「ですから――私は泣く泣く“目隠しシール”を貼りました。

 あれ以上事を荒立てれば、世界の構造そのものが危うくなると判断したのです」


その場の空気が重く沈む。

しばしの沈黙ののち、咳払いが一つ。


「……しかし、結果的に救世主候補たちは“創生の術式”に接触したのではありませんか?」

委員のひとりが淡々と指摘する。


エリュシアはゆっくりと顔を上げ、わずかに肩をすくめた。


「――えぇ。その通りです。

 けれど、幸いにも“明里”の意識の内側でのみ、それは留まりました。

 下界そのものへ波及する前に、すべてを閉じ込めることができたのです。」



委員長が隣の神官たちと短く言葉を交わす。

低く響く囁きのような神声が、広間の光柱に反響した。

エリュシアの喉が、かすかに鳴る。


やがて、静寂を破って委員長がゆっくりと口を開いた。


「……審議の結果を告げます」


光柱が一斉に瞬き、重々しい声が響く。


「女神エリュシアに――減給三ヶ月。

 そして、下界監督権を一時停止とする。」


その瞬間、空気が一段と重く沈んだ。

光柱の明度がわずかに落ち、白い審議殿に影が走る。


エリュシアは一度、目を閉じた。

次に開いたとき、その瞳にはどこか吹っ切れた色が宿っていた。


「……はい。異議ありません」


彼女は静かに一礼し、踵を返す。

白の扉が閉まる直前、背中越しに小さく呟いた。


「まったく……減給三ヶ月か。今日はやけ酒ね――」



同時刻:下界。


あの騒動から、二、三日が過ぎていた。

明里は、小屋でレックスからあの夜の出来事を聞いていた。


――自分と煉、そしてポルックスは、ピエロの“術”によって意識を奪われ、

その間にレックスとシルフィアが待っていた小屋が襲撃されたのだという。


夢の中の記憶は、断片的にしか思い出せなかった。

形を保たぬまま、霧のように消えかかっている。

胸の奥に残っているのは、得体の知れない恐怖と、

それでも微かに灯る希望だけ。


煉とポルックスと話したが、二人もまた“いやに現実的な夢”を見たという。

内容はほとんど覚えていない。

けれど、その感覚だけが、生々しく身体の奥に残っていた。


――ただ、明里だけは違った。


見たこともない装置に囲まれ、

“魔道士”と呼ばれる者が、巨大なクリスタルビーストに命を吹き込む――

その光景だけが、焼き付いたまま離れなかった。






エリュシア「……はぁ。創生の術式、ね」


同時刻、下界。


明里はぽつりと呟いた。

「――創生の術式、か」


その言葉が、空気の奥で響き合う。

まるで、見えない誰かが同じ言葉を口にしたかのように。


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